518.シャニアの外交結果報告 中編
「さて、ここからは今回の視察に基づいた新たな施策の発表です。心して聞くように」
後ろにいる重鎮どもはまだわめいていますがあれは無視です。
民衆の方は静まりかえったままですし早速第一の発表を行いましょう。
「まず、第一の施策。これは各ギルドにおける平等な技術伝授です」
この発表に民衆はまた騒然となります。
ですが、それを無視して続けさせていただきましょう。
「コンソールを含め、彼の地にあった旧国家全体を覆っていた『職業優位論』という石化した時代のしきたりでは、職業の上位下位によって技術の伝授が行われなかったり、ギルドへの入門が制限されたりしてきたそうです。コンソールではそれらのしきたりが一昨年の夏に吹き荒れた大嵐ですべて消し飛びました。私たちの国でもそこまで酷くはないですが、やはり職業の上位下位で与えられる技術の差は存在いたします。今後はそれらをすべて撤廃。各自の努力次第で閲覧可能な技術書なども増やす予定です」
「なにを馬鹿な! そのような絵空事、各ギルドが承知するはずがない!」
「うるさいですよ、宰相。各ギルドマスターの承諾は得ています。そうですね、各ギルドマスター?」
「鍛冶ギルドとして異論はありません。ギルド員の実力が十分と認められれば、職業の上位下位関係なく次々に新しい技術書の公開を行います」
「服飾ギルドも同じく。必要なものは本人の技術と努力、熱意と上を目指し続ける覚悟、遙かな頂きでも手を伸ばし続ける誇りだけです」
「宝飾ギルドもです。ギルド員が熱意と覚悟を示すのであれば、それに応えるのもまたギルドの務めかと」
その後もすべてのギルドが賛同の意を示してくれました。
つまり、この施策は既に決まっていたもの。
この国の無能者がわめき立てようとひっくり返すことなど出来ないのです。
「あ、あの! シャニア次期代表!」
「そこの方、なんでしょう。この場で答えられる質問であればお答えいたします」
「自分は鍛冶職最低職の『鍛鉄士』です! 私でも技術が伴えばギルド資料を読む機会を与えてくださると!?」
「そのように取り決めました。各ギルド、秘匿資料などの精査もあるので公開時期はばらけるでしょう。ですが、既に代表者命令として指示を出しております。あなたの腕が十分ならばそれほど待たずにギルド資料の開示もされるでしょう」
「ありがとうございます!!」
「ほかにも似たような質問がしたい方がいらっしゃるでしょうが、今答えたとおり、代表者命令として資料公開の指示を出しております。多少待たせるとは考えていますが、それまでの間は腐らず自分たちの腕を磨きなさい」
私の呼びかけに帰ってくるのは熱気。
それも、今までのような弱いものではなく、コンソールには劣りますが更に火が灯った証の熱気です。
さて、次の施策も発表いたしましょう。
「それに伴い、私たちの国の技術書だけでは足りない部分も出てくるでしょう。そういった部分を捕捉するための資料をこれまで以上にシュミットより輸入いたします。……本当はシュミットの賢者の本も輸入したかったのですが、それは賢者の方が気まぐれで提供していただけるかわからないということなので断られてしまいましたが」
シュミットの技術書。
今までも細々と入荷していましたが、やはり高額だったためにあまり人気がなく売れ残っていた技術書です。
ですが、今後さらなる発展を目指すのであれば確実に必要な資料となりました。
「もちろん値段も安くはないでしょう。そのために給金も出来高に応じて更に上げる所存です。今まで以上の成果を出してご覧なさい。初級エンチャントだけで満足していられる日々は今日この時点をもって終了です。新たな技術が、新たな知識がほしければ各自それぞれの分野で研鑽を怠らないように。そうすれば道は開けます」
民衆の熱気は更に高まっていきます。
そうそう、こうでなくては!
「……そうそう、今いる熟練者や上級研究員なども地位を譲り渡すのを恐れるのであればさらなる研鑽を。各ギルドマスターにも伝えてありますが、今後は完全な実力主義を徹底いたします。これもまた各ギルドマスターの了承を得ています。今の地位を失いたくないのならさらなる研鑽を行い、上位者の覚悟を示しなさい」
私の宣言に怯えの色を現したのは各ギルドの上位層でしょうか。
今までは大した努力をしなくても上位にいられたのでしょうが、今日からはそうもいきません。
本当に上位で居続けたいのであればあなた方も覚悟を示しなさい。
「そして、次の施策。それは街の子供たちに対する社会見学の実施です」
この宣言には民衆たちも当惑の色が広がります。
さすがにこの言葉だけでは真意が伝わりませんからね。
「子供たちに対し、自分が将来どのような職業に就けるのかを知ってもらうことで興味を抱いてもらうことが目的です。そうすることで、子供たちの自発的な勉強を促し、将来に向けた心構えを身につけることができるでしょう」
そこまで発表すれば親たちも納得したかのような表情を浮かべます。
最後の施策は……この場で発表するにはまだ早いでしょう。
もう少し、形を成してから発表するべきです。
特に親たちの意識改革が進んでから。
「それに伴い、各ギルドでは無理のない範囲で職業体験をさせることにしています。募集条件や人数制限、年齢制限はギルドによって異なりますが、毎年同じ時期に開催予定ですのでその年に参加できなくともいずれは参加できるような体制を整えます。以上が、今の段階で発表できる施策になります」
子供向け講習会の話は各ギルドと話を詰めて具体的な日程や内容ができてから発表ですね。
まずは職業体験を通じて子供たちに職業に興味を持ってもらうことが先決です。
「それから、今回の視察において竜宝国家コンソールとの友好関係締結の約束も取り付けて参りました。今の段階では私たちの国が一方的に劣るので対等な関係とは参りません。ですが、早ければ今後三年、遅くとも今後五年には『コンソールブランド』に並ぶことが絶対目標です。その分、各ギルドに来ていただいている講師の皆さんからの指導も厳しくなります。それは各ギルド所属の皆さんにも覚悟してください」
「次期指導者様、俺は個人経営の鍛冶職人だ。だが、今の話を聞いていてギルドに再入門したくなってきた。それも許されるのか?」
「それは各ギルドマスターの判断に委ねます。ですが、その厳しい指導についてくるだけの熱意と覚悟、職人としての誇りを忘れないのであれば必ず結果を残せるでしょう」
「なるほど!! そこまで焚きつけられたら再入門しか道はねえな!! 鍛冶ギルドマスターには拝み倒してでも入門許可を取り付けてみせるぜ!!」
「ほかの個人経営の店も同様です。さすがに市民生活まで影響が出られては困るのですが……それでも、週に何回かはギルド通いを認めていただけるでしょう。熱意、覚悟、誇り。それを常に忘れずに居続けなさい。それが絶対の条件です」
今度こそ湧き上がるのは大歓声。
いいですね!
コンソールのそれにはまだ及びませんが、この街でもまた一歩近づけました!
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