418.神獣郷
神獣様に導かれ、僕たちは聖獣の森の奥へ奥へと進んでいきます。
時には右に曲がり、時には左に曲がりしながら。
奥に進むにつれ、森の中は明るくなっていくのですが……森の気配は一層濃くなっていきました。
先ほどからニーベちゃんとエリナちゃんは僕の両腕をがっしりつかんで離しませんからね。
「アリアさまあ、道、本当にあってるんですよねえ?」
「先導していただいているでしょう? これが『第二の試練』ですよ、おそらく」
「はい。森の気配だけを頼りに奥地へと進む。それが『第二の試練』でしょう」
「でも、先生、すっごく怖いのです」
「う、うん。さっきから何の気配もしなくなりました。それでいて異常に魔力が濃いです」
「ふたりとも、それが感じられれば正解です。神獣郷とはそう言う場所なのでしょう」
「スヴェイン様……あの、私ですら逃げ出したい気持ちが出てきているのですが」
「ダメですよ、リリス。道を外れたが最後、二度と森を抜けられなくなるでしょう」
「わかっております。わかっているからこそ恐ろしいのです」
弟子たちやリリスのような魔力に敏感な者たちはこの森の異常さに足がすくんでいるようです。
あとユイも僕のローブをつかんでいるあたり、逃げ出したい思いを堪えるのでやっとなのでしょう。
残りの面々はというと。
「ここがそんなに恐ろしい場所なのかね?」
「ええ。明るい森、としか……」
「明るい森というだけで怖いことは怖いですが」
「なにをそこまで怖がっているのか……」
ミライさんが敏感なのは視線のみ。
魔力には慣れていませんよね。
この押しつぶされそうな魔力の底にいても平気なのでしょう。
『ふむ。聖獣郷の主はともかくその幼子たちは厳しいか』
「い、いえ。大丈夫、なのです」
「ボクたち、二年後、『神霊の儀式』を、受けるので」
『そうか。それだけの覚悟があるならばあれも喜ぶだろう。私も気に入った。また案内してやる。それから『第二の試練』の内容だが聖獣郷の主たちの説明でほぼ正解だ。魔力が濃く、重くなる方にひたすら進み、夜明け前までに神獣郷へとたどり着ければ試練達成。そうでなければ死ぬまでなにもない森の中だ』
「『神霊の儀式』怖いのです……」
「『星霊の儀式』みたいなものだと甘く見ていた……」
『簡単なものであれば廃れるはずもない。聖獣の森自体が珍しいのもあるが、それでも数百年前は点在していた。問題は儀式に挑んで生還できるものが千人にひとりいればいい方だったことだ。それ故にいつ頃からか禁忌とされ忘れ去られていったのだ』
「怖いのです……」
「うん……」
『お前たちの先生が体を張るのだ。それを見て足がすくむのならば立ち止まれ。それを咎めるものはいないであろう』
神獣様、その言い方は禁句です。
そんな言い方をしてしまえば……。
「立ち止まることはできないのです!」
「怖くても成し遂げます!」
『うむ。いい目になった。さすが、聖獣郷の主が手塩にかけて磨き上げた至宝。輝きが違う』
「神獣様、申し訳ありませんが煽らないでいただけると助かります」
『そうか? だが、もう既に決意の炎は宿ってしまった。誰も止めることはかなわぬ』
「そうなのですが……」
『それにもうすぐ神獣郷だ。神獣の泉は更に奥地だが……一休みするといい』
神獣様のいうとおり森が切れ、そこでは様々な姿の聖獣……の姿を模した神獣様が暮らしていました。
ここが神獣様の聖地、『神獣郷』ですか。
「見ただけだと聖獣の群れに見えるけど……全然違うね」
「格というか神々しさというか……なにかが別格なのです」
「はい。ここにおられるのはすべて神獣様。聖獣の姿を取っているのはお戯れに過ぎません」
『あとは我々が世界に必要以上の干渉をしないためだな。内包している力を放ち続ければ様々な悪影響が起こりえる』
「別格なのです」
「うん、別格だね」
『ともかく、森歩きで疲れたであろう。少し腰を下ろし休め。目的地の神獣の泉は更に奥だ』
「はいです。お気遣いありがとうございます……ええと?」
『我らは個体名を持たぬ。名を持ってしまうとあまりにも影響が大きいからな』
「はい。では神獣様、休ませていただくのです」
神獣様の許可が出ると全員が座り込みました。
あのリリスでさえ力なく腰をつくほどの疲労です、相当の疲れがたまっていたことは容易に想像できます。
『それにしても、聖獣郷の主よ。よく『神霊の儀式』を知ったな?』
「あちらにいるコウさんのお屋敷に古文書……の原本が残ってました。それを解読させていただいたまでです」
『何日かかった?』
「一週間ほど。単語単語はほぼ読めたのですが、文法がなかなかつかめず意味を成す文脈を作りあげるだけでそれだけの日数に」
『相変わらずの研究者だな』
「褒め言葉として受け取らせていただきます」
『うむ』
休憩も三十分ほどで終了。
正確にはリリスが一番疲労していたようで、三十分経たないとまともに歩けなかったことが原因でした。
今度は様々な神獣様の暮らす神獣郷を通り抜け奥へ奥へと歩みを進めます。
また一時間ほど歩いた先には一面に真っ赤な花が咲き誇る湖が。
あれが……。
『神獣の泉到着だ。ちなみに第三の試練は神獣たちの怒りを買わぬこと。森を抜けても、その開放感で聖獣の姿をした神獣を見くびり、怒りを買って消される者たちも多数いた』
うん、やはり神獣様たちは恐ろしい。
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