266.セティ師匠のあいさつ回り 冒険者ギルド編

「まずはここ、冒険者ギルドですね」


 僕たちがお世話になっている方々へとあいさつがしたいと言い出したセティ師匠を連れて街へと繰り出しました。


 まず最初に紹介せねばならないのはティショウさんでしょう。


「スヴェインが冒険者ギルドとは……意外だね」


「そうですか? 街へ出入りするときの身分証として冒険者ギルドの人間となったのですが」


「ああ、なるほど。それが一番手っ取り早い」


「では入りましょうか」


「私は……久しぶり、でしたでしょうか?」


「僕なんてシュミットでも冒険者ギルドに顔を出さないよ」


 セティ師匠、冒険者ギルドに興味津々なご様子。


 くれぐれも、くれぐれも冒険者の皆さんを挑発しないでくださいよ!?


「ここが冒険者ギルドか……シュミット講師陣が来ているだけあって熱がこもっているね」


「わかりますか?」


「もちろんです」


 師匠はギルドに入るなりそんな事を言い出します。


 冒険者の皆さんも僕が来ることには慣れていますし、アリアもたまに来ているのでそんなに珍しくはないのでしょう。


 ただ、僕たちが敬意を払いながらやってきた見知らぬエルフには興味がある様子。


 殺気、いえ、覇気を向けてきますが師匠には可愛いものでしょう。


「うんうん。ここは心地がいい。さすがはシュミットの風が吹いてる場所」


 さて、ティショウさんたちの元に……。


「ん? スヴェイン。お前が連れているそのエルフ、一体何者だ?」


 ティショウさんの元に行く前にバードさんたち【ブレイブオーダー】の皆さんと遭遇しましたか。


 紹介だけはしておきましょう。


「バードさん。この方は僕の師匠でセティ様です」


「初めまして。セティと言います」


「ん、ああ。そっか、スヴェインの師匠」


「おや? 気になることでも?」


。あまりにも周囲に馴染みすぎている。不意打ちされたら気づくよりも先に死んでるな」


「おやおや。過大評価ですよ。僕はただの『賢者』ですから」


「……シュミットの『賢者』は信用できないからな」


「そうですか? 申し訳ありません。僕も用事がありますので失礼いたします」


「ああ、呼び止めて悪かった」


 さて、今度こそ……。


「スヴェイン。あの方々の武器、あなたが作りましたね?」


「はい。問題がありましたでしょうか?」


。善良な方です。間違った使い道はしないでしょう」


「それはよかった」


 師匠にダメ出しをされると怖い、いえ、ダメだと判断されたらすでに武器を粉々にされていますか。


「すみません、スヴェインです。ティショウさんに面会をお願いします」


「スヴェイン錬金術師ギルドマスター。ただいまでしたらギルドマスターは空いております。どうぞ、ギルドマスタールームへ」


「ありがとうございます」


 受付で予定を確認したらすぐに部屋へ通されます。


 毎回そうなんですが、冒険者ギルドってわりと面会が……いえ、錬金術師ギルドも少ないですね。


 ギルドマスタールームの扉をノックして入室許可をもらってから入ると、いつも通りティショウさんとミストさんがいました。


「よう、スヴェイン。遊びに……って、そのエルフの兄さんは?」


「はい。僕の……」


「スヴェインとアリアの師匠、セティと申します。不肖の弟子たちがお世話になっているそうで」


「スヴェインとアリアの師匠!?」


「と言うことは『大賢者』セティ様!?」


「いえいえ、僕などただの『賢者』ですよ。……若い頃、戯れで作った神薬のせいで少しばかり不老不死になっていますが」


 ……師匠。


「セティ師匠、それは私どもも初耳ですよ?」


「どうして話してくれなかったんです?」


「語るほどでもないかと」


「……確かにスヴェインとアリアの師匠だ。格が違う」


「え、ええ。で神薬を作るだなんて。それも不老不死と言うことはアムリタ……」


「いやはや。おかげで時間を持て余す始末です。弟子ふたりのおかげでこの数年間はとても濃密な時間を過ごせていますが」


「……おい、スヴェイン、アリア。俺たち、どう反応すればいい?」


「反応に困るのですが……」


「普通に接していただけますか?」


「師匠はこう言う御方ですわ……」


 まったく、どこまで本当でどこから嘘かがわからない爆弾を。


 そのあとは、少しばかり歓談を行い……いえ、師匠が一方的に質問を繰り返していただけですね。


 それが終わって、あまり業務を邪魔しても悪いので帰ろうとしたところ、師匠は目ざとくあるものを見つけてくださりました。


「……失礼。そちらの武器は弟子の作品ですね」


「あ、ああ。スヴェインから白金貨五百枚で作ってもらった」


「本来でしたらその十倍以上のお値段でも足りないというのに申し訳ありません」


「いえ、弟子がその金額でいいと言ったのでしたら構いませんよ。ですが……」


「「ですが?」」


「スヴェイン、冒険者のギルドマスターとサブマスターに作って差し上げるのです。もっと質のよいものを差し上げなさい。あなたなら同じ素材でもう五段階は上の装備を作れたでしょう?」


「「五段階!?」」


「ええ、まあ……ただ、その頃はまだ旅の錬金術師で、ティショウさんたちとの間柄ものつながりでした。いまのように同じ街の仲間でしたら全力で作るのですが」


「おい、スヴェイン? 師匠が言ったことは本当か?」


「こんな国宝なんて目じゃない武器でもまだまだ全力ではないと?」


「はい。本気でしたら一週間くらいかけての作製になります。錬金炉に入れた素材も少なかったですし、魔宝石も同じ石でもっと質を高められました。さすがに、一冒険者ギルドマスターがそんな対軍兵器を持つのは危険かと考えてをさせていただいたのです。申し訳ありません」


「「……」」


「おや?」


「あれ?」


「師匠もスヴェイン様も、おふたりの心臓に悪いことを教えないでくださいまし」


「……なあ、スヴェイン、お前だったら武器だけで災害級魔物と戦えるものを作れるんじゃないのか?」


「さすがに武器だけでは。〝シュミット流〟までマスターしていただければ最上位竜と戦えるものができますけれど」


「いや、俺にはいまある武器でも手に余るからそんなものいらん」


「私もです。常識を吹き飛ばすどころか国まで吹き飛ばさないでくださいな」


「まあ、さすがにそれほどの武器は僕でも公王様とディーン、オルドにしか渡していないのですが」


「ディーンとオルドはそこまでの使い手になっていますか。勝ち目がありませんね」


「あのふたりも『魔法ありならスヴェインに負ける』と考えています。お互い様ですよ」


「そうですか? そういうことにしておきましょう」


「おふたりとも、そろそろお暇しませんと」


「ああ、そうでしたね。それでは、今後も弟子たちをよろしくお願いいたします」


「ティショウさん、それではまた」


「失礼いたします」


 師匠が余計な事を、ともかく冒険者ギルドは終わりです。


 次はどこがいいでしょう?



********************



「心臓に悪かったぜ……」


「去年の冬に武器を作っていただいて正解でしたわ」


「あの師匠にしてこの弟子ありか」


「よくよく考えてみれば最初におふたりが冒険者ギルドに来たときもとおっしゃってましたよね……」


「あんときは子供の戯れ言と感じて聞き流していたが、実力を知っちまったいまだと出せって言わなくてよかったと思うぞ?」


「ええ、まったく。今日の仕事、手につくでしょうか……」


「さあな……古代竜エンシェントドラゴンに遭遇した気分だ」

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