88.『一般品』ポーション作製実習 その4

「つまり、ギルマスが募集していた錬金術師のアレって嘘でも冗談でもなく本気だったのかよ」


「おう! 実際、お前らの手の中にあるだろう、一般品質ポーションがよ!」


「ほかの街ならどっかで買ってきたんだろう、って笑い飛ばすところだが、ヴィンドに限ればそうじゃねぇからなぁ」


「で、実際どうなんだ?」


「あー、俺はまだよくて五回か六回に一個ってところだ。残りはすべて低級品になっちまう」


「いやいや。低級品のポーションでも量産できるってすごいことだぞ?」


「つか、教えてる講師って何者だよ……」


「んー、まだ成人していないくらいの少年だな。ただし、教え方は詳しいし正確。なによりわかりやすいし、間違っているところはきっちり理由付きで指導してくれる」


「そんな子供、この街にいたか?」


「それって、あの子供じゃねぇか? イナさんの喉を治す霊薬を持ってきたっていう」


「ああ、多分そのときの少年だ。あれ、霊薬を持ってきたんじゃなく、作ったんだろうな……」


「マジでなにもんだよ……」


「つーわけで、残りの二日間も講習を受けさせてもらう。悪いな」


「いや、構わないさ。場合によっては、パーティを抜けてポーション作りに専念してもらってもいいぞ?」


「いいのか?」


「おう。一般品のポーションが多く手に入れば俺たちの生存率も増す。それはいいことだ」


「悪いが考えさせてもらう。受講者はほかにもいるから、ほかの面子の動向を見てからだな……」


「わかった。俺たち専属の錬金術師っていうのもありだし、そこはお前に任せるよ」


「助かる。それじゃ、俺は明日も早いからこれで」


「おう、頑張れよー」


「……なあ、話を聞かせてもらったが、ギルマスが募集していたアレってなんだ?」


「うん? アンタ、昨日はギルドにいなかったのか?」


「少し遠出をしていたからな。それで、募集をしていたってのは?」


「錬金術師ギルドが低品質なポーションしか卸さなくなったことに対抗して、冒険者ギルド内で一般品質のポーションを量産しようっていう話さ。それで、冒険者ギルドに所属していて職業が錬金術師系の連中に声をかけていたんだよ」


「本当か!? それって明日からでも参加できるのか!?」


「その食いつき具合、アンタも錬金術師系統の職業か」


「ああ。それで、明日から参加できるのか?」


「俺たちに聞かれてもな……。受付で聞いてきたらどうだ? さすがに、ギルマス直々の講義がどうなってるかなんて、俺にはよくわからないぞ」


「ああ、それもそうか! 話を聞かせてもらってありがとよ! 酒代を置いていくから、一杯やってくれ!」


「サンキュー」



**********



「ふむ、それで受講者を増やしたいと。それも大量に」


「ああ、夜中に宿まで押しかけて相談することになっちまって悪いんだけど、なんとか引き受けてもらえないかねぇ?」


 一日目の講義が終わったあと、宿に戻り明日の講義予定を軽く書き出し寝る準備をしていました。


 すると、エルドゥアンさんからマルグリットさんが来たと告げられて話をします。


 それで頼まれたのが『明日の講義参加者の増員』でした。


「スヴェイン様、どうしましょう?」


「ちなみに、今日の参加者とあわせて何人ぐらいになるんでしょう?」


「全部で七十人近くになるね。できそうかい?」


 七十人……。


 教えることは難しくありません。


 ですが、致命的に機材が足りませんね。


「ふうむ。教えることは出来ますが、錬金台を用意できないと効率が悪すぎて目標に届きません」


「……やっぱり難しいか」


「なので、奥の手を使いましょう。アリア、申し訳ありませんが、明日の朝からコンソールまで買い出しに行ってもらえませんか?」


「はい。初心者向けの錬金台ですね。いくつあれば足りますか?」


「マルグリットさん、錬金台は全部でいくつ用意しましょう?」


「え、ああ。出来れば参加者分、ギルド備品として七十台用意したいが……コンソールまでそんな簡単に買い出しに行けるのかい?」


「十分ですわ。午前中には買い出しを終えて戻って参ります。ただ、数を揃えられなかったら、そのときは諦めてくださいね」


「もちろん、そのときは諦めるが……コンソールまで半日以内で行き来する?」


「難しく考えないでください。僕たちの奥の手ですから」


「……わかった、そうさせてもらうよ。ともかく、錬金台はある程度まとまった数が欲しい。今日の成果を見ている限りそう考えてしまったからね」


「わかりました。では明日の朝、コンソールまで行って参ります」


「その間に、今日から参加していた冒険者さんには復習も兼ねてポーション作りをしてもらいましょう。明日から参加の方々は、申し訳ありませんが追加の錬金台が届くまで概念と魔力水に必要な濾過水の作り方などの説明ですね」


「その方針でいこう。大事になってすまないが頼んだよ」


「ええ、お任せを」


「きっちり結果を出させていただきます」


 さて、受講者がいきなり増えた理由はなんでしょうね?


 やはり、一日で結果を出してみせたことでしょうか。



**********



「……と言うわけでして、錬金術を行う際にはできる限り清潔な空間で行うことが重要になります。特に高位の錬金術を扱う際には埃が少し混ざっただけで失敗することもありますからね」


 翌日、ギルドの会議室に行くと、昨日とは一変して冒険者の方々がぎっしりといました。


 その方々を相手に、アリアが買い出しを終えて戻ってくるまで講義ですね。


「なるほど……それで、魔力水を作る時の水もできる限り不純物を取り除くのか」


「そうなります。蒸留水を錬金術で作ってみせることも出来るのですが、それをやってみせてもよくわからないと思いますのでそこは省かせていただきます」


「ええと、よくわからないというのはどういう意味でしょう?」


「蒸留水とは簡単に言うと『水の中から更に不純物を取り除いた水』です。濾過水の時点で目に見えるゴミや不純物が残っていないのに、そこから更に不純物を取り除いたことをわかりやすくみせるのは難しいのです」


「……確かにそうかも。失礼しました」


「いえいえ。少人数でしたら教え方もあるのですが、さすがに大人数だとそれも難しいのでお許しを。さて、そろそろ買い出しに行ってもらっていた機材が届くはずなのですが……」


「いや、スヴェイン。いくら奥の手があるといっても、お昼までまだまだ時間があるぞ。それなのに帰ってくるとは……」


「ただいま戻りました、スヴェイン様」


「って、アリアの嬢ちゃん!?」


「予想通りの時間ですね、アリア。それで、錬金台はいくつ購入できましたか?」


「すみません。ネイジー商会と系列店、それから錬金術師ギルドもあたっていただいたのですが、三十八台しか買えませんでした。追加で購入したいのであれば、ネイジー商会のヴィンド支店に発注を出してくれれば用意していただけるそうです」


「……本当にコンソールまで行って帰ってきたんだね」


「はい。錬金台はストレージの中にしまってありますが、どこに出しましょう?」


「そうだね。昨日から受講している冒険者たちにはひとりひとつ与えるように、残りを今日から受講する冒険者に割り当てるようにするよ」


 うん、それがいいでしょう。


 昨日からいる方々はかなりこなれてきましたし、一気にスパートをかけていただきたいです。


 今日から始める方々は、まず試行錯誤してもらうところから始めましょう。


「錬金台も行き渡ったね? それじゃあ、昨日からいる連中はポーション作りの精度を上げな。今日から受講している連中はスヴェインの話をよく聞いて、まずは魔力水の作製からだよ」


「はい。そういうことでまずは魔力水の作り方を説明させていただきます。魔力水の作り方ですが……」


 そこから先は昨日の冒険者の方々に教えた内容とほぼ同じ内容です。


 教えるたびに内容が変わっていてはいけませんからね。


 魔力水が完成すると多くの方々が歓声を上げ、ポーションが出来上がると更に大きな声をあげました。


 そのあとは昨日とまったく同じく、魔力水の一般品質を作る精度を上げてもらいます。


 それが出来た人からポーション作りですね。


 出来ないことが出来るようになっていく喜びは僕もよくわかりますよ。


 それが物作りの醍醐味ですからね!

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