51.冒険者登録完了と魔宝石魔導具
「……よし、これで冒険者登録完了だ」
「これが冒険者証ですか」
僕は左腕の手首にはめられた腕輪を見ながらつぶやきます。
そういえば、いままで見た冒険者さんたちも同じような腕輪をつけていましたね。
「おう、Dランク、別名アイアンランクの腕輪だ。本物の鉄じゃないんで錆びないし軽いだろ」
「はい、冒険者登録までお付き合いいただきありがとうございます、ティショウさん」
「こっちこそ、Bランクパーティを完全回復してくれたお礼もあるからな。ポーションもごっそりもらっちまったし、本当に助かったぞ」
「お互い様と言うことだな。しかし、あの【ブレイブオーダー】が壊滅寸前になるとは……」
「ああ、いまミストが事情聴取をしてるが……ろくな話にならないだろうな」
僕たちはあの後、備品になるポーションを備品室にしまいギルドマスタールームに戻ってきました。
ですが、ミストさんは別の部屋で【ブレイブオーダー】の方々から話を聞いています。
「少なくともジャイアントマーダービーが複数匹……少なく見積もっても20匹以上はいたと思います。ひょっとすると、気付かず巣に接近してしまったのかも」
「怪我の程度からわかるのか?」
「あの方々の腕前が相当ならば、の話ですが。全員の全身が傷だらけだったことを考えると、10匹程度では済まないでしょう」
「確かに、10匹程度なら倒せるな。となると、20以上の群れあるいは巣があるのか」
「彼らは街の近くの依頼に出ていたのですかな?」
「いいや、かなり遠めの依頼に出てた。そこは安心しな、コウ」
「ですが、ジャイアントマーダービーの行動範囲は広いです。それに針を持ち帰ってしまいました。針についている特殊な匂いをたどって街まで来る可能性が否めません」
「……本当に博識だな、スヴェインは。そうなっても防衛隊や冒険者がいるから安心しろ。お前たちのような未成年の冒険者を戦いに出すことはねえよ」
「そうですか。これでもそれなりには強いのですが……」
「強くても子供だ。大人にいいところを持っていかせろ」
「……わかりました。でも、支援くらいはさせてください」
僕はストレージを使い、中からいくつかの指輪を取り出します。
それを見たティショウさんは『時空魔法まで使えるのかよ……』とつぶやいていましたが。
「これをお貸しします。僕の作った魔導具です。もし壊れたら壊れたで気にしませんので、どうぞ使い潰してください」
「どんな魔導具なんだ? 内容がわからないと危なくて使えないぞ?」
「あ、それもそうですね。これらはすべて、魔法を封じてある魔宝石です。キーワードと魔力を込めれば、魔法が発動して狙った相手に飛んでいきます」
「物騒なアイテムだな。込められている魔法は?」
「ルビーが『フレアアロー』、サファイアが『ブリザード』、エメラルドが『ストームブレイド』、トパーズが『ガイアランス』、アメジストが『サンダーソード』です。キーワードも魔法名と一緒にしてあります」
「……コウ、聞いたか? 全部レベル25以上の魔法だぞ?」
「そうですね。娘からスヴェイン殿は、『セイクリッドブレイズでオウルベアを跡形もなく焼き払えるほど強い』と聞いていましたが、ほかの属性も強いようです」
「そもそも魔宝石ってのがわからん」
「原理は省きますが、宝石に魔法を刻んだものになります。使い捨てにするタイプや、今回のように何回も使えるタイプがあります」
「それって付与魔術か?」
「そうですね。強い魔法を封じようとすると、高レベルの付与魔術を要求されます」
「そもそも作り手がそんなにいないのが救いか。わかった、今回の討伐で使わせてもらうが、終わったら責任を持って回収する」
「はい。先ほども言いましたが、壊れたら壊れたで構いませんので、人命を優先してください」
「考えが甘っちょろいな。だが、嫌いじゃねぇ。なにかあったら……いや、なくても俺のところに顔をだしな。茶くらいは出してやる」
「ありがとうございます」
「ティショウ、そろそろいいか? このあと、スヴェイン殿とアリア嬢を娘の宝石店に連れて行く予定だったんだ」
「おう、そうか。時間を取らせちまったな。あとのことは俺たちに任せて行ってくれ。さっきも言ったが、子供を戦力に考えるつもりはないからよ」
「わかった。……だが、ギリギリになったら参戦してもらうぞ。スヴェイン殿たちはお前が思っているよりも強いし、場数も踏んでいそうだからな」
「ああ、そのときは頼む」
「では行きましょうか、スヴェイン殿、アリア嬢」
「はい、失礼します、ティショウさん」
「失礼いたします」
「じゃあな。また元気な顔を見せてくれよ」
**********
……さて、あいつらもいっちまったな。
しかし、不思議な子供たちだぜ。
俺がガキの頃はもっと……かわいげがなかったな、うん。
そのとき、ドアがノックされてミストが入ってきた。
聞き取り調査が終わったか。
「ティショウ様、聞き取り調査が終わりました」
「わかった。報告を受ける」
「はい。ジャイアントマーダービーの巣があるのは、この街から北西に1日ほど歩いた場所になります。おおよその場所は、この地図の範囲になるそうです」
……ちっ、やっぱり巣かよ。
スヴェインの小僧が言っていた通りじゃねぇか。
「あの傷で1日の距離をよく生き残れたな?」
「シルフィードステップを使って森の中を逃げ帰ったそうです。なので、追跡されていてもあと2日程度の猶予はあるかと」
「2日しかない、とも言えるな」
「そうなります。ですが、【ブレイブオーダー】の見立てでは、彼らも2日後には十分に戦えるようになるだろうと。装備は予備のものになりますが、準備できているそうです」
「スヴェインの薬はそこまで効くか」
「そのようですね。増血剤なども購入しておくべきでした」
「過ぎちまったものは仕方がねぇ。それよりも、防衛に人を割くか攻撃に出るか決めねえと」
「私は攻撃に出るべきと考えます。街から1日の距離に巣がある現状、いつ大攻勢を受けてもおかしくない状況です。ましてや、相手は飛行能力を持っている上に狡猾な種族。守勢に出ては被害が拡大します」
「俺も同意見だ。明日の朝、出陣するぞ」
「はい、緊急依頼としてオーダーをかけます。参加条件はCランク上位で?」
「Cランク下位がいても難しいだろう。目標は巣の破壊。最低でも50匹以上の討伐だ」
「かしこまりました。では、オーダーを行います」
「ああ。そうしてくれ」
さて、殺人蜂どもとの戦い。
どうあっても勝たなくちゃな。
子供にあんなことを言った以上、大人の意地を見せなくちゃなんねえよな?
**********
ジャイアントマーダービーの討伐だが、途中経過は割と順調に進んでいる。
つーか、スヴェインから預かった指輪がつええのなんの……。
「……ティショウ様、この指輪の存在、絶対に口外できませんわ」
「わかってる。なんで半獣族の俺がガイアランスをぶっ放して、ジャイアントマーダービーをバラバラにできるんだよ……」
なんつーか、反則だぞ、この指輪?
魔力の少ない俺でも十分に運用できる上に威力もクソ高い。
連れてきている冒険者からは不思議な目で見られているが、アーティファクトの効果で押し通している。
こんなのが量産できると知られたら、それこそ戦争だ。
「ですが、このペースで行けば確実に巣を破壊できますわね」
「そうだな。俺たちが片っ端から蜂どもをぶっ殺してるから、生き残りも警戒して巣に戻ってやがる。うまいこと巣を破壊できれば脅威はなくなるぞ」
「そうですわね。気合いの入れどころです」
「おうよ」
そう考えて俺たちは進軍していた。
そして、巣までたどり着いたが……これは【ブレイブオーダー】が不覚を取るわけだ。
「少なく見積もっても40匹は飛び交っていますわ」
「さすがにやべぇな。指輪の力でゴリ押すしかないか」
「そうですわね。まずは氷嵐の魔法で動きを鈍らせます。その隙に嵐剣で数を減らしましょう」
「その策で行く。うまくやってくれよ」
「もちろんですわ。……行きます『ブリザード』!」
いままでは単体相手だったから、広範囲魔法は使ってこなかった。
だからこそ、俺たちは油断していたのかも知れない。
この指輪がトンデモ性能だってことを。
「ほとんど凍っちまったな」
「ですわね」
ブリザード一発。
たったそれだけで40匹以上いたはずのジャイアントマーダービーは、残り数匹まで減っていた。
もちろん、こうなると巣を守ろうとして残りの連中も飛び出してくるわけだが……。
「『ストームブレイド』!」
そいつらも嵐の刃が通り過ぎたあとには残っちゃいねぇ。
蜂どもの習性で劣勢になっても、巣を捨てられないわけだが、こうなると俺たちの一方的な攻勢に為す術もなく討ち取られるしかない。
残された巣は『サンダーソード』の魔法で真っ二つに切り裂いて地上に落ちたところに油をかけて焼き払っておいた。
これで巣を再利用される恐れもないわけだ。
そのあとは数日間、巣のあった場所に残って残党狩り、それが終わったら帰還して依頼の清算だ。
「……非常にあっけなかったですわね。危険度Bランクの依頼でしたのに」
「強すぎだぜ、この指輪」
「早くお返しになった方がよろしいのでは?」
「だな。ちょっくらコウの屋敷に行ってくる」
馬を出してコウの屋敷に向かったが、すでにあのふたりは街を出ていた。
次に来る予定は2カ月ほどあとらしい。
こんな危険物を2カ月間も預からなくちゃいけないのは気が気じゃねえが、仕方がない。
ギルドマスタールームにある、俺しか開けられない魔導金庫にしまっておこう。
……さっさと戻ってこい、スヴェインにアリア。
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