999. 街道復旧工事の確認

 僕は念のため街道復旧工事の現場にも足を運んでみました。

 お邪魔にならないよう、少し話をしたらすぐに帰る予定です。

 僕みたいなトップがいつまでもいては、手が止まってしまうでしょう。

 とりあえず、近場の作業員に親方の居場所を聞いてみますか。


「すみません、親方はどこに?」


「親方? 親方なら、あっちで指揮を執ってるが」


「ありがとうございます。それでは」


「待ちな。あんた、スヴェイン様だろう? 噂にしか聞かないが、背格好がよく似ている」


 僕の容姿はそこまで有名……でしょうね。

 ギルド評議会の中で唯一の子どもなんですから。


「ああ、そう身構えないでくれ。俺はあんたに礼を言いたかったんだ」


「お礼ですか?」


「そうだ。いま、新市街支部にはいろいろと旧市街からの支援が入っている。それを除いても、新市街で一番最初に支部を作ってくれたのはあんたんとこの錬金術師ギルドだ。俺の知り合いもそこでポーションを収めてるよ。モグリの時代とは比べものにならないくらい安定した収入を得ているそうだ」


「そうでしたか。ですが、あなたはここで土木作業ですが、構わないのですか?」


「ん? 仕事があるし気にしないさ。冬の寒さはさすがにしんどいが、防寒具も暖かい毛布も支給されている。家で凍えて寝るより遙かにマシだよ。それに、ここで働いていれば、3食暖かいメシが食えるからな」


 なるほど、福利厚生もばっちりと。

 それならば大丈夫そうです。

 一部ギルドが先行して乗り込んだことによる不満が出ていないかは心配でしたからね。


「さて、あまり話し込んでいると仲間にドヤされちまう。本当にありがとうよ、コンソールの怪童」


「いえ。お体に気を付けて」


 うーん、どうやら『コンソールの怪童』の呼び名は裏社会のボスだけのものじゃないようですね。

 新市街全域がこれで通っているのだとしたら少々恥ずかしいかもしれません。

 ともかく、いまは親方との確認ですね。


「……ん? 錬金術のじゃないか。目が覚めたとは聞いていたが、もう動き回って大丈夫なのか?」


「危ない場所に行かないのでしたら許可はもらっています。コンソールもまだ非常事態から脱したとはいえません。僕が出歩くことで一種の牽制にはなるでしょう」


「ちがいない。それで今日はこっちの見回りか?」


「そうですね。あと、足りない物資などがないかの確認です」


「足りない物資か……。ちょっと前にやってきたシュミットの将軍様が食糧を豊富に送ってくれたから、いまのところは問題ないな。大型の魔導具も貸してくれる予定だそうだが、そっちは手続き的にすぐというわけにはいかんらしい。まあ、食いっぱぐれる心配はないし、気長に待つさ」


 ディーンは早速動いてくれたようですね。

 やはり仕事のできる弟です。


「ほかに困っていることはありませんか?」


「……いや、特にないな。作業員として新市街の連中に力を貸してもらっているが、思っていたよりも勤勉で助かっている。酒も週に一度振る舞うが、その日以外に飲みたいとは言わない。贅沢を言うなら、少しフルーツも送ってもらいたいな。気持ちばかりだが食事に彩りを添えてやりたい」


「わかりました。いまのコンソールでしたらそんなに難しいことではないでしょう。すぐに手配をかけます」


「おう、頼んだぜ。……しっかし、新市街の連中がお前のことを『コンソールの怪童』と呼ぶ理由もなんとなくわかるな。自分ができることはその場で即決しちまうんだ。普通なら持ち帰ってギルド評議会で予算あわせだぜ?」


「コンソールの復旧をに携わっている皆さんのためなら少しくらい無茶は押し通しますよ。ギルド評議会で跳ねられても、僕のギルド評議員としての報酬から出していい範囲ですからね」


「……そういうところが怪童なんだろうな」


「まあ、やり過ぎなんでしょうが。僕のやり方です」


 民を助けるためなら多少の身銭は切る。

 自分たちの家計が苦しくなるのは論外ですが、そうでないのでしたら民に還元するのが支配者の務めでしょう。

 この辺は貴族として育ってきた結果の性分ですかね。

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