364.つむじ風という名の大嵐

 アルデさんから依頼を受けた翌朝、身だしなみをしっかり整え、朝食もちゃんと食べて臨戦態勢は完璧です。


「エリナ、ニーベちゃん。本当に行くのですな」


「はい。先生がボクたちを送り込んだと言うことには意味があるはずなんだよ」


「です。きっと私たちから見て不適格者は排除しろ、と言う指示なのです」


「しかし、あなた方はまだ十三歳の子供。技術者、職人としての覚悟と誇りは見せていただきましたが……」


「だからだよ、お爺ちゃん」


「私たちより年上なのに甘えているようなにはきついお仕置きを据えてくるのです!」


「……止めても無駄のようですな」


「うん! 先生だって十三歳の冬にはコンソールの錬金術師ギルドを大改革したんだ」


「私たちにだって小さなつむじ風程度、巻き起こして見せるのです!」


「つむじ風ですめばいいのですが。ともかく、無理はしないように」


「「はい!」」


 外に出ると既に待ち構えてたルビーとクリスタルが早く乗れと言わんばかりに背中を向けてきました。


 急かしたくはないのですが、今日はその態度がとっても助かります。


「ルビー、行き先はわかりますか?」


「クリスタルも大丈夫?」


 二匹は一声鳴くと一気に駆け出します


 馬なんかよりもずっと速く。


 街を行く人たちが驚いてこちらを振り向きますが……そんなこと気にしません。


 お爺ちゃんの宿からわずか数分でヴィンド新規錬金術師ギルドとやらまでたどり着きました。


 二匹とも、かなり飛ばしましたね。


 さて、受付で面会の申請です。


「あの、あなた方は?」


「『新生コンソール錬金術師ギルド』から来ましたギルドマスター直下錬金術師、エリナです」


「同じくニーベなのです。アルデさんとの面会を希望します。速やかに」


「は、はい!」


 ギルドの名前が効いたのか、肩書きが効いたのか、それともボクたちの気迫に気圧されたのか。


 受付のお姉さんはすぐさま奥へと飛んで……いえ、逃げ出していきました。


 少し悪いことをしたかもしれませんが、諦めてもらいましょう。


 本当に少しだけ待たされたあと、受付のお姉さんとともにアルデさんがやってきました。


「本当に来てくれたか! 『努力の鬼才の弟子』たち! こんなに早くから来てくれるなんて考えてもみなかったぞ!」


「いえ、のっぴきならない状況なのは理解できましたので。それから昨日は自己紹介できませんでしたがボクはエリナです」


「ニーベなのです」


「……すまない。一人前の錬金術師に対する呼び方じゃなかったな。エリナ、ニーベ。感謝する」


「いえ。それで、ボクたちはどうすれば?」


「大ホールにすべての錬金術師を集めさせる。大ホールの袖で少し待っててくれ」


「わかったのです」


 アルデさんが錬金術師たちを呼びに言っている間、受付のお姉さんに案内されて大ホールの中へ。


 受付のお姉さん、完全に震えてしまっています。


 悪いことをしたかも。


「ニーベちゃん、受付のお姉さんにまで威圧したのはやり過ぎだったかもね?」


「エリナちゃんはまだまだ甘いのです。コンソールのギルド本部ならティショウさんが来てもにこやかに対応します」


「……うん。この街の錬金術師ギルドにギルド本部の基準はまだ早いよ?」


「そうですか? 『コンソールブランド』に並んでもらうなら事務員の質も上げてもらわないと」


「まあ、そうなんだけどね。……あ、錬金術師たちが集まってきたみたい」


「本当です。でも、見ただけで


「そうだね。ボクたちがどこまで火をつけられるか試してみよう?」


「はい。その上でアルデさんが言うを取り除ければ儲けものです」


「そこはアルデさんに期待しよう。あ、アルデさんがこっちに来たよ?」


「私たちの出番はまだのようです」


 ニーベちゃんの言うとおり、まずはアルデさんの状況説明から始まりました。


 最近の錬金術師ギルドがたるみ始めていること、それがポーションの品質にまで影響し始めていること。このままでは昔の錬金術師ギルドのように腐り落ちることなど。


 ボクたち未熟者の目から見てもわかるんですから、アルデさんほどの熟練者だとそう遠くない未来の出来事なのでしょう


「……以上の状況を鑑みて『新生コンソール錬金術師ギルド』からギルドマスター直下錬金術師の二名が現状視察に来てくださっている。エリナ様、ニーベ様。どうぞ」


「どうやらボクたちの出番のようだね」


「この錬金術師ギルドの質がわかるのです」


 ボクたちが演壇に登るとギルド員のほとんどに広がるのは困惑、それから失笑。


 まあ予想通りですね。


「情けない」


「先生もこんな気持ちだったのですね」


「本当にすまない、ふたりとも。情けない大人の尻拭いをさせてしまって」


「いえ、先生が来ていたら、本当にギルドをまた潰していたでしょうから」


「私たち程度でよかったのです」


「……それはそれで怖いな」


 演壇上での内緒話がすんだあとアルデさんが話を続けます。


「おふたりには錬金術の実演をしていただくことになっている。内容はを十回ずつだ。『新生コンソール錬金術師ギルド』ギルドマスター直下錬金術師の実力、よく拝見させてもらえ」


 ボクたちは演壇の中でも更に高い位置に設置された台の上に錬金台を置き早速作業を始めます。


 とは言え、もう既に高品質ミドルポーションはなれたもの、すぐに十回分の作業を終えてすべて瓶詰めしてしまいました。


 それを見たギルド員たちは……更に困惑度合いを深めている人がほとんどですね。


 一部だけ、ものすごいキラキラ、いえ、ギラギラした目でこちらを見ているのは、先生が直接指導したという元冒険者の錬金術師でしょうか?


「とまあ、これが『新生コンソール錬金術師ギルド』ギルドマスター直下錬金術師の実力だ。早すぎて理解が追いついていないだろうから、今瓶詰めしてもらったポーションを前から回していく。じっくりと鑑定してみろ。そして十三歳であってもお前たちの遠く及ばぬ高みにいる相手がいることを実感しろ」


 アルデさんに言われたとおりボクたちの作った高品質ミドルポーションは前の方から順番に回されていきました。


 そして実際に鑑定して崩れ落ちるもの、信じられないというそぶりを見せるもの、更に熱意をみなぎらせるもの反応は様々です。


 でも、そんな中、事件は起こってしまいました。


「くそっ!」


 ギルド員のひとりがいきなりポーション瓶を床にたたきつけ割ってしまったのです。


 それを見たアルデさんはすぐさま指導をしようとしましたが


「あなた、錬金術師失格なのです」


「他人の作品を見て結果を信じられないのはわからないでもありません。ですが、それを壊すなどといった行為。それは錬金術師どころか技術者、職人として失格です」


 ニーベちゃんもボクもこんなに冷たい声が出せるのかと思うほどに冷たい声で宣告します。


 ボクたちの作品を破壊されたことなど


 ですが、を放置すればまた同じことを繰り返すでしょう。


「選ばせてあげるのです。自らこの場を去るか、私たちによって強制退場させられるか」


「え、いや……」


「答えが遅い!!」


「強制退場なのです!!」


 ボクたちの怒りに反応しての元にボクとニーベちゃんの聖獣が姿を見せます。


 そしてすぐさま意識を刈り取り、時空魔法でどこかへ飛ばしました。


 ……安全な場所に飛ばしましたよね?


「……やり過ぎました」


「……帰ったら先生にお小言確定です」


「ああ、いや。俺から許してもらえるように嘆願書を出しておくぞ?」


「自分たちの責任は自分たちでとります」


「それに聖獣さんたちは契約主の怒りに敏感だと何度も教えられたのです。間違いなくお説教なのです」


「……本当にすまない。不甲斐ない大人の後始末をさせて」


「いえ。それよりも、ここのギルドマスターは誰ですか?」


「あ? ああ、いや。不在なんだよ。今は俺が代行している」


「それじゃあ、私たちに勝てたらギルドマスターの椅子を与えるのです」


「お題は……さすがにミドルポーションは無理でしょうから特級品のポーションを先に十回作れた方の勝ちで」


「それくらいがちょうどいいのです。まだまだ成長途中のギルドとは言え、ギルドマスターならそれくらいできてもらわないと困るのです」


「さあ、誰か挑みませんか? そんなに難しいお題ではありませんよ?」


「私たちが十二歳の時には作れるようになったポーションなのです。それくらい簡単でしょう?」


 ボクたちが挑戦者を募ったのに挑もうとする人は皆無、どうしたのでしょうか?


「ああ、いや、こいつら、最高品質のポーションすら安定していないんだわ」


「……そうなんですか」


「期待していたのに残念なのです」


 本当に残念でした。


 もう少しできるかと考えていたのに。


「……こりゃじゃなくて、だったな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る