第十三部 厳しい錬金術師と夏の熱気

444.また熱い夏が始まる

 コンソールにも夏がやってきて最初の仕事は欠格者の除名処分でした。


「……以上の理由からこれらの者たちを錬金術師ギルドギルドより除名処分といたします。異論は認めません」


 今回も異論が噴出しましたがそれらは一切切り捨て、立ち去らせました。


 今年の欠格者で一番多かったのは『二年目でありながら高品質マジックポーションが安定していないもの』です。


 春の初めに課題は提示したというのにこの体たらくとは……人材育成とは本当に難しい。


「スヴェイン様、また甘えたくなりました?」


「もうそこまで弱くはありませんよ」


「……いけず」


「さて、イーダ支部長とロルフ支部長補佐、ウエルナさんも来てくれていることですし幹部会議です」


「はい。三人には既にギルドマスタールーム前へと向かってもらいました」


「……家でもそれくらい優秀ならアリアもリリスも認めるんですけどね」


「あぅぅ」


「さあ、待たせるのも悪いですし行きますよ」


「このギルドマスター、切り替えが早すぎる……」


 僕たちはギルドマスタールームに向かい、サブマスタールームで仕事をしていたアシャリさんも含め幹部会議開催です。


 この場の空気に慣れていないアシャリさんはまだ緊張していますが……慣れていただきましょう。


「すまねえスヴェイン様。今年も大量の除名処分者を出しちまって」


 最初の発言者はウエルナさん。


 この方も律儀ですね。


「気にしてませんよ、ウエルナさん。あなた方の指導が悪いわけじゃなく、指導についてこられず、しかも開催されている補講にも出ていない者が悪いんですから」


「補講、補講か……」


「補講に何か問題が?」


「いえね。今回の処分を受けて来年の欠格内容が大体想像できちまったみたいで……」


「そうですね。三年目は『最高品質マジックポーション』の安定化です」


「それで、今はまだそこまで追いついていない連中が補講に集まっている状況でして、二年目の連中もあわせるとかなり厳しいんですよ」


「そうですか……」


 ここでも出始めましたか、人手不足問題。


 今はまだ補講を行えるほどコンソール講師は育っていないと聞きますし、由々しき事態です。


「それについては奥の手を使います」


「奥の手?」


「ユキエさんを支部に戻して補講専任にしてください」


「あ、いや……でも、ユキエは」


「そうですよ、スヴェイン様。ユキエさんは支部で空回りした結果、本部付けになったんです。それなのに、また支部に戻れだなんて……」


「では聞きますがミライさん。彼女、この一年でめざましい成果を上げていますか?」


「え、いや」


「僕は既にシャルから処分内容を聞いています。なので、彼女を成果の出しやすい支部に戻してあげることにしました」


「処分内容ですか?」


「ええ、処分内容です。それは……」



********************



「さて、ユキエ。あなたがに呼び出された理由、おわかりですよね?」


 シャルロット様の冷たい視線と言葉が突き刺さる。


 でも、目をそらしたら確実に強制送還だ。


「はい。私の一年目の総括です」


「結構。お兄様からのレポートが上がってきています。それによると、魔力水の均質化以外は目立った功績はなし、各錬金術師たちに教えを請われた際にをしただけ。と、なっています」


「それは!」


「口答え、しますか?」


「申し訳ありません。差し出がましい真似を」


「それについてもお兄様からの事情説明が添えられています。基本的にギルド本部の錬金術師たちは、自分たちの力のみで物事を進めることのみをよしとする。例え講師だろうと、教えを請うのは基本的に行わないと」


「はい。一週間か二週間に一度、実演を求められるだけでそれ以上、何もさせてはもらえませんでした」


「その中には講習担当のエレオノーラさんも含まれているとか」


「はい」


「あなたは本当に愚か者です」


「はい」


「講習担当者ならあなたの知恵と知識、経験をいくらでも貸せたものをそれすらもしなかった。本部の第二位錬金術師たちは時間の合間合間にエレオノーラさんの講義を実際に受け、問題点の洗い出しやレポート整理の手伝いなどをしていたのに」


 知らなかった。


 私は同じ階に部屋を持っている彼女の事さえ見落としていた。


「話を続けます。彼女の講義対象は『星霊の儀式』後ではなく『交霊の儀式』後の子供たち。つまりは〝スヴェイン流〟です。だからと言って、あなたの持っている技術すべてが無価値というわけではない。それを伝授しなかったあなたは怠慢で愚か者です」


「はい」


「今回についてはお兄様からの嘆願書もなし。この意味はわかりますね」


「はい。私は本部においても必要のない人材だと、『毒』でしかないと言う判断です」


「結構。本来であるならば、この場であなたを気絶させ、市民権を剥奪、血判状に基づいた処分を下すべきですが……最後の機会を与えます」


「え?」


「あなたには拒む権利はありません。至急、錬金術師ギルド本部に戻り新しい役職を拝命しなさい。それをこなせなければ。相応の処分を下します」


「まことに寛大なるご処置ありがとうございます」


「わかったのならさっさとギルド本部に。次、私があなたの顔を見るときは処分解除か強制送還の時のみです」


「はい。失礼いたします」



********************



「血判状に基づいた処分!?」


「ああ。ユキエもあれで上位講師。血判状に署名押印している」


「あの、ウエルナさん! 血判状って一体!?」


「平たくいうとこうだ。市民権剥奪、ギルドからの永久除名処分、除名処分を受けたギルドの技能の使用禁止。禁止された技能を使ったことが発覚すれば、よくて顔と両腕に焼き印を押された上での重犯罪者、普通は見せしめのための縛り首だな」


「シュミット怖い、シュミット怖い……」


「心配しなくてもこんな血判状を押すのは上位講師のみ。そして、実行された試しなんて一度もない。だが……」


「ユキエさんは既に崖っぷち、どころか崖から落ち指一本引っかけて転落を免れている状況。初の処分者になるのも時間の問題です」


「あ、あの。それと補講講師にどういったつながりがあるんでしょうか?」


 イーダ支部長が慌てた様子で発言します。


 まあ当然でしょうね。


「彼女をこのまま本部に置いておいても『毒』になるのは目前です。ならば、結果の出しやすい補講講師に割り当てるのが彼女のためになるというもの」


「それは……」


「もちろん、彼女の様子は逐一報告してもらいます。その上でダメならシャルに報告、処分を下していただきます」


「あの、彼女が本部に残っていた道ってなかったのでしょうか?」


 おずおずとした態度でアシャリさんが意見を述べてきます。


 あったのですが棒に振ったんですよね。


「彼女はシュミット講師。エレオノーラさんとは畑違いですが、互いの経験を共有し活かす道があった。それでなくとも、エレオノーラさんの手伝いをするくらいはできた。第二位錬金術師は研究時間を割いてでもやっていたのに、彼女は一切やっていない。その時点で指導者失格です」


「はい……差し出がましい真似を」


「ここは幹部会。どんなことを発言してもいいし、咎めるつもりはありません。ただし、今回はユキエさんに全面的な非があり、彼女はシャルの勘気に触れている。ただ送り返すのではなく、ここに残すのも優しさではなく苦しみをもっと味わえと言う意思表示です」


「シャルロット様も容赦がない」


「僕もレポートはあげましたが、嘆願書は出していませんからね。その意味を正確にくみ取ったのでしょう」


「で、発令はいつに?」


「今日、戻ってきたらすぐに。彼女のアトリエにある資料は彼女の空いている時間に彼女自身で運ばせます」


「本当に容赦がない」


「ユキエさんの話題はこの程度にしましょう。イーダ支部長、ロルフ支部長補佐。支部の運営はどうなっていますか?」


「はい……」


 やはり、支部の方では落ちこぼれている研究生がいる模様。


 シュミットからこれ以上の人材派遣もお願いできない以上、今いる人員でなんとか回していくしかないんですよね。


 教育者を育てるって想像以上に難しい。

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