商業ギルドとシュベルトマン侯爵とポーションの行方

139.挿話-12.商業ギルドマスターと錬金術師ギルドマスターの対談

 少しときは遡り、スヴェインが商業ギルドマスターと対談したときの話。



********************



「ようこそ、錬金術師ギルドマスター。今日はなにやらご相談があるということで」


「お世話になります、商業ギルドマスター。早速ですがその内容について、お話しさせていただきます」


「まあ、大体の見当はついております。『高品質ポーションの販売方法』について、ですな」


「はい。今のところは問題ありません。ですが」


「シュベルトマン侯爵にポーションの作製方法を記した本を渡している、これが問題なのですな」


「そうなります。あれを見て、国がどう動くか、錬金術師ギルドがどう反応するかによりますが、場合によっては一般品質のポーションは国内全土に普及するかと」


 ここまで話をすると商業ギルドマスターはうなり声を上げ、黙り込んでしまいました。


 僕としてはよかれと感じてやったことですが、この街としては痛手でしょうね。


「私もあの本はさらりと読ませてもらいました。ポーションの作製方法が載っている本に記載されているのは、一般品質のポーションだけでしょうか?」


「いえ、最後の方にさらりと高品質ポーションの作り方も載っています。ただし、高品質な魔力水と高品質な薬草が揃っている場合のやり方のみですが」


「なるほど……それならば売れるか」


「商業ギルドマスター?」


「錬金術師ギルドマスター、情報をありがとうございます。その上で、私は高品質ポーションだけではなく、しばらくの間は一般品質のポーションも売れると確信いたしました」


「そうなのですか? それはなぜ?」


「この国の上層部……錬金術師統括長などは頭の固さが半端なものではないと聞きます。例え、特級品ポーションとともに一般品ポーションの作り方が記された本を渡されても、検討の余地なしとして切り捨てることでしょう」


「……頭が痛い」


「はい。そこを突くのです」


「というと?」


「我が街ではこれほど飲みやすいのだと宣伝して歩くのです」


「それにどれほどの効果が見込めますか?」


「錬金術師ギルドマスター、あなたは本当に商売ごとには疎いですな」


「申し訳ありません。この歳になるまで研究ばかりで商売というものをまるで習ってきませんでした」


「ではお教えしましょう。これらのポーションを売り歩くことでが飛びつきます。彼らにとってポーションは死活問題。それが飲みやすいとなれば銀貨数枚ほど値上げしても喜んで買うでしょう」


「銀貨数枚ですか」


「錬金術師ギルドマスターはお嫌でしょうが、運搬費というものがありますのでご了承を。そうすれば、冒険者たちはこぞってです」


「そこまでですか」


「もちろん、動かない。もしくは動けない冒険者も多くいるでしょう。ですが、商隊護衛などの依頼に飛びつけるレベルの冒険者たちは喜んで飛びつくはずです。それができなくとも、複数のパーティで組み、コンソールを目指そうとするでしょう」


「……そうなると、コンソールの街における冒険者事情が不安になって参ります」


「もちろん、この話は私の方から冒険者ギルドマスターに通しておきます。そして、これらの冒険者はユニコーンとペガサス、そしてカーバンクルの魅惑に勝てなくなるはずです」


「……ますます、この街の冒険者があぶれないか心配です」


「そこは冒険者ギルドマスターに頑張っていただきましょう。それらのポーションをとして持ち帰った冒険者たちは、使いやすいポーションというだけではなく、一種のステータスシンボルになると私は考えております」


「この街では個数制限があるとはいえ普通に販売しているものですよ? それがステータスシンボルとは……」


「大いになり得ます。細緻な装飾が施された瓶に効果の高いポーション、そしてそれらすべてが飲みやすい。これ以上ない差別化でしょう」


「それはそれで各地の冒険者ギルド内で抗争が勃発しないか不安です」


「ええ、そこでユニコーンやペガサス、カーバンクルを作るための製法を大々的に売り始めるのですよ!」


「商魂たくましいですね、商業ギルドマスターは」


「そうでなくては商業ギルドマスターにはなれませんからね。原本として、現在錬金術師ギルドの資料室に保管されている本を一冊ずつお借りしてもよろしいですか?」


「あれでしたら僕が今持っています。……どうぞ」


「では、ありがたくお借りします。さすがに頭の固い錬金術師ギルドどもといえど、冒険者ギルドの暴動すら起こしかねない圧力には耐えられないでしょう」


「それならば嬉しいのですが。手段が少々乱暴なのはこの際無視いたします」


「ありがとうございます。この領はシュベルトマン侯爵の命令である程度改善されるでしょう。狙い目はそれ以外の領地になりますね」


「結構な長旅になるのでは?」


「そうなります。ですが、商材が商材です。売れることがわかっているものを運ばせるのですから、商業ギルドとして腕利きの護衛をつけさせていただきますよ」


「それならば安心です。できれば旅のお守りになるアミュレットをお作りしたいのですが……」


「さすがにいくつの商隊を編成するかわかりません。錬金術師ギルドマスターの作る錬金術アイテムがよく効くのは皆も承知。とはいえ、最高数がわからねばお願いするわけには参りませんよ」


「……そうですか。それではせめて旅の安全を祈らせていただきます」


「それで十分ですとも。出発は商材が相応数できてからになります。元見習い、現最精鋭の錬金術師たちには負担をかけてしまいますがよろしくお伝えください」


「わかりました。僕からも激励の言葉をかけておきます。激務になる分の給金は惜しみませんので、そちらの面でも報われるでしょう」


「それはよいことです。では、よろしくお願いいたします」


「はい。旅の安全と商売の成功を祈らせていただきます」



********************



 さて、このあとスヴェインは本当に最精鋭の錬金術師たちに激励の言葉と給金の話をしにいくこととなる。


 それを聞いた錬金術師たちはそれまで以上のペースでポーション作りに励み、商材は三カ月で十分な数量が揃ってしまった。


 それを聞いて焦ったのは商業ギルドマスターの方で、最低でも半年はかかるであろうと考えていた商材がその半分でできたのだから急いで商隊を編成せねばならない。


 商隊を編成している間も錬金術師たちの奮闘は続き、商隊の準備ができた頃には予定の倍以上のポーションが完成していた。


 これを一大商機と見た商業ギルド所属の商人たちはやる気を奮い立たせて各地へと出発、商業ギルドマスターが考えていた以上の収益を出すのであった。

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