931. 三日目:戦闘開始
打ち合わせも終わり、迎撃態勢を取っていると、午前も半ばにさしかかった頃にようやく邪竜族の『帝』が飛んできました。
飛ぶスピードは緩やかですが、大地を汚染する体液を流しながらの飛行は止めていただきたいものです。
完全に現れた邪竜の『帝』の姿は濁った黒と緑色の鱗に、なにかカビのようなものが生えた皮を覆った姿をしています。
そこから常に毒々しい紫色の液体を垂らしているのですからたまったものではありません。
『ようやく来たか。邪竜の『帝』よ』
様子見のためにカイザーから話しかけてもらいました。
邪竜族にはまだ僕が聖竜の『帝』となっていることが伝わっているかあいまいですからね。
自分たちから情報を与える必要もないでしょう。
『ああ、お前の招きに応じ、はせ参じてやってきたぞ、聖竜の『帝』』
招きに応じ?
僕たちは邪竜を呼び出した覚えはないのですが……。
『邪竜の『帝』よ。招きとはなんだ? 我らはこの地に邪竜を招いた覚えはない』
『なにを言うか。お前からの呼び出しは確かに受け取っているぞ』
カイザーと邪竜の『帝』ですが、どうにも話が食い違っています。
邪竜からすれば聖竜側から宣戦布告のようなものを受けたことになっているようですね。
もちろん、そのようなものを送ったことはないのですが。
『……どうにも話が食い違っているな。邪竜の『帝』よ。その話はどこから得た情報だ?』
『我が配下から聞いた情報だ。それが間違っているとでも?』
『我々聖竜族にとっても邪竜族は滅ぼしたい一族であるがな。わざわざ呼びつけたりはしない』
『では、何者が我らを呼び出したというのだ?』
『それは……』
誰が邪竜族を誘い出したのか、その答えは誰にもわかりません。
カイザーが答えに詰まっていると、彼方の方で閃光がきらめき爆音がとどろいてきました。
あれは……『パンツァー』のブレス!?
『なんだ! あれは!?』
『さあな。邪竜族ではないぞ。我々の目的はお前であってコンソールとかいう街を滅ぼすことではない』
コンソールの存在も知っているのですね。
となると、邪竜族も誰かに操られて攻めてきたと考えるのが妥当でしょう。
しかし、話を聞いてくれるかどうか。
『……どうやら、我々はどこかの竜族に踊らされたようだな。それなりの犠牲も払ったのに高く付いた』
『ならば、退く気はないか? あるいは、お前を操っていた竜族を相手に共闘するか』
『邪竜が聖竜と共闘? バカなことを! 我の望みはただひとつ、お前を滅ぼすことのみだ!』
邪竜の『帝』が口の中に力を溜め始めました。
あれはブレスの予兆ですね。
回避すればコンソールを直撃ですから、大きな溜めを作ってもお構いなしに最大出力で攻撃できますか。
本当に面倒くさいことをする。
『行くぞ! 聖竜の『帝』!』
邪竜の『帝』からブレスが放たれました。
それはまがまがしく、おぞましい、黒と紫の輝きが混じり合ったブレスです。
さすがに正面から受けるのはまずいですね。
「時空断層結界!」
僕は時空の狭間を使った壁を何重にも張り巡らせてブレスの威力を相殺しました。
ただ、完全には消しきれなかったので、あとは竜種障壁で受け止めましょう。
『……小僧、何者だ?』
邪竜の『帝』はようやく僕のことを認識したようです。
竜族か竜族と契約した者にしかまとえない竜種結界、それも威力が減っていたとはいえ『帝』のブレスを受け止めるほどの竜種結界を張れる者ですから、人であっても目に留めざるを得ないのでしょう。
「現『聖竜の帝』ですよ。名をスヴェインと申します。よろしく、邪竜の『帝』」
『人の子が『竜の帝』だと?』
「嘘でないのは先ほどのブレスを防いだことから証明されていると思いますが……退く気はないですよね?」
『ふん。倒さねばならぬ相手が変わっただけのこと。お前を始末して『聖竜の帝』を終わらせる!』
あちらは全力でやるつもりのようですね。
僕としてはコンソール方面で鳴り響き続けている『パンツァー』のブレスが気になるのですが、こちらを終わらせないことには加勢にも行けませんか。
『竜の帝』を容易く葬れるとは思いませんが、全力を出させていただきますよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます