錬金術師ギルド支部稼働

250.錬金術ギルド支部、支部長面接試験

「はふぅ……」


 本格的な冬が始まる前の朝、ギルドマスタールームの窓を全開にして思わず溜息をこぼします。


 もう冬になるんですよねぇ……。


「ギルドマスター、どうしたんですか? 窓の外を見つめて?」


「ミライさんですか。いえ、今年もあとは冬だけなんだな、と」


「……そんな事ですか。ギルドマスターは気になることでも?」


「いいえ。ああ、そういえば。来年は僕も成人でした。何事もなければアリアと結婚する予定だったんですよね……」


「そうですか。……ひょっとして、アリア様とをする暇がなくて残念だとか? ギルドマスターもお年頃ですねぇ」


「まことに残念ながらをしている暇も考えている余裕もなくなりました。貴族のままでしたら次代を残すこともお役目だったのですが」


「そうですか。それはよかった。いまギルドマスターがになってしまうと業務が止まってしまいます」


「……そういうミライさんはどうなんですか? 平民の結婚事情はよくわかりませんがお相手は?」


「残念ながら私にも縁遠い話です。それに私もを考えている余裕がありません。いまはギルドの業務が楽しいですし、それだけで手一杯です」


「そうでしたか」


「本当に、誰のせいでしょうかね」


 僕のせいですね、申し訳ない。


「さて、あいさつもこれくらいにしましょう。ギルドマスター」


 いきなりお仕事モードに切り替わったミライさんが真面目に話しかけてきます。


 僕も真面目になりましょうか。


「はい。今日の予定ですね」


「ええ。午後から面接予定の五名ですが……」



「はい。。ですが、あんなことまで確認しますか? 普通にやったら犯罪すれすれですよ?」


「本当にダメでしたら答えてくれません。教えてくれたということはそういうことです」


「そうですか。では、今朝の打ち合わせはこれで終わりですね。……今日は『カーバンクル』様方は来ませんよね?」


「来ないように。心配せずとも大丈夫ですよ」


「よかった。優れた技術者とはいえ、まだ十二歳。大人の汚いところは見せたくありません」


「……僕も十四歳なんですが」


「許嫁とのを夢見る十四歳にそんな事を言う資格はありません。それでは」


 ……だからそんな事を考えている暇もないんですって。


 信じてくれていませんね。



********************



「さて、皆さんにお集まりいただいたのはほかでもありません。社会見学があったことで一週間延びてしまったギルド支部の開業にあたり支部長を決めるための面談となります」


 朝、くだらない話でミライさんと戯れた日の午後。


 ギルドマスタールームに男女五名の事務員が集められました。


 理由はいま述べたとおりギルド支部長を決めるための面談です。


「あなたたちについてはミライさんからの指名で候補に選ばせていただきました。それ以上でもそれ以下でもないので勘違いはしないように」


「「「はい」」」


「それではまずミライさんから。


「「「は?」」」


 五人とも驚いていますね。


 それはそうでしょう、いきなり不適格者の発表からなんですから。


「あなた方の行動は二カ月間に渡って素行調査していました。その上で


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「ダメです。待ちません」


「ギルドマスター命令ですので。ロッシさん、ヴィットリオさん。あなたたちふたりは不適格です。理由ですが、ロッシさんは多額の借金がありギルドのお金に手をつけていること、ヴィットリオさんは女遊びが激しく金遣いが荒すぎることです。ロッシさんについてはギルドから除名処分、ヴィットリオさんは……まあ、個人の問題ですので慎んでください」


「そんな……証拠は!?」


「ありますよ? お出ししますか? その場合、横領罪であなたを官憲に突き出さなければなりませんが」


「あ、いえ、ミライサブマスター……わかりました。処分を受け入れます」


「ヴィットリオさんも異論はありませんね?」


「は、はい。以後気をつけます」


「よろしい。では、二名とも速やかにこの部屋から退室してください。ロッシさんは私がこの部屋から戻る前にギルドから出ていくように」


「は、はい……わかりました」


 肩を落とし意気消沈して部屋を出て行くふたり。


 そうですか、片方は横領を……横領を?


「ミライさん。あなた、支部長試験の名目で職員全員を素行調査しませんでしたか?」


「さて、なんのことやら?」


「横領をしていた人間を指名した処分としてお給金下げますよ?」


「申し訳ありません。錬金術師含め全員の素行調査をしました」


「正直でよろしい。はあ、まあいいでしょう。膿を出したと考えれば些細なこと。ちなみに横領額は?」


「合計金貨三枚ほどです。なので大事にする必要もないと判断いたしました」


「その程度の額でしたら官憲の手を煩わせなくともよいでしょう。勝手にこの街から出て行くでしょうし」


「……本当にこのギルドマスターは怖い」


 さて、ミライさんの恐ろしさを味わってもらったあとで悪いのですが、


「それでは次に僕の方から。


「聖獣から見た……」


「不適格者……?」


 うんうん、不思議でしょうね。


 ひとりだけ青ざめていますが。


「エドウィジュさん。あなたを。理由はおわかりですよね?」


「な、なんのことでしょう?」


「素直に出て行かないのであればお話しましょう。あなた、隣国の密猟組織を手引きして聖獣の子供を捕まえようとしていましたよね?」


「そ、そんな恐ろしいこと……」


「あなたが手紙で渡そうとしていた書類、あなたが保管していた書類。すべて。暗号文もすべて解読済みですので読み上げても構いませんよ?」


「そ、それ、それ、は……」


「理由がわかったのでしたらさっさとこの街から出て行きなさい!」


「ひ、ひゃい!!」


 彼女は逃げるように部屋を出ていってしまいました。


 まあ、構わないでしょう。


「ギルドマスター。今の話、何度聞いても疑わしいのですが本当ですか?」


「ミライさんも信じてくれていませんね。証拠ならありますよ? ほら」


「……わ。こんなにたくさんの手紙」


「はい。すべて彼女の家から聖獣たちが持ち出した証拠です」


「いや、証拠ですってにこやかに言われましても……彼女こそ官憲に突き出すべきでは?」


「残念ながら人間の手で裁くには法が整備されていません。この証拠とて読むべきものが読まなければ、ただの手紙の束です」


「いや、でも……」


「心配せずとも大丈夫ですよ。


「は?」


「街から追い出しましたが、別の街へたどり着くことはないと保証します」


「……このギルドマスター、本当に怖い」


 ミライさんまで本当に怯えています。


 仕方がないじゃないですか。


 彼女の事は僕が命じる前から目をつけていて、襲う機会をうかがっていたほどなんですから。

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