646.滞在一日目:初日の行動方針
いろいろと話が弾んでいるうちに夜になってしまい、解散となってしまった昨日の夜。
翌日は朝食時から行動開始です。
我が家の人間は全員落ち着いていないのですが。
「……どうしたのだ、全員落ちつかない顔をして?」
「ああ、お父様。僕たちの家だと全員もっと早起きをしてなにかをしているんですよ」
「なに?」
「私は魔術書などを執筆しております」
「私は機織りの練習などです」
「私とエリナちゃんは薬草畑の管理と朝の訓練なのです」
「ええと、私はお店の商品を作っていて……」
「私は……リリス様から毎日出されている課題を少しでも進めています」
「皆様が起きていらっしゃるのです。使用人である私が起きていないはずもないでしょう?」
「いや、そうだろうが……睡眠時間は大丈夫か?」
「全員最低限の睡眠時間は確保しています」
「守らなかったらリリスさんの指導なのです」
「ボクたちも夜遅くまで調べ物をしすぎてたまに怒られるからね」
「私もデザインの研究でつい……」
「スヴェイン。お前の家は勤勉すぎるぞ……」
お父様から呆れられてしまいましたが……昔からこのペースでしたからね。
こちらにきている間に生活リズムが崩れないかだけが不安です。
「ともかく、全員揃ったわけだし朝食だ。今日の予定はそのあと確認する」
お父様の宣言で朝食が始まり、それが終わると予定の確認。
と言っても僕たち夫婦は決まっているのですが。
「ふむ、スヴェインとアリアにユイ、それからリリスはユイの両親に結婚の報告か」
「はい。遅くなってしまいましたが」
「ユイったら私たちが行くと絶対にご両親が謙遜するから報告に行くなと」
「……まあ、普通はそうなるだろうな。お前たちは家を抜けたとは言え本来は領主家の跡取りとその夫人だったのだ。自分の娘がそんな大物の嫁に収まっている、しかも向こうからあいさつに来るなど想像も出来ないだろうよ」
「はい。ですが、このタイミングを逃せばちゃんとあいさつできるかわからないので覚悟を決めました。その……お父さんとお母さんにも覚悟をしてもらいましたが」
「その様子だったようだぞ。先触れとして屋敷の使用人がユイの両親に知らせに行けば腰を抜かす程の騒ぎになっていたからな。ユイの姉が出てきて事なきを得たらしいが」
「あ、お姉ちゃん、お父さんたちと暮らしていたんだ」
「そうらしい。実家から通いで食堂に勤め、いずれは自分の店を持ちたいと聞いた。先へ先へ進む妹に追いつけないのが悔しいとも言っていたそうだが」
「そっか。お姉ちゃんも頑張ってるんだ。よかった」
「それで、いつでる予定だ?」
「この時間では朝食を食べ終わっているかどうかでしょう。もう少し経ってから出ることにします」
「わかった。ほかの者たちは?」
「うーん、私たちはやることがないのです」
「どうしようか、ニーベちゃん」
「やることがないのでしたらシュミットの空気に触れてきてはどうですか? コンソールとはまた違う風が吹いているはずです」
「それは楽しそうなのです!」
「そうしよう!」
「ユイのご両親へあいさつが終わったら僕たちも合流します。そのあとは……適当に街中のお店でも見て回りましょうか」
「はい!」
「シュミットで売っているもの、気になります!」
「掘り出し物探し、してはいけませんわよ、ふたりとも」
「……ダメです?」
「シュミットの掘り出し物も興味があったのですが」
「シュミットの職人に譲りなさい。それでなくとも、あなた方は大量の卵を孵しているのに」
「えへへ……」
「探すのと孵すのが楽しくて……」
「と言うわけで、あなた方はしばらくシュミット観光です。私たちと合流したあとはシュミットのお店を巡りますよ」
「わかったのです」
「わかりました」
「サリナはどうしますか?」
「デビス様に伺いましたがさすがに今日は指導してくださる方が用意できないと言うことでした。私も街の服飾店を見て歩きたいです、よろしいでしょうか?」
「構いません。あとでおこづかいもあげます。昼食代やデザインサンプルになる服を買うときの足しにしなさい」
「よろしいのですか?」
「弟子を国外まで連れてきているのです。少しくらい奮発しますよ」
「ありがとうございます」
「あとはミライですね。あなたはどうなさるんですの?」
「その……この国の物価を調べて回ろうかと。コンソールと比べてなにが高くてなにが安いのか見極められればお役に立てることも……」
「いい心がけです。あなたにも昼食代程度は出しましょう。頑張りなさい」
「はい!」
「それではお父様、一日目はこのように行動いたします」
「わかった。護衛は必要か?」
「全員僕の見えない護衛はついていますが、サリナさんとミライさんだけは護衛をつけてあげてください。彼女たちは一般人ですので」
「……成人したばかりの弟子ふたりは?」
「私たちは契約聖獣さんたちを連れ歩くのです!」
「そうすれば襲ってくる人もいませんよね?」
「……子供たちに襲われないようにな」
ああ、『聖霊郷』ではそっちの心配がありましたか。
ふたりともいい加減子供の相手も慣れているでしょうし、頑張っていただきましょう。
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