251.錬金術ギルド支部、支部長決定。あと、ミライの『試練の道』挑戦
「……さて、これにて面談終了です。イーダさん、ロルフさん。あなた方ふたりがギルド支部長となります」
「「は、はい!」」
ミライさんが内偵調査しても問題がなく、聖獣たちが追加調査しても不正が出なかったこのふたり。
人格は今後見ていくとして、任命してもひとまず問題ないでしょう。
「ギルドマスター。支部長がふたりって問題ありませんか?」
「そうですか? やっていただく内容は書類のとりまとめと高品質以上の薬草管理だけで大差ないですよ?」
「いや、ギルドマスター。錬金術師ギルドはあなたが特殊すぎるためトップ不在でも素材不足にならなければ回るだけです。普通はトップがいてその補佐がいて、と順位がないと回りません」
「そうですか……僕としてはどちらでも構わないのですが。サブマスター、あなたが決めてください」
「このギルドマスター、組織運営には非常に疎い。仕方がありません。イーダさんとロルフさん、どちらかが支部長でどちらかが支部長補佐になってください」
「では、ロルフが支部長で!」
「いや、イーダが支部長でお願いします!」
「いやいや!」
「いいえ、あなたが……」
……どうしましょうか、支部長の椅子を巡って押し付け合いが始まりました。
この錬金術師ギルド、トップには誰もなりたくないんじゃないでしょうか?
「ああ、もう! くじ引き! くじ引きで決めなさい!!」
「「は、はい……」」
遂にミライさんがキレました。
くじ引きの結果、イーダさんが支部長、ロルフさんが支部長補佐になりましたが……大丈夫ですよね?
「では、あらためて。イーダ支部長。ロルフ支部長補佐。あなたたちにやっていただく仕事は先ほども述べた通り主にふたつ。ひとつは書類のとりまとめ。もうひとつは高品質以上の薬草管理です」
「とりまとめた書類は毎朝私のところへ提出してください。不備があれば翌日以降に返却するので確認してくださいね」
「薬草ですが、一般品質の薬草はギルド支部一階に保存箱を設置して自由に持ち出しさせるようにします。聖獣に頼んで見張りもつけますので持ち逃げの心配はなさらずとも結構です」
「高品質以上の薬草の補充も私、ミライが担当いたします。使った分の薬草数を教えてもらえれば同じ分だけお渡しします」
「以上が業務についての内容です。なにか質問は?」
そこまで説明し終えたところで質問を募るとイーダさんが手を上げました。
「イーダ支部長。どうぞ」
「はい。高品質以上の薬草って高級品ですよね? 私たちがそんな簡単に預かってもいいものなのでしょうか?」
ああ、そのことですか。
説明を忘れていました。
「失礼、説明不足でした。あなた方には今日から護衛の人間を四人ずつつけます。ご安心ください」
「ですが、相手の人数によっては……」
「はい。人数次第では負けます。なのでこれは目に見える護衛です。いわば、威嚇のための護衛ですね」
「「は?」」
「本命の護衛は別につけます。正体は伏せますが、僕が契約している中型の聖獣です。この街に来ている冒険者教官……エリシャさんを除いた三人が束になってかかっても無力化できる程度には強いです。エリシャさんは
「……エリシャさんって
「本人は気付かれていないと考えているようですが、ときどきカイザーと手合わせしているみたいです。……話が逸れましたね。とりあえず身の安全は聖獣が保証していると考えてください。そうでなくても命の危険を感じたら薬草ごとき、いくらでも捨てなさい。あなたたちの命が優先です。いいですね?」
「「はい!」」
「ほかに質問は?」
質問はこれだけだったようなので支部長用のマジックバッグとローブを渡して明日以降の準備をさせることにします。
さて、今日の仕事も一段落……。
「ギルドマスター。私から質問が」
「なんでしょう、ミライさん」
「前に私にも聖獣の護衛をどうのって言ってましたよね? 本当はいつから護衛をつけてますか? 正直に言いなさい、この十四歳のマセガキ」
「……今日はずいぶんと遠慮がない。あなたをサブマスターに任命したときからつけてました。薬草を持ち逃げされるのはどうでもよかったのですが、薬草ごときのために人を死なせるのはあまりにも痛ましいですからね」
「……やっぱりそうでしたか。去年の冬の終わり頃からときどき視線を感じるなーとか、誰かに見られてるかなーとか感じてたんですよ。まさか聖獣だったとは」
「ミライさん、いい勘していますね? 明日の午前中は休んでいいので聖獣の森にある『試練の道』へ行ってみてください。あなたなら超々初心者向けをクリアできると思います」
「私を人外方面に引きずり込むなと……まあ、業務命令と考えて一度だけ挑戦してきます」
「はい、行ってらっしゃい。あなたのことは聖獣たちも気にかけてます。クリアできたらなにかいいものがもらえるかもしれませんよ?」
「妖精の花で結構です。あれ、綺麗ですし枯れないんでしょう? お部屋に飾ります」
……妖精の花って商業ギルドで買い取り価格を上げて金貨四十枚とか五十枚と聞きましたが……豪華な飾りですね。
聖獣たちのことです、悪いようにはしないでしょう。
********************
「ただいま戻りました」
「早かったですね、ミライさん。ダメでしたか?」
「いえ、変な視線を感じたら立ち止まったりしゃがんだりしていたら奥までたどり着きました」
「……おめでとうございます?」
「なんで疑問形なんですか? それで、一番奥まで行ったらリスみたいな聖獣がいて宝石のようなものをくれたんですが……これ、なにかわかりますか?」
これはこれは、また大層なものを……。
「ちなみにそのリスみたいな聖獣ってこれに似ていますか?」
僕はプレーリーを服の外に出してみます。
「そう。そんな感じの。なんでわかったんですか?」
「おめでとうございます。それ、カーバンクルの卵です」
「は?」
「何度聞いても答えは変わりません。カーバンクルの卵です」
「ええと……買おうとすると、国が動くとか言うあの?」
「そこまでは知りません。それから、ミライさんの魔力が少ないことを見越してでしょう。その卵には魔力が満ちています。名付けさえすれば卵が孵って聖獣契約完了ですよ」
「……これ、返却できませんかね?」
「聖獣たちのことです。受け取りません。覚悟を決めて名付けと聖獣契約を」
「……じゃあ、ココナッツで」
カーバンクルの卵が一瞬光って白っぽい色のカーバンクルが姿を現しました。
ミライさんの手にはカーバンクルの宝石が残り、カーバンクル……ココナッツはミライさんの肩の上へ登り頬ずりしています。
「可愛い……じゃなかった。どうすればいいんですか、この子?」
「聖獣は基本的に魔力を食べて生きています。なので、なにも食べさせなくとも平気ですよ。ただ、カーバンクルは果物をあげると喜びます。個体差があるのでどんな果物が好みかはココナッツに聞いてください」
「わかりました。それで、この宝石は?」
「魔力の増幅効果……はあまりミライさんには関わりありませんね。ですが、他人の悪意を見抜けるようになる宝石です。指輪に加工して常につけ歩くといいですよ。指輪に加工してあげますから貸してください。あと、デザインも起こしますので教えてください」
「え、ギルドマスターにそんな事を頼むのは恥ずかしいです。宝飾ギルドに頼みます」
「同じことですよ? 宝飾ギルドに頼めば宝飾ギルドマスターからシュミット講師陣へ、そして僕の元へ帰ってきます。いわく、自分たちじゃこれを生かす加工ができない、と」
「……アリア様じゃダメですか?」
「アリアもデザインを起こせますが加工するのは結局僕なのでデザインは僕も見ます。諦めてください」
「……私、少女趣味なんです。笑いません?」
「そんな些細なことは気にしません。早く始めますよ」
ミライさんと話し合ってできた指輪は花の加工が施されたかわいらしい指輪となりました。
後日、そのデザインを見たシュミット宝飾講師陣がやる気を奮い立たせたとかなんとか……。
それから、コンソール錬金術師ギルドのエンブレムですが、ミライさんがカーバンクルと契約したことで見直し案が急浮上。
僕の象徴であるペガサスとユニコーン、弟子たちの象徴であるカーバンクル、それからそれらの上を飛ぶフクロウのエンブレムになりました。
想像以上の大騒ぎになりましたね。
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