98.初めての報酬
「じゃあな、嬢ちゃんたち。また機会があったらポーションを売ってくれ。お世辞じゃなく本気だからな」
「ああ、俺たちも買わせてもらいたいな。俺たちよりも年下なのにあれだけのポーションが作れるとかすげーじゃん」
「まったくだ。それに比べてお前ときたら……」
「うるせえ。お前だって何度もポーションのお世話になっていただろうが」
「むっ、それとこれとは別問題だ!」
冒険者の皆様は三々五々それぞれ帰っていきました。
さて、僕たちも帰るといたしましょう。
弟子たちも自信が持てたでしょうしね。
「ふう、訓練場の方が賑やかだと思いましたらやはりこちらにいたのですね」
「おう、ミスト」
「おう、じゃありません。私に依頼票発行をさせている間にいなくなるんですもの」
「あー……そいつは悪かった」
「まあ、いいでしょう。それでは皆様、今一度ギルドマスタールームへお越しください。今回の依頼の報酬をお渡しいたします」
「わかりました。では、行きましょうか」
ミストさんを先頭に、階段を上ってギルドマスタールームへと向かいます。
そして、部屋に入ると早速と言わんばかりに依頼の清算が始まりました。
「ええと、今回の依頼内容ですが、ディスポイズン、ディスヴェノム、ディスパラライズ、ディスストーン、ディスチャームをそれぞれ三十本の買い取り。余剰数と品質によって増減額ありと言うことでよろしいでしょうか?」
「はい。問題ありません」
「では、ポーション類をおだしいただけますか? 隣の会議室に鑑定師たちを待機させておりますので、すぐさま鑑定させますわ」
「待たせてしまい申し訳ありませんね。では、こちらになります」
「……本当に七十本ずつですね。実はもう少し余剰分があるのでは?」
「ないわけではないですが、それは自分たち用の常備薬です。これ以上、今回はお渡しできません」
「ふむ……では次回来るとき、また同じくらいの状態異常回復ポーションを用意していただけますか?」
「それは構いませんが……そんなに使うのですか?」
「いえ、ギルドの備えだけではなく冒険者の方々にも販売いたしたく。高品質な上級回復薬は上位冒険者の命綱ですから」
「それはよくわかります。では、今度来るときにはもう少し多めに作ってきましょう」
「そうしていただけると助かりますわ。さて、私は隣の部屋でこれを鑑定して参りますのでしばらくお待ちを」
そう告げてミストさんは部屋から出て行きました。
ポーションの品質管理は大事ですからね。
しっかりやらないと。
「さて、ミストも出て行ったことだし、少し相談に乗ってくれ」
「僕たちに出来ることでしたらなんなりと。出来ないことは出来ないとはっきり断らせていただきますので」
「そうか、そいつは心強い。まずは、冒険者どもの間でも風邪が広まっててな。風治薬をギルドでも常備かつ販売したい。生産か販売するだけの数量を持っていないか?」
「それでしたら問題ないでしょう。明日には各商会からある程度のまとまった数が発売されるはずです。……でも、冒険者ギルドでも流行らせてはいけませんよね。千個ほどおいておけばよろしいでしょうか?」
「さすがに多すぎるが……利用する冒険者の数を考えればそんなものか。それで、一本いくらで売ってもらえる?」
「これについては一切金銭を受け取らないことにしています。その代わり、風治薬一本を銅貨五枚で売ってください」
「……一切の金銭を受け取らずに冒険者から大量の薬をもらったってのはギルド的にまずいんだが」
「では、こうしましょう。今回の風治薬については無償提供とします。その代わり、この風治薬販売で出た利益の一部を、本来風治薬作りで稼げるはずだった錬金術師や個人商店たちに回せるように手配してください」
「……錬金術師ギルドとも話さなくちゃいけない案件だな。だが、今は風治薬を手に入れるのが先決か。その条件、飲ませてもらおう」
「ありがとうございます。ええと、千個入りのマジックバッグは……あった、これです。あとで数と品質が問題ないことを確認しておいてください。それから、今回作った風治薬は保存瓶を使っていない品です。二カ月から三カ月程度で効果を失いますのでご注意を」
「あくまでこの冬だけの限定ってことだな。よし、その注意もしっかり伝えることにしよう」
「よろしくお願いします。ほかになにかありますか?」
次の相談内容を聞くと、少し考えてからティショウさんは言葉を紡ぎました。
「そうだなぁ。お前、『武具錬成』出来るか?」
「はい、出来ますよ。ただ、僕の魔力が高くなりすぎて安い素材では耐えられないため、かなりお高い買い物になりますが」
「値段は気にしない。今度俺の武器を作ってくれ。多分、ミストも頼むと思う」
「わかりました。今回は二カ月ほどこの街に滞在する予定ですので、都合のいいときに声をかけてください。素材は持ち込みですか? それとも、僕が用意しますか?」
「お前に用意を頼んだらどうなる?」
「そうですねぇ……最低でも純ミスリル、オリハルコンやメテオライト、ガルヴォルンでしょうか」
「魔法金属系ばかりだな。アダマンタイトとかはどうなんだ?」
「20%程度までなら混ぜ込むことが出来ます。それ以上となると、僕の魔力と性質があわないので武具錬成に失敗します」
「そうか……魔法金属でも頑丈に出来るよな?」
「その気になれば、純ミスリルでアダマンタイトをスパスパ斬れる剣なんかも作れますよ。さすがに純ミスリルで作ると、そのあとにメンテナンスが必要になりますが……」
「待て。その言い方だと、別の金属を使えばメンテナンスなしでも斬れる剣が作れると言っているもんだぞ?」
「はい。アダマンタイト鋼でしたらオリハルコンとメテオライト、ガルヴォルンとミスリルの混合金属に魔宝石による強化とエンチャントも加えれば、鋭化・斬撃・硬化・自己修復・エンチャント強化まで詰め込めますので、実質メンテナンスフリーな剣が作れますよ?」
僕がそこまで説明すると、さすがに疲れた顔をしてティショウさんが止めます。
「いや、そんな宝剣みたいな武器はいらん。俺はよく斬れて、出来れば魔法効果も発動できる爪が欲しい。出来るか?」
「可能です。詳細は後日、人のいない場所で詰めましょう」
「できんのかよ。いや、頼んだのは俺だけどよ」
「出来ますよ。なんなら、見た目は普通の鋼の装備にカモフラージュすることも」
「……ってことはアリアの嬢ちゃんが身につけているローブは、やっぱりただのローブじゃないか」
「やはり気がついてましたか」
「わかる奴にはわかるんだよ。その装備から感じられる気迫ってのがよ。素材がなにかは聞かないが」
「わかりました。装備の件は……詳しい日程が決まりましたらコウさんのお屋敷までご連絡ください。前回と同じように、コウさんのお屋敷でご厄介になっていますので」
「了解した。さて、最後の話だな」
「はい、なんでしょう」
最後の話ということでティショウさんが居住まいを正すと、自分の机から袋を取り出しお金を取り出し始めました。
ああ、そういうことですか。
「弟子ふたり。ほれ、少ないが今日のポーション代だ」
「ポーション代ですか!?」
「えっ! ボクたちそんなつもりじゃ……」
「お前たちにそんなつもりがあろうとなかろうと、ポーションがちゃんと効くなら金は払うつもりでいた。高品質ポーションは卸値で大銀貨一枚だから三十本で金貨三枚ずつ。一般品のポーションは卸値で銀貨二枚だから、おまけして大銀貨三枚ずつだ」
「でも、でも!」
「そうですよ! 私たちみたいな見習いがもらっていい額じゃありません!」
「つまり、見習いは今日で卒業ってことだろう? なあ、師匠どの?」
「ええ、そうなります。今日からあなたたちは一人前の錬金術師です。もちろん弟子であることは変わりません。これからもビシバシ指導をしていくので覚悟してください」
「はい!」
「頑張ります!」
その後、ふたりはこのように依頼を受けてお金を受け取るときの注意点を教えてもらいながら、おっかなびっくり報酬を受け取りました。
初回の報酬から金貨が出てきたのは金銭感覚がおかしくならないか不安ですね。
僕は白金貨から始まってますが……。
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