517.シャニアの外交結果報告 前編
私が戻って一週間経ち、いよいよ国民の前で外交結果報告の日がやってきました。
次期代表として何回かスピーチをする機会はありましたが私がひとりであいさつをするのはこれが初めて、重圧に押しつぶされそうですが来年には代表となる身、通らねばならない道です。
「シャニア。緊張していますか?」
「はい、ズレイカ様。ですが、この程度で怯えていては代表などいつまで経ってもなれません」
「その覚悟が聞けて安心しました。さあ、お行きなさい」
「はい」
宮廷前広場に出ると、そこには多くの国民たちが私の言葉を聞くために詰めかけています。
これは絶対に失敗できません。
後ろには無能な重鎮どもが控えていますがあれらは無視でいいでしょう。
今回のコンソール視察団に選ばれなかったことで相当いらだっているとも聞きましたが……所詮その程度です。
それでは演説開始ですね。
「皆様、お集まりくださいましてありがとうございます。エヴァンソン次期代表シャニアです。本日は先日まで行っていた竜宝国家コンソールへの視察の内容、およびそれに基づいた施策の発表を行います」
私の視察内容の発表だけではなく施策の発表という発言。
これに対して観衆がざわつくだけではなく、要人たちも詰め寄ろうとして近衛兵に押しとどめられています。
スヴェイン様やシャルロット様が『首をすげ替えろ』と言うのもよくわかりますね。
どうやったらあれらを追い出せるのでしょうか。
「まず始めに。今回の視察団訪問にあたり聖獣ロック鳥様のお力添えをいただいたシュミット公国には深い感謝を」
今日来ていただいているのは公王アンドレイ様のみです。
シャルロット様は届かない夢を作るための素材を集めるため、シュミット本国やスヴェイン様にお願いをしているのだとか。
シュミット公国にはいろいろと無茶なお願いをしてしまっております。
「さて、本題です。皆様の中にもご存じの方もいると思いますが、竜宝国家コンソールから交易に出される品、特に高付加価値化された品は『コンソールブランド』として珍重されており私たちの国でも大変高額ではありますが時折入手できます。そして、それは私たちの国で生産されている製品よりも高品質です」
そう、エヴァンソンでも『コンソールブランド』は時折入荷いたします。
でもあれは……。
「シュミット公国公王アンドレイ様から聞いた話では、竜宝国家コンソールにシュミット講師の方々が派遣されたのは私たちの国より一年あまり前と言うこと。私どもは『コンソールブランド』の本場で一年の差がどうなっているか知るために竜宝国家コンソールを訪ねてきました」
私の本当の願いはスヴェイン様にズレイカ様の延命の、エヴァンソンを救ってくださったお礼を述べることでした。
でも、そんな考えが許されたのはついた当日の夜だけです。
「私たち視察団がコンソールで目にしてきたものは、エヴァンソンで手に入る『コンソールブランド』など途中の国で買われずに売れ残った余り物だったという現実。本物の『コンソールブランド』はこの国で手に入れられるようなものではなかった」
私の言葉に民衆が騒然となりますが続けます。
すべて事実なのですから。
「例えば鍛冶。職人たちは入門一年目の見習いでもひたすらに鉄を打ち、鋼を鍛えその感触を腕と頭に鍛え混んでいました。次に服飾。糸車と機織機、指導の声だけが響き渡る工房の中でひたすら熱心に目の前の布に、服に集中して針を動かす職人たち。宝飾師もそうです。見習いたちは自分の腕でできる限りのアクセサリーを必死で作り、エンチャントをかけられるようになったものは、銀細工にエンチャントを施そうと必死に取り組む。エヴァンソンとは熱意が、覚悟が、誇りが、まったく別物でした」
そこまで告げると民衆は静まりかえり私の次の言葉を待ち始めます。
「『コンソールブランド』も本場はまったくの別物です。エヴァンソンでは熟練の仕上げ師がようやく【鋭化】か【硬化】のどちらかしかエンチャントできません。ですが、コンソール内では【鋭化】か【硬化】のみの製品だと『コンソールブランド』と呼ばないそうです。コンソール内では一般的な武器よりも多少高いだけの値段で手に入りますし、エンチャントを施していない武器でもエヴァンソンのものより数段品質が上です」
私も鍛冶ギルドマスターから報告を受けたときは耳を疑いましたがそのようです。
数打ち品の武器ではないので高いのは変わりませんが、エヴァンソンのようにエンチャントひとつついただけで金貨十枚以上変わるなどということはないとのこと。
それほどまでに【鋭化】や【硬化】は一般的なエンチャントになってしまっているのでしょう。
「一般的な職人ですらそのレベルです。私が視察に訪れた際に実演してくださった職人たち。彼らはそれぞれのギルドで選りすぐりをご用意いただけたそうですが、その方々の熱意や覚悟は更に次元が違います」
民衆たちも私の次の言葉を待っているようですし話を続けましょう。
「私に献上されたこのショートソード。作成時間はインゴットの作製から始めてたったの四十一分、かけられているエンチャントの種類は明かしませんがかかっているエンチャント数は五つ。そのどれもが高度なエンチャントばかりでシュミットの講師が教えていない、つまりシュミット講師たちから技を盗んで覚えた技術ばかりです」
私が明かした内容に民衆の間で混乱が広がりました。
だってそうでしょう、この街でもシュミット講師の厳しさと技術の高さは一年で広く知れ渡っています。
一年ほど差があるとはいえ、たった一年の差でシュミットの講師から技を盗めると私が言い放ったのですから。
「そのほか、今私が身につけているケープコート。これにかけられているエンチャント数も八つ。作ってくださった服飾師はシュミットの技術書を見て自ら学んだとおっしゃっていました。また、私が身につけているブローチはエンチャント数六つ。これを作ってくださった宝飾師の方はシュミットの方ですらまだ発見していない内容を発見していました」
この発言に更に混乱度合いが増します。
それはそうでしょう。
シュミットの講師から教わるだけでなく、教わる以上のことを学び取っているのですからね。
「それ以外のギルドでも同じような状況です。シュミット講師の方に肩を並べるくらいの技術を身につけていたり、一部追い抜かしていたり。それが竜宝国家コンソール、本物の『コンソールブランド』です」
私たちの国でもああなってもらわなければなりません。
初期投資以上の利益は出ましたがまだまだ足りない。
あの覚悟と誇りをみてしまった以上、立ち止まるわけには、立ち止まらせるわけには参りません。
「デタラメを言うな、小娘! 我が国がそこまで遅れているというのか!?」
私に噛みついてきたのは大臣のひとり。
あれは……財務大臣でしたでしょうか。
ろくな仕事ができず、ほとんどの仕事を私とズレイカ様で再確認しないと不正を許してしまうので印象が薄いんですよ。
「嘘だというのでしたら自らの目で確かめてきなさい。ただし、片道四カ月の馬車の旅。帰ってきたとき、あなたの席はなくなっているでしょうが」
「この、小娘が……!」
「吠えるしか能がないならそこまでに。……さて、話の途中でしたね。私たちは各ギルドの視察だけではなく子供たち向けの講習会というものも視察してきました。私が見てきたのは錬金術の講習会と総合学習の講習会。錬金術の講習会では下は五歳、上は十一歳の子供たちが楽しくポーション作りをして遊んでいました」
「ポーション作りが、遊び、ですと!?」
「ええ、遊びでしたよ、錬金術師統括長」
「なにを馬鹿な! 子供が、それも星霊の儀式すら終えていない子供がポーションを作るなどあっていいはずがない!」
「あなたの決めることではありません。竜宝国家コンソールでは普通に行われている子供向けの教育です。他国の人間が口を挟めるものではない」
「そのような考えが通じると思っているのか!」
「あなたの方こそ他国に行って自国の考えを押しつけるおつもりですか! みっともない!!」
ああ、本当にこの国の重鎮は能のない。
ズレイカ様が本当にお亡くなりになっていたらどうなっていたのか。
「礼儀を知らぬ粗忽者のことは捨て置きます。総合学習では子供たちに希望を取りそれらすべて同時に教えていました。それこそ文字の読み書きや簡単な計算から家事や機織りの技術、鍛冶体験、ブローチ作り、積み木細工、馬車の模型作り、魔法文字の知識まで」
今度こそ民衆たちも静まりかえります。
そうでしょうとも。
読み書きや計算だけならともかく、魔法文字の知識など魔術師ギルドに加わらない限り必要とされませんから。
さて、ここから先が本番、今後の施策発表です。
この先は国民の皆さんも呆けさせませんよ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます