361.エリナの家族と『竜宝国家コンソール』

「本当に帰ってきたのねエリナ! 背も伸びたし自信にも満ちあふれてて……送り出したときとは別人みたい!」


「苦しいよ、イナお姉ちゃん……」


「エリナちゃんはお姉さんからも大人気です!」


 お昼まで先生たちが過ごさせていただいたという部屋……海も見える最上級の一室で過ごさせてもらったあと、本当にお爺ちゃんが昼食に呼びに来てくれました。


 昼食を食べているときは、イナお姉ちゃんも私のことをチラチラ気にしながら歌い続けるだけだったのですが……営業時間が終わるとこの通り、苦しくなるくらいの勢いで抱きしめてくれます。


 ボク、そんなに心配をかけてたんだ……。


「ごめんね、お姉ちゃん。この二年間、手紙……も二カ月か三カ月に一度しか書かずに心配をかけちゃったみたいで」


「本当よ! 手紙が全然来ないし修行の内容とかは全然書いてないから、破門にされて食い扶持に困ってるんじゃないかって心配だったんだから」


「……エリナちゃん。これからは、一月に一回くらいは手紙を送るのです」


「ごめん」


 うーん、先生の修行内容ってどこまで他人に教えていいか判断に困るんだよね。


 先生に言わせると『あなた方に教えている内容は秘伝としている内容以外はすべて教えても結構ですよ』としか言ってくれないし。


 本当にどこまでが許される範囲なのか、試されているのか本気で話していいのか悩んじゃうんだよ。


「それで、高品質のミドルポーションが作れるようになったって本当!? そんなことができれば、旧国の金翼紫なんて目じゃないよ!?」


「あはは……今の『新生コンソール錬金術師ギルド』の一員にはその金翼紫だったアトモさんもいるんだよね……」


「エリナ! 金翼紫だった方をアトモ『さん』だなんて気軽に呼んで!」


「ええっと、これでもかなり譲歩してもらったんだよ? 最初は呼び捨てにするようお願いされていたんだから」


「それって?」


「ボクたちの実力って知らない間に金翼紫を超えていたみたい……」


「嘘でしょう」


「嘘ならよかったんだけどね……」


 本当に驚いちゃったよ。


 最初にアトモさんと会ったときにはまだまだ殿上人だったのに、いつの間にか追い越していただなんて。


「ともかく、ボクたちって『新生コンソール錬金術師ギルド』の研究職じゃ二番目扱いの待遇なんだよ」


「はいです。ギルドマスター直下錬金術師なので正式にはギルド内の錬金術師ではないのですが、ギルドの皆さんに頼まれて実演や指導をする機会はあります」


「先生……ギルドマスターはボクたちを引き入れたことちょっと嘆いてたけどね」


「はいです。『自分が指導する機会がさらに減った』って言ってました」


「えっと、ふたりの先生って錬金術師ギルドだとギルドマスターでもあるんだよね? そんな言い方でいいの?」


「普段から礼節を欠かなければ口調とかはあまり気にされないのです」


「ギルド員の皆さんもわりと軽い口調で先生と話してるよ。先生としても風通しが悪くなるのは嫌らしいから」


「私たちは知らないのですが昔の錬金術師ギルドに戻るのは絶対にいやなのだそうです」


「うん。『新生コンソール錬金術師ギルド』においては年齢の上下は一切関係ないんだ。技術の優劣、それだけが絶対の上下関係なんだよね」


「先生も早くギルドマスターの椅子を誰かに渡したがっていますが……誰も受け取ろうとしないのです」


「『新生コンソール錬金術師ギルド』って本当に変わっているよね。本部の皆は昇級するのを嫌がっているんだもの。そんなことで研究時間を減らされるのは絶対にいやだって」


「噂には聞いていましたが、コンソールの錬金術師ギルドはまったく違いますな」


「本当。普通は少しでも上の椅子に座りたがるのに誰も座ろうとしないだなんて」


「今、ボクたちを除いた最高位はアトモさんなんだよ。でも、そのアトモさんも功績があるから仕方なく上位の椅子に座っているくらいで……」


「本当は第二位錬金術師……一般職の錬金術師に混じって研究をしたがっているのです。それくらい、『新生コンソール錬金術師ギルド』では上の椅子に誰も座りたがりません」


「本当に変わっていますな……」


「本当ね」


「あと、最近だとボクたちの指導もさせてもらえないんだよね……」


「はい、実演を求められることはときどきあります。でも、指導は絶対に受けません。第二位錬金術師の皆さんは絶対に自力でミドルポーションを作るんだって意気込んでいました」


「素晴らしいの一言ですな」


「ヴィンドの新規錬金術師ギルドもコンソールからの支援でシュミットって言う国からの指導員が来てくれているんだけど、たまに食事を食べに来てぼやいていたわ。『熱量が足りない』って」


「ああ、やっぱり」


「この街に入った時から感じていたのです」


 この街とコンソールの絶対的な違い。


 街にあふれる活気、つまりは熱量の不足。


 ユキエさんみたいにヤケを起こさないといいんだけど。


「……そこまでヴィンドは酷いのですかな?」


「コンソールは先生が去年の夏に大嵐を巻き起こして古い体制を一掃しました」


「そして、今年の夏には『職業観』って言う概念すらもなくしつつあるのです」


「最近、ボクたちと同じように内弟子になったエレオノーラさんって言う人がいるんだけど、その人の子供向け講義がすっごい好評なんだって」


「今では生産系職業どころか戦闘職、それも戦士系職業からも申し込みが殺到していて順番待ちがすごいそうです」


「それは……子供たちですらその活気ですか」


「うん。大人……ギルドに入門した人はもちろんだけど入門待ちの人もすごいやる気なんだって」


「知り合いの鍛冶職人の親方さんが言っていました。子供向け講習だけでは飽き足らない子供たちが群がってきていて、追い返すのに苦労しているって」


「鍛冶職人だけじゃないよ。服飾関係でもお針子さんをやりたいって子供がいるって噂だし、宝飾師も簡単なアクセサリーを作らせて満足させているって聞いたもん。さすがに、建築や馬車は接点がないから噂だけだけど危険だからって追い返しているみたいだよ」


「コンソール、たった二年の間にすっごく変わっちゃったね」


「今では『竜の宝』の国家、『竜宝国家コンソール』を名乗っていますからな。その名に恥じない輝きです」


「竜たちは気付かれないようにいろいろ細工をしているけど、毎日のようにコンソールの上空を何匹か飛んでいるもんね」


「はいです。今日だって、私たちの警護に最上位の聖竜さんたちが二匹一緒に来てくれています」


「街からは見えない上空を飛んでいるって言ってるけど……ボクたちからはバレバレだもんね」


「本当はかなり近くを飛んでいます。魔法で姿を完全に隠しているだけなのです」


「そういえば、旧国家が何度も軍を差し向けたと聞きましたがその都度竜に蹴散らされたとか」


「カイザーたちです。古代竜エンシェントドラゴンのカイザーからすればという感覚すらないはずです」


「そうだね。羽ばたきひとつでって毎回言ってたもんね」


「恐ろしい国になりましたな。コンソールは……」


「そうでもないよ。カイザーもほかの竜たちも襲わなければ反撃してこないし」


「はいです。カイザーたちドラゴンの姿を絵に残す画家さんもいっぱいいます。聖獣さんたちもいっぱいです」


「……敵に回しちゃダメだね。コンソールって」


「そうですな。敵に回した瞬間、街ごと消されるのがオチです」


 カイザーはそんなことしないけどなあ。


 聖竜族の頂点だし、悪意のある人だけ焼き払うブレスなんて朝飯前で吹き付けると思うんだけど……。


 でも、それも知らない人には十分脅威か。

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