聖獣樹

294.二年目春のギルド評議会

 リリスが来てから約一カ月が経ちました。


 春本番の時期ですね。


 そんな中、今日も僕はギルド評議会に出席です。


「子供、お世継ぎ、子供……」


「なあ、スヴェイン。お前の婚約者、色ボケが進行したか」


「いえ、色ボケが進行したのではなくリリスに洗脳されつつあるだけです」


「……あのメイドか」


「はい。アリアが子供を生むのはまだまだ先だと理解しているようで、代わりにミライさんに対して『子供はまだか、世継ぎはまだか』と催促しています」


「……大変だな、おい」


「大変です。僕には育てている時間などないと言うのに」


「あのメイドが全部育てるんじゃねえの?」


「それを恐れています。リリスのことですから絶対にそれを狙っています」


「あのメイドが育てる子供か……なにになるんだろうな」


「確実にシュミット家流で育てます。そして『武聖』に育て上げ、技を継承させるでしょう」


「怖いなおい」


「まったくです。ミライさんもそろそろ復活してください」


「はい! 子供はいつ何人産めばいいのですか!」


「嬢ちゃん……」


「ミライさん、あとでお話です」


 アリアとリリスも交えて話をしなければなりませんね。


 まったく、余計な事を……。


「そういえば、ミストさんは? ミストさんがギルド評議会を欠席とは珍しい」


「あ? 門前までは来てたんだよ。そこで子供たちにとっ捕まったんで欠席させることにした」


「ミストさんも〝スヴェイン流〟を教え込まれましたからね……」


 はい、ミストさんもリリスの教えを最後まで教えられた人間のひとりです。


 冒険者ギルド前はいろいろな意味で危ないため、近くの公園でいろいろ教えているらしいのですが……。


「サブマスター業務に影響は出ていないのですか?」


「あるっちゃあるが気にするほどは出ていない。それより、お前んところのウサギは講義以外でも子供にまとわりつかれて大変だそうじゃねえか」


「エレオノーラさんですか。彼女も積極的に子供向け講義をやってますからね。顔もよく知られてますし、最近は休日も子供に捕まることが多いのだとか」


「大丈夫なのか?」


「むしろ楽しいそうですよ」


「ならいいか」


「いやはや、冒険者ギルドも錬金術師ギルドも好評なようでうらやましい」


 話に加わってきたのは商業ギルドマスター。


 彼のギルドからも事務員が一名マスターしているはずですが。


「商業は集まりが悪いか」


「やはり地味だと考えられているのでしょう。そこそこの人数は来ますが商家の子供がほとんどです」


「地味って言えば家政の、お前んところはどうなんだよ?」


「私どもはそれなりに好評ですな。普段着ることのない服を着ることができ、簡単な行儀作法も身につく。親御様たちからも好評をいただいております」


「そっか、それじゃ……」


「定刻だ。ギルド評議会を開催する」


 ティショウさんが新たに探りを入れようとしたところで医療ギルドマスター、ジェラルドさんがギルド評議会の開催を宣言しました。


 それと同時に会場も静まりかえります。


「さて、本日の議題の前に錬金術師ギルド、並びに錬金術師ギルドマスターに感謝を。子供向け講習会の場所を提供していただき感謝する」


「お気になさらず。スラム街の皆さんががんばって建ててくれた第二支部をいつまでも余らせておくのはもったいないですからね」


「それでもだ。今のコンソールであの広さの建物を自由に使えるなどそうそうない」


「それでしたら各部屋を改装していただいても構いませんよ? 返却するときに元に戻していただければ」


「うむ。それではお言葉に甘えるとしよう。……実は、担当講師からもう少し使いやすい部屋が確保できないかとせがまれていたのだ」


「鍛冶もですね。真似事とはいえ鍛造をやらせるにはテーブルが高いと」


「服飾は……四分の一程度を機織りスペースにしたいと要望が」


「宝飾は特に出ていません。子供たちの様子がよく見えて使いやすいと」


「建築は……ぶっちゃけ外を使わせてもらってるからなあ」


「冒険者もだ。しかし、あの魔法用の的に攻撃練習用の的、それから建物に被害が出ないようにする壁。建築費用がかかったんじゃねえか?」


「ああ、いえ。冒険者ギルドが使っている施設はすべて聖獣たちが面白がって造ったものですから」


「……やっぱり聖獣ってのは理解できん」


「そう言うものだと考えておいてください。僕も契約していない聖獣は対価を支払わない限りなにをしてくれるかはわかりません」


「そういえば、あの第二支部の周りは聖獣……特に小型の聖獣たちが多いですな。何か訳が?」


「建築中にスラムの子供たちが一緒に遊んでいたそうです。もう遊びに来ることはないとわかっていても、一度根城にしてしまうと離れがたいのでしょう」


「やはり理解できませんな」


「さて、本日の議題に移ろう。今の話にも関連するが『子供向け講習会の参加状況』についてだ」


 さて、各ギルドはどのような感じになっているのでしょう。


 外からよくわかる建築と冒険者、自分の管轄の錬金術以外はあまり知らないんですよ。


「まずは私の医療ギルドから。医療ギルドの集まりはあまりよろしくないな。やはり難しいものだと考えられてしまっているのだろう。それでも定期的に来てくれている子供はいるそうなので大切に育てていきたいものだ」


「鍛冶は多いです。ほとんどが男の子ですが女の子たちも混じって仲良くやっています」


「服飾もですね。鍛冶とは男女比が逆ですが楽しくやっていると報告が」


「宝飾は……そこそこでしょうか。想定よりも集まっておりません。細かいデザインが多いため難しいものばかりだと感じているのかも」


「建築はそれなりにだ。子供たちの好奇心が強すぎて怪我をさせないかだけが心配だって言ってた」


「馬車は……開催できないのが手痛い。〝スヴェイン流〟を習えたものはひとりだけいますが、どうやって教えるべきかをまだまだ模索中でして」


「調理はご飯も食べられるとあって人気だね。簡単な料理しか教えないが楽しくやっているそうだよ」


「製菓もですね。お菓子作りを体験できて、自分たちでそれを食べられる。貴重な経験でしょう」


「家政は先ほども話しましたが順調です。執事服やメイド服、それも子供用を用意したのは大きかった」


 その後も続々と各ギルドが発表していき、次は錬金術師ギルドの番です。


「錬金術師ギルドは順調です。色が変わったりものを作ったりと言うのが楽しいのでしょう。……ときどき、僕もヘルプで呼ばれますが」


「そこまで人気かよ」


「ええ、まあ。子供伝いに話が回り、ときどきあふれかえるみたいです。子供を追い返すこともできないと講師のエレオノーラさんからヘルプが入ります」


「あのウサギの嬢ちゃんも子供に優しいからな」


「ときどき僕も見張りに行かないと休日出勤で講義をしていることがあるので気が抜けません」


「やり過ぎだな」


「まったくです」


「一通りの状況は確認した。各自、子供たちに無理のない範囲ですすめるように」


「「「はい」」」


「次、建築ギルドと馬車ギルドからの議題。『木材不足』についてだ」


「ああ、木材が遂に底を尽きそうだ」


「馬車ギルドもです。受注分の木材は確保していますが……」


「商業ギルドマスター、なんとかならんかね?」


「手は回しております。ですが、あの国も締め付けが激しくなり『輸入』しにくいものが出てまいりました」


「『コンソールブランド』への対抗策か……」


「はい。想像以上に締め付けが厳しいようです」


「うむ……錬金術師ギルドマスター、いやスヴェイン殿。公太女様に頼んでいたものは?」


「そろそろできてくるはずなのですが……」


 そのとき会場のドアが叩かれ新たな入場者が。


 シュミット公国公太女ことシャルロットです。


「皆様、お待たせいたしました。聖獣樹を加工するための加工道具すべて届けにきましたよ」


「本当か!? 公太女様!!」


「はい。完成の報せを受け、ロック鳥で受け取り戻ってきたばかりです。ギルド評議会を開催していると聞きすぐにでもお耳に入れればと」


「助かるぜ! 今まさにその話題だったんだ!」


「本当に助かりますな。それで、その品はどこに?」


「馬車に乗せてすぐそばに。ただ、お兄様ならも想像できますよね?」


「はい。そのためにオリハルコンを多めに渡したのですが」


「その結果として本国の加工職人たちは徹夜でしたよ? 滅多に作れないオリハルコン製と言うこともあり、はりきりすぎてもいましたが」


「さすがはシュミット。出来映えも期待していいんですよね?」


「もちろん。ただし、仕上げはお兄様にと丸投げされてきました」


 ああ、やっぱり。


 そうですよね、聖獣樹ですものね。


 本国のように消耗したら作り直しとはいきませんよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る