996. カイザーの知ること

 僕が持ってきた資料を調べた限りだと、それらしい存在のことは記載されていませんでした。

 影も形も見当たりません。

 腐敗竜も人竜族もなんらかの形で伝承が残っていてもよさそうなのですが、どちらも見つかりません。

 さて、どうしたものか。


『それで我の元に来たのか、スヴェイン?』


「はい。同じエンシェントドラゴンであるカイザーの意見も聞きたくて」


 今日は街を抜け出し、カイザーが守っている街道までウィングで遠乗りです。

 前はコンソールからあまり離れていない場所を警備していたカイザーですが、いまはコンソールとモンスターの居住地域との境目となる森で暮らしています。

 竜災害の際、コンソール近くまで邪竜族の侵攻を許してしまったことをかなり気にしているようですね。

 正直、今回の侵攻は事前に察知できない限り、どうにもならなかったと思います。


「カイザーは『腐敗竜』と『人竜族』という単語に心当たりはありませんか?」


『前にも答えた気はするが、ないな。『パンツァー』と我では生きてきた年月が違いすぎる。あれが微かに覚えているだけのような存在を我が知るよしもない』


「それはそうなのですが。聖竜族の遺跡になにか情報があったりとかしませんか?」


『聖竜族の遺跡か。……待て、確か一番古いほこらに人の姿をしたトカゲの羽を持つ存在が描かれていたような』


「本当ですか!?」


『我が子どもだった頃の記憶だ。ほこら自体はまだ現存しているはずなので、体調がよくなったら聖竜にでも案内してもらえ』


「わかりました。ありがとうございます」


『気にするな。ところで、ニーベとエリナが最近顔を見せないが元気にしているか?』


「ああ、彼女たちですか。元気は元気なのですが……」


『なんだ、なにか言いにくいことか?』


「今度は新市街の子どもたちに錬金術の教育を始めようとしていて困っているんですよね」


 うん、正直いまから始められても困ります。

 まずは大人から知識を固めさせ、常識を塗り替えたところで子どもにも浸透させる予定だったのですから。

 それを真っ先に子どもに行おうとしているあのふたりには困ったものです。

 僕やハービーが止めて一度諦めたようですが、いつまた再燃するか。


『元気ならばよい。昔のようにこなくなったから心配していたのだ』


「あの子たちも竜災害を経てだいぶ変わったようです。竜自体が怖くなったということはありませんが、竜が大挙して攻めてくる『竜災害』の恐ろしさは骨身に染みたようです」


『単体の竜を倒すことと空を覆い隠すほどの群れを滅ぼすことの差は大きいからな。いまのふたりでは竜災害には対応できないだろう』


「ですね。なので、どう対応すべきかもセティ師匠のところに聞きにいっているらしいですよ」


『お前やアリアではないのか?』


「僕たちの場合、『竜の帝になる』で終わっちゃいますから」


 セティ師匠の場合だと『極大魔法をばらまく』で終わりそうなんですけど、竜災害の対処方法で一番効果的なのはそれなんですよね。

 広域に攻撃ができて攻撃力も高い。

 単体向けではないので結果的にコストも優れる。

 竜の群れとは対軍とはまた違ったリソース管理が必要ですが、根本は一緒です。

 どれだけ効率よく相手を減らせるか、ですね。

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