175.強行採決

 翌日は弟子たちの予定を変更し一日魔法の訓練にあててもらいます。


 何時に帰れるかわかったものじゃありませんからね。


「ギ、ギルドマスター。緊張しないんですか?」


「多少は。ですが今までくぐり抜けてきた難事に比べれば易い易い。エンシェントドラゴンと戦うよりも簡単ですよ?」


「ギルドマスター、古代竜エンシェントと戦ったことが?」


「止むに止まれず。一回のみ追い返すことができず、殺してしまったのが反省点ですが」


古代竜エンシェントスレイヤー……」


「そういうわけですので、この程度なら緊張しません。乗っていくのも馬車より高貴なペガサスとユニコーン。なにも恐れる必要はありませんよ」


「は、はい!」


『あはは。ミライってば完全に緊張しているね』


『大丈夫なのかしら? 普通にしていれば落ちないけれど……』


「では、〝敵陣〟に乗り込みますよ!」


「やっぱり〝敵陣〟じゃないですかぁ~」


『……大丈夫なのかしら?』


『さぁ?』



********************



「待たせたな、皆の衆。それではギルド評議会を開催する」


「あ、ああ……」


「うむ……」


 ふむ、これはダメだな。


 やはり荒療治に移らねばコンソールが腐り落ちるか燃え尽きるかいずれかだろう。


 仕方があるまいて。


「今日も態度を決めかねるか」


「そうは言ってもだな、医療ギルドマスター」


「事はコンソールの自治権に関わる問題ですぞ……それなのに……」


「自分たちの椅子を守りたいだけではないのかね? 鍛冶ギルドマスター、服飾ギルドマスター?」


「なにを失礼な!」


「議長とはいえ言葉が過ぎますぞ!」


「私がなにも知らぬと考えているのか? お前たちのギルドでは『下働き扱い』だった下位職たちの造反が起きているそうじゃないか。それによって生産が滞っているのもな」


「う、それは……」


「しかしですな、下位職など……」


「『下位職でも努力次第で結果を出せる』。錬金術師ギルドマスターが何度も結果を出している事だ」


「それは……錬金術師ギルドマスターが〝シュミット〟であるからであって……」


「ならばお前たちも〝シュミット〟を頼れば良い。彼らは必ず結果を出すぞ」


「なにを根拠に……」


「私のギルドでも結果を出している。彼ら彼女らの技術は私でさえ舌をまく程だ。お前たちの勉強にもなろう」


「ですが、我らには我らの……」


「ふう、やはりダメか」


「なにがダメなのか!」


「入場してくれ。シュミット公国公太女様。錬金術師ギルドマスター、サブマスター。冒険者ギルドマスター、サブマスター」


「な……!?」


「ようやくかよ。待たせてくれるな、爺さん」



********************



「入場してくれ。シュミット公国公太女様。錬金術師ギルドマスター、サブマスター。冒険者ギルドマスター、サブマスター」


「ようやくかよ。待たせてくれるな、爺さん」


 医療ギルドマスター、ジェラルドさんから入場許可をいただいたので会場に入ります。


 内部が騒然となっていますが無視です。


「冒険者ギルドマスター、堪えてください。医療ギルドマスターにも議長として最後の選択肢は与えなくてはいけなかったのでしょう」


「まったく時間の無駄だったがな」


 ティショウさんもお厳しい。


「うぅ、ティショウさんもミストさんもなんで平然としているんですか……」


「この程度の殺気には慣れっこですわ。ドラゴンに立ち向かうと考えれば可愛いものです」


「うぅ……うちのギルドマスターは古代竜エンシェントと戦って勝ったて言うし、どうなってるんですかぁ」


「……そのお話は、終わったあと詳しくお聞かせください」


 不味い、ミストさんにロックオンされました。


 僕の使っているエンシェントドラゴンの素材は、すべてエンシェントホーリードラゴンが脱皮したり角や爪、牙などが生え替わったときの廃棄物をいただいたものです。


 なので殺してしまったエンシェントドラゴンはまるまんまストレージに保管されているんですよね……。


 ごまかせますでしょか?


「……椅子に座らないのか?」


「失礼、商業ギルドマスター。考え事をしていました」


「……エンシェントドラゴン素材が余ってるなら冒険者ギルドより高く買い取るぞ」


 こちらからもロックオンされてしまいました……。


「さて、本日すでに態度を決めている両ギルドマスターに来ていただいたのはほかでもない。この場にてシュミット公国との友好関係樹立の採決を採るためだ」


「ま、待て、医療ギルドマスター。いや、議長殿! 今この場で採決というのはいささか乱暴では……」


「冒険者ギルドマスターと商業ギルドマスターが友好関係樹立についての議題を持ち込んでまもなく一カ月になろうとしている。公太女様は錬金術師ギルドマスターとともにシュミット公国からいらっしゃった。これ以上、あそ……待たせるわけには行かぬ」


「遊ばせて、と言いそうになりました」


「実際遊んでいたから仕方がないでしょう、シャル」


「反論できません……」


 ほかにやることがなかったので仕方がありません。


 師匠も毎日メンを連れて近所の公園で子供たちと遊んでいるようですし。


「公太女様からはなにかおっしゃりたい事はありますかな?」


「そうですわね……兄がギルドマスターを務めているため手の出しようがない……と言いますか、兄以上の講師がいない錬金術師ギルドを除いて冒険者ギルド及び医療ギルドには高い満足度をいただいております」


 確かにそうですね。


 僕が見ているのは冒険者ギルドだけですが、この四週間ちょっとで冒険者たちの動きが大分良くなって来ました。


「その上で申し上げます。友好関係樹立はこの際どちらでも構いません。この場で賛成していただいたギルドの方々には、冒険者ギルドや医療ギルドと同じ水準の価格帯で講師を派遣させていただきましょう」


 この爆弾発言は大きな反響を呼んでいます。


 なかなかいい感じですよ?


「ちなみに、冒険者ギルドマスター及び医療ギルドマスターから承認をいただいておりますので両ギルドに派遣している人数と総金額を発表いたします。冒険者ギルドは四人で白金貨千百枚、医療ギルドは七人で白金貨二千五百枚です」


 ここでギルドマスターたちに広がるのは困惑。


 当然でしょう、派遣されている職種は明かされず人数と合計金額のみなんですから。


 さて、この金額を安いとみるか高いとみるか、各ギルドマスターの能力が試されますよ?


「では採決を採ろう。シュミット公国との友好関係樹立に賛成のものは起立を!」

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