519.シャニアの外交結果報告 後編

 民衆たちの熱気も最高潮に高まりあとは締めの言葉を待つばかりになりました。


 さあ、一気にたたみかけましょう!


「ぐわぁ!!」


「何事です!」


 後ろを振り返れば近衛兵のひとりが大臣のひとり、あれは……軍務大臣によって切り倒された姿が。


 ……無能、無能とは常に感じていましたが、遂に乱心しましたか。


「軍務大臣、覚悟はおありなのですね?」


「黙れ小娘! お前のようなヤツにこの国の舵取りを任せては国が滅ぶ! やはりズレイカ様亡き後の国の舵取りは我ら大臣職を持つものがやるべきなのだ!」


「私は次期代表。それに刃を向けることは反逆罪です。一族郎党斬首刑は確定。それを承知の上での狼藉ですか?」


「私は国を乱すお前など認めたことはない! 国を傀儡にするシュミットもだ! 国賊であるお前を成敗し、シュミットの公王にもご退場願う! たかだか『剣聖』程度、我が国の兵士が全員でかかれば討ち取れよう!!」


「まことに愚かな……本物の『聖』を知らぬとはここまで無知を晒せるのですね」


「黙れ、国賊!! お前から切り倒す!!」


 軍務大臣の刃が迫ってきましたが……不思議と恐怖を感じません。


 それ以上に今の私を殺せると考えているのでしょうか?


「『ドラゴンウォール』」


 私が張った結界魔法……竜種障壁と同じ効果を持つという障壁を叩きつけた軍務大臣の剣はそれ一回で半ばから折れてしまいました。


「な、なんだ!? 私の剣は【鋭化】を施したエヴァンソン最上級の剣だぞ!?」


「それがエヴァンソンの限界ですよ。私がコンソールの技術を見せて……」


『その必要はないぞ。シャニア』


 いつの間にか私の上には白いウロコを持つドラゴン。


 最上位聖竜のシャイン様がやってきてくれていました。


『危険があるなら早く呼べ。さすがの竜もコンソールからここまでは数秒では間に合わぬ』


「失礼いたしました。この程度なら危険を感じなかったもので」


『竜種結界を破れるものなどそうそういない。だが、心配なものは心配なのだ。輝き始めた原石よ』


「それは失礼を。この愚か者の処置、お任せしても?」


『元よりそのつもり。シャニアに手を挙げようとしたその罪、死して詫びよ』


「な、国賊の娘が竜使い、だと?」


「シャイン様は私の配下ではありませんよ。今は友として私のお願いを聞いてくれているだけです」


『……まあ、そういうことにしておこう。さあ、聖竜のブレス! とくと味わえ!』


「ひっ! そんなわけにはいかぬ!」


 軍務大臣は民衆たちの中へと飛び降り、ブレスから逃れようと必死でした。


 聖竜様のブレスとはその程度で逃げられるものではないのに。


『いくぞ!』


 聖竜様のブレスは白い炎となって解き放たれ、民衆を巻き込みながら軍務大臣めがけて伸びていきます。


 ですが、ブレスに巻き込まれたはずの民衆たちはまったくの無傷。


 ひとりだけ焼け焦げたあとを残しているのは、服装からして軍務大臣でしょう。


『本来であれば服すら残さずに焼き払いたかったが、死んだことも確認すべきなのであろう?』


「お心遣い感謝いたします、シャイン様』


『気にするな。我が最高速で飛ばした結果、出遅れた残りの竜たちも駆けつけた様子だ』


 その言葉に周囲を見渡せば、あの時来てくれていたであろう聖竜様が六匹、エヴァンソンの周囲を守り固めていました。


 その目は怒り狂い、不埒ものを一切逃がさないという姿勢に満ちあふれております。


 そして、アンドレイ公王陛下の元に目を向ければ……軍務大臣が差し向けたであろう兵士たちが山のように死んでいました。


 あれが本物の『聖』の力、その雫未満なのでしょう。


「シャニア次期代表、申し訳ないが襲いかかってきた兵士どもは皆殺しにした! 問題あるまいな!」


「はい。元を正せば身から出た錆、賠償せねばならぬのはこちらの国でございます」


「この程度で賠償などいらぬ。聖竜殿、この者たちを聖なるブレスで焼き払ってくれ。不埒ものの顔など見たくはない!」


『心得た。シャニアも相違ないな?』


「シャイン様にはお手数をおかけいたしますが」


『あの程度造作もない。それから、私のことに〝様〟付けなど不要。シャインとだけ呼べ』


「その……ではシャイン。あの不埒者どもの後始末を」


『承知』


 シャイン様、いえ、シャインのブレスがまた解き放たれ、アンドレイ公王陛下に斬り殺された兵士や騎士たちの姿が消えていきました。


 これが聖竜、神秘の守護者のお力。


 私も間違った使い方をしないようにしないと。


「さて、皆様。驚かせてしまいましたが発表することがもうひとつだけあります。今回の竜宝国家コンソール訪問でとして聖竜族の最上位竜シャインと上位竜六匹が守りについてくださることとなりました。あくまでも守ってくださるのは私ひとり、国を守ってくださるかはこの国の民が輝けるかどうかです。そして竜に守られるという栄光を得た暁には、その栄光が腐り落ちたとき竜によって国が滅ぼされるという結果も招きます。それを忘れないでください」


 さて、今回の発表事項はこれで十分でしょう。


 シャインたちの紹介はまだあとのつもりでしたが、来てしまったものは仕方がありません。


 シャインに至ってはまだ私の頭上近くで飛んでいますしね。


「さて、私からも発表がある」


「ズレイカ様?」


 今まで私の後見人として後ろで控えてくれていただけのズレイカ様が前へとやってきて、発表を始めるようです。


 私は場所を譲り、その発表とやらを待ちます。


「シャニアが竜宝国家コンソールを視察に行っていた間、各大臣など国の要職に就く者たちの汚職について徹底的に調べさせてもらった。その結果、すべての要人たちが多額の不正を行っていることが明るみに出たのである」


「な、なにを根拠に!?」


「根拠ならあるぞ? 私がお前たちの不正改ざん資料をすべて持ち歩いているからな。ここで公表してもよいが……ここでは見にくかろう。明日、国内の各所にてそれらすべてを貼り出すこととしよう。その責を負い、今いる要人たちはすべてこの時点をもって罷免、貴族名鑑からも抹消、私財没収の上どことなりとも消え失せるがいい」


「な、なんですと!?」


「遅かれ早かれ明日にはわかることだ。明日になれば国中に知れ渡り逃げ出すこともままならぬぞ? 今日中に逃げ出す権利を与えているのだ、最後の温情と考えさっさと立ち去るがいい」


「我々がいなくなって国が立ち回るとお思いか!?」


「私がお前たちの分まで仕事をこなして見せよう。シャニア、お前の仕事は残り三年間で、こやつらのような愚か者どもではなく、真に国のことを考え動くことのできる重鎮を育て上げることだ」


「ズレイカ様、それって……」


「集まっている国民たちよ聞け! 予定より早まったが今この時点をもってこの国の代表者はシャニアとする! 竜宝国家コンソールに渡り多くのことを学び、友好関係締結を約束し、竜殿にまで認められるに至った存在! 私のあとを継ぐ資格は十分と考える! 私はこの愚か者どもの後始末で忙しくなるであろうが、今のシャニアであれば立派に国の舵取りを任せられると判断した! シャニア、私のあとを継ぐはあるな?」


 、コンソールで学んできたもの。


 それを活かせないようでは意味がない!


「もちろんでございます。ズレイカ代表。シャニア、この国の発展のため全力で当たりましょう」


「その言葉が聞けただけでも今は十分。お前にもあの愚か者どもの抜けた分の仕事はついて回る。それ以外にも代表としての責務は果たさねばならない。ついてくることが最低条件だぞ?」


「その程度、軽くこなして見せましょう。?」


「一年以内に国の要職を育ててみせよ。それができれば万々歳だ」


「ではそれを目標に頑張らせていただきます。それが私の誇りです」


「楽しみにしているぞ現代表」


「もちろんでございます。前代表」


『その心意気や良し! お前は原石から宝石へと変わった! 我らに守られる栄誉、誇るがいい!!』


 竜様の鳴き声がとどろく中、それに負けじと民衆の声も木魂する。


 さあ、新生エヴァンソンはここからが幕開けです!


 目標は三年でズレイカ様の在命中にコンソールと並ぶこと、絶対に負けてなんかいられません!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る