127.医療ギルドを訪問

 さて、そのあとも何度か騒然となることが多かったギルド評議会ですが、無事スラム街を訪問する許可をいただけました。


 その際の道案内役に、医療ギルドマスターであるジェラルドさんまで来てくださるのは意外でしたが。


 代わりといってはなんですが、先に医療ギルドを訪問することとなります。


「ここが私の、医療ギルドだ」


ですか。覚悟が決まっているんですね」


「もちろんだ。残りの余生も医療ギルドの発展に寄与させてもらう」


「わかりました。僕たちでお役に立てることがあれば、お手伝いいたします」


「私は魔術師系統なのであまり役に立てるかどうか……ともかく、頑張らせていただきます」


「頼もしい。なにか気がついたことがあれば、是非教えていただきたい」


 そう言って、ジェラルドさんは医療ギルドの門を開けます。


 その中は独特の匂いが立ちこめていました。


「嗅ぎ慣れないものには厳しいかもしれぬが我慢してほしい」


「構いませんよ。薬品の匂いですよね。僕も様々な薬品を作りますので」


「私もです。ほとんどはスヴェイン様ですが、私もときどき魔法薬を作ることがあります」


「そうか。それでは奥の部屋に向かおう」


 ギルドマスタールームに向かうのでしょう。


 その道中でも診療の様子が見て取れました。


「あの方はなんの治療をなさっているのですの?」


「彼か、確か高所から落ちたことによる骨折だな。幸い開放骨折には至らなかったようだが……あまり経過がよいとは言えない」


「そうですか。僕が少し手を出しても構いませんか?」


「構わないが……なにをするのだ?」


「いえ、骨がずれているように感じますのでそれの調整、並びに骨がずれないように固定を」


「整復なら我々もやったのだが……ずれている?」


「整復をやったあと、しっかりと固定をしないとまた骨がずれてきてしまうのです。ともかく、僕が治療する許可を患者さんからいただいてください」


「わかった。……すまぬ、少しよろしいか」


「これはジェラルド様。私になにかご用ですか?」


「うむ。そなたに施した骨の治療だが、またずれてきているらしいのだ。そのためそれを再治療する許可をもらえるかな?」


「構いませんが……俺もあまり蓄えが」


「今回の治療は無償で行う。ただ、治療を行うのは私ではなく錬金術師殿だ」


「錬金術師が治療を?」


「はい。治療を担当させていただくスヴェインです」


「ジェラルド様、こんな子供が治療をできるのですか?」


「少なくともそなたの骨がずれていることを見抜いた目は確かだ。どうだ、受けてはみないか?」


「ジェラルド様がそうおっしゃるのなら……」


「決まりですね。それでは、まずこのポーションを飲んでください」


 僕は男性に黄色いポーションを渡します。


 ジェラルドさんは中身に気がついたようですが、男性にはわからなかったようですね。


「坊主、これは?」


「治療をする際に激痛を伴うはずです。なので、鎮痛薬としてのパラライズポーションです。スリープポーションも配合してありますので、目が覚めた頃にはすべての施術が終わっています」


「……ジェラルド様、本当に信じてもいいので?」


「……大丈夫だ。気になるならば、飲まずに施術を受けるとよい」


「坊主、そんなに痛いのか?」


「骨の中にある神経……痛みなどを感じる部位を思い切り刺激しますからね。非常に痛いはずです」


「わかったよ。そのポーション、飲ませてもらおう」


「そうしてください。効果が出るまで数分かかりますので僕たちは廊下で待っています。それでは」


 男性がポーションを飲み干したのを確認し、僕たちはポーションが完全に作用するまでの数分間廊下で待機します。


 その間にジェラルドさんが質問を投げかけてきました。


「スヴェイン殿、あなたはパラライズポーションとスリープポーションの配合と軽く言っていたが……かなりの高等技術ではないのか?」


「そんなことはありませんよ。ポーションの品質が高品質以上で揃っており、配合比率を間違わなければ毒にはなりません」


「その配合比率は教えてもらうことができるのかね?」


「構いません。詳しくはギルドマスタールームに行ってからお答えします」


「よろしく頼む。……そろそろいいのではないかな?」


「そうですね。入りましょうか」


 病室の中に戻ると男性は規則的な寝息を立てていました。


 これなら大丈夫でしょう。


「さて、麻酔用ポーションも効いているようですし、整復を開始します」


「わかった。医療ギルドでも得意とする分野だが、お手並み拝見といこう」


「そう言われればそうでしたね。では早速」


 男性の患部に触り、起きないことを確認します。


 それが終わったら骨の向きを確認、やはり少しですがずれています。


 これではなかなか治りませんね。


 では、一気に整復を試みましょう。


「ふっ!」


「……ほう。見事な手並みだ」


「本職の方に褒められると照れますね。さて、今度は処理しましょう」


「骨がずれないように? そんなことができるのかね?」


「わりと簡単ですよ。まあ、魔術師がいればですが」


「ここからは私の番ですね。それでは失礼いたします」


 僕はアリアに場所を譲り、アリアは患部付近へと念入りに綿を巻き付けます。


 そして……。


「ストーン」


「な!? 綿を石に変えたのか!」


「はい。こうすることで患部がずれることはなくなりますわ」


「なるほど……しかし、これでは治るまでの間どのように生活すればよい? そして、治ったあとはどうすれば?」


「まず治るまでの間ですが、これを使って生活していただきます」


 僕が取り出したのは木組みの杖のようなもの。


 杖と異なるのは上部が三角形に形作られていることでしょうか。


「これは?」


「松葉杖と言うもの……らしいです。使い方は上の部分を脇に挟んで動きます」


「ほう……こうかね」


「そのような感じになります。そうすれば足を固定していても大抵のことはできるでしょう」


「確かに。それで、この男性を目覚めさせるにはどうすればよい?」


「ディスパラライズと気付け薬があれば大丈夫です。元を正せば麻痺と眠りの状態異常ですので」


「わかった。今回は私の魔法で起こそう」


 こうして男性はジェラルドさんの魔法によって目を覚ましました。


 足の痛みが消えたことと足の周りが石に包まれていたことには大変驚かれてていましたが。


 ジェラルドさんから今後の生活の仕方を聞き、僕からどれくらいで治療が終わるかを告げられると男性も元気が出てきたみたいです。


 なんでも、もう一週間以上も入院していたのだとか。


 僕から告げられた日数はそれよりも短かったため、希望が持てたのでしょう。


 こうして、患者の男性に見送られながら病室を去り、ときどき診察をしている患者を見つけたときには効果的な治療法がないかジェラルドさんとともに検討しながらギルドマスタールームまでやってきました。


 医療ギルドのギルドマスタールームにはサブマスターの席がないのですかね?


「どうかしたのかね? 不思議な顔をして」


「いえ、サブマスターはどうされているのかと」


「ああ。サブマスターは別室を用意してある。彼女は彼女で研究があるからな。私と同室ではやりにくかろう」


「そうでしたか。不躾な質問、失礼いたしました」


「気にするでない。それよりもここに来るまでの間に行った議論の価値、その方がはるかに上だ」


「それでしたら助かります。僕も医療ギルドの知識はあまりありませんでしたので……」


「その割に治療術に詳しかったな。師匠殿の教えか?」


「はい。いろいろと教わりました」


「それは素晴らしいな。それで、配合を教えてくれると言っていたポーション類の話だが」


「きちんとお教えします。まず麻酔用ポーションですが、高品質で揃えなければいけません。一般品質が混じると毒になりますのでご注意を」


「わかった。高品質で揃えるというのは難題だが、十分検討の余地はある。配合比率は?」


「パラライズポーションが三、スリープポーションが五、高品質回復ポーションが二です」


「回復ポーションも混ぜるのか?」


「これを混ぜないとほかのポーションの毒性を緩和できません。なので、必須になります」


「わかった。なんとか手配するとしよう。それで、残りのポーションだが……」


 僕は今日の治療で披露したポーション類の配合を詳しく伝えます。


 コウさんやシュベルトマン侯爵が聞けばこの知識も白金貨並みだと言われそうですが、僕としてはこれらの知識が幅広く使われてほしいのが本音です。


 アリアも止めてきませんし、教えられる範囲で教えても構わないでしょう。


「ポーションについてはわかった。素材になるポーションがすべて高品質であるのは痛いが……そこも何とかしよう」


「申し訳ありません。何回試しても一般品質では毒性を消せなかったのです」


「いやいや、これだけの知識を分けてもらったのだ。それだけで十分というもの。あとは、あの薬草類をしみこませた化膿止めの包帯だな」


「薬草類の仕入れも難しいですか?」


「……本音を言えば難しい。我々は冒険者ギルド経由で買い取っているのだが、冒険者ギルドとしても毒消し草は貴重な品だ。数を揃えてもらえるかどうか」


 ふむ、それは切実な問題です。


 傷口が膿んでしまうと、治りが遅いだけではなくほかの病を発症する恐れがありますからね。


 本来であれば回復魔法で治した方がよいのでしょうが、多少の傷で回復魔法を依頼するのは高価だそうですよ。


「わかりました。薬草と風治薬、毒消し草なら入手するあてがあります。そちらをあたってみましょう」


「本当か!? それならば助かる!」


「ええ。ただ、入手経路は明かしたくないので冒険者ギルド経由になりますが構いませんか?」


「冒険者ギルド経由であっても、まとまった数が入手できるのであれば問題ない。よろしくお願いする」


「任されました。それで、僕からお願いしているスラム行きはいつになりますか?」


「すまないが、私も仕事を片付けねばならない。五日後で構わないだろうか?」


「はい。僕たちは構いません。ジェラルドさんの都合がいい日にあわせます」


「重ね重ねすまないな。……あと、凄腕の錬金術師と見込んでお願いするのだが、治療薬をひとつ用意しておいてもらえないだろうか」


「治療薬ですか? それはなんの」


「……実は私にも原因がわからぬ。なんとか話を聞くように言い聞かせるので頼まれてほしい」


「わかりました。治療が必要な方がいるのでしたら手助けいたします」


「助かる。では、また当日に」


「はい、当日はよろしくお願いします」


「お願いいたしますわ」


 こうして医療ギルド訪問も終わりました。


 さて、原因がわからないものの治療、どうしたものでしょうかね?


 まずは帰って弟子たちにお願いし、冒険者ギルド経由で薬草と風治草、毒消し草を医療ギルドへ卸す手配をしましょう。

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