413.ウサギのお姉ちゃんもっともっと頑張る
今日はスヴェイン様……ギルドマスターが新しく開発してくれた錬金台の初使用日。
子供たち、楽しんでくれるかな?
「ウサギのお姉ちゃん!」
「ウサギのお姉ちゃん、おはよー!」
「今日も来ることができたよ!」
「最近、順番待ちが長くてつまんなーい」
「ごめんね、皆。その代わり、今日は楽しんでいってね!」
「「「はーい!」」」
うん、子供たちは今日も元気いっぱい!
私も悩み事なんてしていられない!
「あれ、今日の錬金台。ちょっと変わった?」
「うん。青いお水が入ってる」
「それはね、スヴェインお兄ちゃんが新しく皆のために作ってくれた錬金台だよ」
「「「おー」」」
「それなら、戦士系の子供でもある程度は魔力水が作れるって。でも気持ちが悪くなったら後ろで休もうね?」
「うん!」
「じゃあ、初めての子は私のところに集まってね! 二回目の子たちは自由に魔力水を作り始めていいよ!」
今日も初参加の子はそれなりにいたみたい。
参加申し込みは続々増えているって聞いているけど……私の負担にならないよう調整していてくれているのかな。
初参加の子供たちに魔力水の作り方を教えたら、難しい子たちの間を回って教えていく。
でも、今日はとても少ないような?
「すごーい。魔力水が簡単に作れちゃう!」
「本当だ! それに全然疲れない!」
「俺、『剣士』だけど魔力水作れた!」
種は新しい錬金台。
ギルドマスターが試行錯誤して作ってくれた子供向け錬金台、その名も『マジックポーション入り錬金台』です。
あらかじめ錬金台の中にマジックポーションを注いでおくことで、子供たちが使う魔力は微少なもので済み、疲れにくくて魔力の少ない戦士系の子供たちでもある程度楽しめる優れものなんだよね。
マジックポーションを注ぐ手間は増えちゃったけど、一日分の講習用の錬金台百台と予備として五十台は用意してもらえているし、耐久性テストもしたけどとにかく頑丈。
あと、安全装置も超初心者向け錬金台以上にガッチガチにしてあるようで、怪我の心配も更に減ったんだとか。
こんなものが作れるギルドマスターってやっぱりすごいよ。
「ウサギのお姉ちゃん、気持ち悪くなってきちゃった……」
「あらら、ごめんね。君はここまでかな。あとは後ろの椅子で休んでいてね?」
「うん。でも魔力水が自分でできただけでも楽しかった」
そう、問題点は注ぐ魔力量によって中のマジックポーションの消費量が変わってしまうこと。
マジックポーションが空になってしまえば、超初心者向けよりは楽だけど普通の錬金台と一緒で魔力を使っちゃう。
だから、魔力枯渇も起きちゃうんだよね……。
ギルドマスターからは『これ以上の改良は半年以上待ってください』って言われちゃったし、しばらくこれで我慢するしかないし、どうしよう。
マジックポーションをつぎ足しにも専用の道具がいるし……。
ともかく、今日の講習会は何人か戦士系の子供が軽い魔力枯渇を起こしただけで終了。
その子たちも帰るときには元気になってたし、問題ないかな。
問題があるとすれば、帰りにお呼ばれしていたシャルだったわけで。
「……ノーラ。この錬金台。お兄様に頼んで大量発注かけてもいい?」
「えっと……私に聞かれても」
「そうだよね。ああ、お兄様との直接交渉か……また借りが膨らんじゃう」
「ええと、そんなにすごいの? その錬金台」
「すごいなんてものじゃないよ……セティ様なら作れるかもしれないけれど、私の国の錬金術師や魔導具技師じゃ絶対に思いつかない発想でできてる。しかも、錬金術の発動時に内部のマジックポーションを消費するだなんて……子供たちの練習にぴったりじゃない。やっぱりお兄様を手放したのは惜しい……」
「あはは……」
私、知らない間にすごい貴重品をたくさんもらっていたみたい。
実際に、翌日にはシャルが直接錬金術師ギルドに乗り込んできてギルドマスターと直接交渉をしていたみたいだし、かなりの大事だったような。
あとは、マジックポーションのつぎ足しには第二位錬金術師の皆さんも手伝ってくれた。
この程度しか役に立てないからっていいながら毎回なにかと手伝ってくれているけど……本当に感謝です。
でも、最近の悩みは……ギルドマスターに相談だよね。
「ふむ。錬金術講習で錬金術だけではなく、ほかのことも教えたいと」
「はい。我が儘なのはわかっていますし越権行為なのもわかっています。でも、子供たちの興味が錬金術ばかりに向き続けるのもよくないと考えてお願いに来ました」
「なるほど。気持ちはわかりました。ですが、教えるにはあなたにもそれなりの知識が必要です。僕は大抵の生産技術を一通り学んでいるからいろいろと教えられます。貴族教育も受けてきましたので家政の真似事だってさせてあげられますが、あなたには無理でしょう?」
「それは……はい、できません」
「その発想は悪くありません。今のコンソールは国家です。国を支えるにはひとつの業種だけではなく、各業種に満遍なく人を割り当てる必要があります。そういう意味ではほかのギルドにいる講師陣たちにもっともっと頑張っていただきたいのですが……」
「あの……ひょっとして、まだ苦情が?」
「回数は減りましたが来ることがあります。せめてウサギのお姉ちゃんの講習回数を減らしてほしいと。講習申し込みの山を見せたら黙り込んで帰っていきますが」
「……山、なんですね」
「山です。生産系の子供。魔法系の子供。そして、物理系の子供。三パターンに分けていますが、量の差こそあれ数は多いです」
うわあ、私の想像以上に大事になってるよ……。
最近、複数回来てくれる子が段々減ってきているな、とは感じていたけどそんなに多かったんだ。
「それって、申込数を制限するとか、一定回数を受けたらしばらく申し込み制限をかけるとかは……」
「そんなことをしたら子供たちが泣きますよ? エレオノーラさん、耐えられますか?」
「……無理です」
「エレオノーラさんは事務方のことを考えなくてもよろしい。これまで通り定期的に週二日、無理でなければ午前と午後の二回ずつ開催してくれればいいのです」
「うう、せめてしゅうさ……」
「週一日に減らされたいですか?」
「ごめんなさい。もう言いません」
「よろしい。シャルはシャルで、あの錬金台を可能な限り作ってほしいと言ってくるし。あれ、結構大変なのに」
「あ、やっぱり大変なんですね?」
「はい。隠しても仕方がないので話しますが大変です。どんなに乱暴に扱ってもマジックポーションが外に漏れたり内部機構に漏れたりしないようにしなければいけません。その上で外枠は頑丈かつ軽量に、安全装置も厳重に、錬金術行使も簡単にとなると非常に複雑な設計になります」
「それ、百五十台もいただいてよろしかったのでしょうか?」
「ウサギのお姉ちゃんの頑張りはそれだけ評価しているんですよ。ちなみにシャルには設計図も見せました。必要なら買い取っても構わないと告げましたが、シュミットでも大量生産が難しいと言うことでお父様に相談して決めると」
「……本当に百五十台もいただいてよろしかったんですか?」
「はい。ですが、それ以外のことも教えたい、ですか。まあ、悪いことではありませんね。あなたも一人暮らしの練習として料理は習っているでしょう?」
「はい。リリスさんから毎週習っています」
「では、それから始めましょう」
「え、でも火を使うから危ないんじゃ……」
「そこは魔導具技師の腕の見せ所です。少しだけ時間をください。安全なものを用意しますよ」
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「すごい! 火を使ってないのにシチューができてる!」
「ほっかほかだ!」
「うん。でもあまり量は少ないから皆に配れるのは少しずつだよ? あと料理は私も練習中だからあまり期待しないでね?」
「「「はーい!」」」
ギルドマスターは一週間で本当に危なくない加熱器具を作ってしまいました。
魔力を流せば加熱したいものだけを加熱できるという優れものです。
これもシャルが欲しがっていましたが……どうなったのかな?
「それじゃあ、料理の仕方も覚えたよね? 家に帰ったらお母さんのお手伝いから始めて見るんだよ?」
「「「うん!」」」
「はい、では冷めないうちにシチューをどうぞ」
「「「いただきまーす!」」」
これで料理に興味を持ってくれる子供たちが増えてくれるといいなあ。
今度はリリスさんから簡単なお菓子の作り方を習ってみよう。
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