221.ギルド評議会、現状報告会
「……以上のように『聖獣の森』『聖獣の泉』『聖獣農園』すべての構築が完了いたしました。これで僕がこの街周辺に長居しても聖獣たちが暴走することはありません。それに各聖獣たちも疲れたら、森なり泉なりに行ってリフレッシュすることができます。この街が聖獣たちに対する謙虚さと敬意を忘れない限り、聖獣たちもこの街を住処とし、なにかあっても守ってくれるでしょう」
聖獣農園まで完成した翌日、ギルド評議会が開催されるというので現状報告をいたします。
どのギルドの皆さんも引いていますが。
「私が戻っても錬金術師ギルドマスターは評議会に出ていないと感じ、商業ギルドに上位竜の抜け殻丸々一匹分を持ち込むなどなされている事は知っていましたが……そこまで大事になっておりましたか」
「聖獣たちとの共存って意外と大変なんですよ。人間たちと同じように彼らにも憩いの場を提供してあげなければいけません」
「なるほど。それで、最近ときどき妖精の花が商業ギルドに持ち込まれるのもそういったわけですか」
「はい。商業ギルドにはご迷惑をおかけしますが、在庫があふれてきたら調整をお願いいたします」
「そんなことが起こりえるはずがありません。あれほどの商材、多く入荷すればするだけ売り切ってみせるというもの」
商業ギルドマスターは本当に商魂たくましい。
そういえば、あの件はどうなっていたのでしょうか。
「商業ギルドマスター。二度手間かもいたしませんが、王都へ『コンソールブランド』を売りに行ったときの状況をお聞かせ願えますか? 場合によっては、シャルに注文をつけますので」
「いえいえ、公太女様に注文をつけるなど恐れ多い! 『コンソールブランド』の一連の品々、合計白金貨二万と五千五百枚あまりで売り切って参りましたぞ」
「そうですか。支払った講師代に見合う収益が上がっているのでしたら良かったです。元シュミットとしてそこが気がかりで」
「まさかこれほど早く元が取れるなど考えも及びませんでした。各ギルドとも一年でははっきり言って技術を学びきるなど不可能な様子。公太女様には各ギルドよりすでに来年の契約更改もお願いいたしております」
「なるほど。シュミットの技、高く評価していただきまことに感謝いたします」
「いえ、こちらこそ。スヴェイン殿の大嵐があっての今のコンソールです。それ考えれば各ギルドが流した血など少ないものでしょう」
本当によかったです。
シュミットにとってもこの街はモデルケース。
これだけ喜んでいただけているのですから、シャルも内心大喜びでしょうね。
「ああ、気がかりがあるとすれば、ひとつ」
「なんでしょう?」
「公太女様から提示された更新費用なんですが……」
「値上げされましたか?」
「値下げ額を提示されました。いわく、連れてくる費用が発生しないためだと」
「それはよいことでは?」
「街としては嬉しいのですが……あれほどの技術者を安く雇うなど」
「申し訳ありません。コンソールが折れてください。シャルが値下げ額を提示したと言うことは講師陣も納得の上です。もし、講師陣に心付けなどを送ろうとすれば講師陣の不興を買いますのでそれもやめた方がよろしいかと」
「本当に厳しいなシュミット流は」
「そういう世界です、シュミットは。自己研鑽を積まねば上位層はやっていけませんので」
「錬金術師ギルドマスター、いや、スヴェイン殿からの報告はこれでよかろう。今回は錬金術師ギルドマスター不在の間の確認が主な内容だ。鍛冶ギルド、発表を」
「はい。我々もようやく『コンソールブランド』を名乗れるようになりました。講師の皆様からはまだ半人前との評価ですが、仕上げ師もようやくエンチャントを施せるように」
「よろしい。次、服飾ギルド」
「同じく我々もようやく『コンソールブランド』です。やはり魔力操作スキルを軽視している、この国の風潮に染まりきっていたのが痛すぎました」
「次は私の医療ギルドから。我々は順調そのものだ。むしろ、順調すぎて見落としがないのかが怖い」
「ポーションは足りていますでしょうか?」
「シュミット本国より定期的に輸入させていただいている。そちらも問題ない。あとは私の後進が育ってくれればいいのだが……」
「サブマスターはどうなんだ?」
「私は私で新しい配合薬の研究が忙しいのです。とてもではありませんが、ギルドマスターの役職には就けません」
ここでも後継者問題ですか。
難しいものです。
「次は宝飾ギルドからでよろしいか?」
「私どもは順風満帆と言うよりほかありません。シュベルトマン侯爵の奥方様と娘様の作品を見た公爵様よりの注文で、もう一度だけ講師陣だけによる作品を納めさせていただきました。それを見た各貴族様からの注文が殺到しておりますが、講師陣の皆様だけによる作品のご提供はすべてお断りしております」
「足をすくわれぬようにな。シュベルトマン侯爵直下の宝飾ギルドでもシュミットの講師陣を雇ったと聞く。『コンソールブランド』に甘えていてはすぐにひっくり返されてしまうぞ」
「もちろんでございます。上位の仕上げ師は複数エンチャントをかけることもなんとかできるようになりました。後続に道を明け渡すような不始末、決していたしません」
「調理と製菓も同じだ。気を抜かぬように」
「恐れながら、気を抜く暇がないよ」
「左様です。構成員の腕前が一通り上がったのを確認なされた様子でして……さらにもう一段階上の講義が始まってしまいました」
「よかったではないか」
「私らも含めてギルド員たちは大忙しだけどね」
「しかし、自分の腕前が確実に上がって行くのを感じるのは大変素晴らしい。もう大嵐の前などには戻れません」
「建築ギルドは?」
「錬金術師ギルド程じゃねぇが人手がまったく足りん。いまでは近隣の街から噂を聞きつけた下位職が集まってきてくれた。だが、まだまだ足りん。コンソールの街が完全独立した結果、遠くの街で募集できなくなっちまったのが本当に痛ぇ」
「後進の育成は大丈夫なのか?」
「スラムの連中にも話を通してそこで育成の場を兼ねた建築を行っている。本当に職業優位論ってのはなんだったのか、って感じる程下位職だろうと上位職だろうと腕前が上がってくぜ」
「素晴らしいな。では、馬車ギルドは?」
「私どもも人手が足りませぬ。おかげで馬車の納品は三カ月待ちまで伸びてしまっている状況。このままでは半年待ちまでありえます」
「人手を増やすあてはないのか?」
「ギルド評議会の掲示板で募集はかけております。ですが、やはり『馬車ギルド』というのが地味なのでしょうか。コンソールの街以外からは人が集まりません」
「人手不足が由々しき事態か……いずれは、と考えていたがまさか三カ月程度でこうなるとは」
「家政ギルドもなんとか人手をやりくりしている状況ですな。コンソールの街で働きに出ている皆様方のほか、ほかの街より行儀見習いとして勉強に来る方々も増えました。そういった方々の指導員が厳しく、いまは行儀見習いの募集を一時中断、次の募集は三カ月後と発表いたしております」
「魔術師ギルドは?」
「頭が痛い。いや、新しい研究課題が次々と見つかっていくのだ。それらを順序づける作業だけで私の時間が奪われる。私も研究に参加したいのにそれが許されない。実に悩ましい」
「よかったではないか。この十年、ずっと研究課題がないとぼやいておったくせに」
「……この十年を取り戻したい気持ちで山々です」
「それを言い出せば私とて五十歳は若返りたい。宿屋ギルドは」
「大好評。それしか言うことなし。最上級もだけど安宿も満足度はバッチリ。悩ましいのは、もっと宿屋を増やせないか、その一点だけだよ」
「人手が足りぬか場所が足りぬか。たった三カ月でこうも様変わりするとは……」
「コンソールの街。広げる事ってできねぇか?」
「ふむ。スヴェイン殿はどうお考えか?」
僕ですか。
いや、僕ですよね。
このあたりの地域は僕がすべていただいてしまいましたし。
「構いませんよ。僕とアリアの『クリエイト・シティウォール』で壁も作れますし」
「それは心強い。年内にも結論を出そう」
「それでは学園都市の建設はそれ以降に始めます。コンソールとぶつかってしまっては申し訳ありません」
「……スヴェインよぉ。いっそのこと学園都市を、いや学園都市にコンソールを組み込んでしまったらどうだ?」
「さすがにそこまでやっては侵略です。最後の一線はわきまえねば」
「よく言うぜ。冒険者ギルドだが、聖獣たちが作ってくれた『試練の道』が大好評だ。踏破者は『超々初心者向け』ですらほとんどいないが、それでもコンソールの街に居着いている冒険者どもは諦めずに対策を練って挑んでいく。外から来ている根性なしどもは知らん」
「端的だな。錬金術師ギルドサブマスター。錬金術師ギルドマスターに言っておきたいことは?」
「山ほどありますが……この場で言えることはひとつだけ。ギルドマスター、半日で構いませんのでお時間を空けてください」
おや、久しぶりの催促ですね。
頼まれていた魔力操作スキルの教本も作って……なぜかすべてのギルドに行き渡ることとなりましたが、それ以外に僕が半日も時間を割くようなイベントが発生したのでしょうか。
「夏にギルドへ入門した見習いたちが想像以上に頑張った結果、高品質マジックポーションまで全員安定しております。また、一般錬金術師の方々は最高品質マジックポーションを安定し始めています。アトモさんたちのグループもめざましい勢いで成長をしております。そろそろ昇級試験をお願いいたします」
「なるほど。夏に入ったのにもうそこまで」
「一般錬金術師の方々に比べれば遅い方ですよ? 実際、一般錬金術師の皆さんは『ギルドマスターに勝てない』と本気で悔しがっていましたから」
「ふむ。僕もまだまだ後進に道を明け渡すのは無理なようです」
「当然です。まだ、ギルドマスターには働いてもらわねば困ります」
「そうですな。『コンソールブランド』を扱う身としてはミドルポーションも取り扱いたい」
「冒険者ギルドも同じ意見だ。あいつら効果は一緒だって言い聞かせてんのに、まだ『カーバンクル』狙いをやめないんだよ……」
「ままなりませんね」
「まったく」
「改革が始まると痛いほど痛感するぜ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます