451.『精霊の試し』

「お兄様。


「いやはや。こればっかりは面目ない」


 三週連続でギルド評議会が機能しないというのはまずい、と言うことでギルド評議会があった翌日。


 シュミット公国公太女ことシャルにお願いして、『精霊の試し』を行うこと許可を取り付けました。


 場所はシュミット公国大使館内にある魔法訓練場です。


 ただし、暴発しそうになったときに押さえ込むときの補助者として僕にアリア、シャル、コンソールに来ている魔法教官全員が集結してですが。


「公太女様、なにもここまで大事にしなくとも……」


「大事なんですよ、ジェラルド様。『精霊の試し』というのは、お兄様だからこそ簡単に成功したもののそのあとは失敗者が続出。精霊様を舐めてかかったものなど血の海に沈むか炭になるかのどちらかでしたので」


「そこまで……ですか?」


「そこまでなんです。だからこそのです。くれぐれもギルド評議会の外に出さないように」


「わかりました。皆もよいな」


 異口同音に帰ってくる返事。


 さて、僕とアリアは呼ばれたのですが何をすればいいのでしょうか?


「お兄様たちは知らないでしょうが『精霊の試し』で暴発が起こりそうになった場合、その近辺で他のものが『精霊の試し』を行うことで精霊様がそちらに移ってきてくれます。私でも大丈夫だと思ってはいますが、お兄様やお姉様のように澄んだ魔力の持ち主ならなおさら成功率が高い。失敗しそうになったら補助を」


「わかりました。それで、お手本は?」


「お兄様がやってください。『精霊のいたずら』は私でも嫌です」


「僕も好きではないのですが……まあ、元を正せば僕の弟子が招いた不始末。責任は取りますよ」


 僕は右手の前に魔力の玉を作り出しキーワードを唱えます。


「『水の精よ。我に集え』」


 すると魔力の玉がどんどん青く染まっていき……最終的には向こう側が見えないほど青く染まってしまいました。


「これだから精霊たちは……」


「とりあえず、その『精霊のいたずら』早く処理した方がいいのでは?」


「そうします。『アクアバレット』」


 僕の手にたまっていた青い玉は三メートルくらい飛んでいくといきなり破裂、大量の水をまき散らしました。


「……これ、絶対に僕を水浸しにしようとしていましたよね?」


「精霊様らしいいたずらです」


「『精霊の試し』はこれがあるからあまりやりたくないのですよ……」


「心配なさらずとも、全員同じ思いです」


 とりあえず、気を取り直して、僕とシャルは評議会の皆さんの方に向き直りました。


「今のが『精霊の試し』です。先ほどお兄様が耐えて見せたように『精霊のいたずら』に耐えきってみせれば成功。耐えきれずに魔力の玉を破裂させれば失敗です。水属性はな精霊なので、失敗しても水浸しになるだけ。成功すれば水魔法はキーワードのみで発動できるようになります。誰か試しますか?」


「はい! 試します!」


 シャルの声へ真っ先に反応したのは……フラビアさんですね。


 彼女、歩みを止めたと言うわりに貪欲です。


「構わないのですか? 失敗すれば頭から水浸しですよ? それに精霊を侮れば指の二本や三本は切り落とされます。御覚悟は?」


「大丈夫です! そんな真似はしません!」


「そうですか。それでは、こちらへ」


「はい」


 彼女いきなり勢いがなくなった、いや、集中し始めましたね。


 あれなら大丈夫でしょう。


「……うん。イメージもできました。魔力を練って……『水の精よ。我に集え』」


 フラビアさんがキーワードを唱えると徐々に魔力の玉が青色に変わっていき、上下にぶれ出します。


 ですが、それだけでフラビアさんはなんとか維持し続け、やがて深い青色に染まりました。


「……終わった、の?」


「おめでとうございます。とりあえず、その『精霊のいたずら』は『アクアバレット』あたりで捨ててください」


「はい、『アクアバレット』!」


「あ」


「あら」


 フラビアさんは喜びなのか気合いが入りすぎたのかわかりませんが、勢いよく魔法を使ました。


 結果……。


「うわっぷ!?」


 手元で水の玉が炸裂、全身までとはいかないものの。指しだしていた手と頭は完全に水浸しです。


「な、なんで!?」


「だからこその『精霊のいたずら』なんですよ……」


「はい。気をつけて処理しないと自分に被害が及びます。水属性で試させたのもせいぜいびしょ濡れで済む程度だからです」


「……以後気をつけます」


「はい。それではタオルを」


 フラビアさんはシャルから受け取ったタオルで顔と頭を拭き、服についていた水も可能な範囲で乾かします。


「さて、フラビアさん。これであなたは。今後は魔力チャージや魔力属性の変換などの作業なしで水魔法が使えます」


「本当ですか!? 早速試しても!?」


「構いませんよ。ただ、的は……」


「僕が結界付き岩の壁を用意します。何枚でも作りますから存分にどうぞ」


「はい! まずは『アクアバレット』!」


 彼女は本当に何も前動作なしに魔法名だけ唱えて岩めがけ魔法を発動。


 岩の中心部を狙ったのでしょうが……中心部分から少し離れた部分に当たりました。


「あ、あれ?」


「魔法の発動手順が変わりましたからね。慣れないと狙った通りの場所に当たりませんよ」


「ああ、そっか。はしゃいで狙いが甘かったんだ。今度こそ! 『アクアバレット』!」


 二回目の水の弾丸は岩の中央部分を確実に直撃しました。


 本当に筋がいいですね。


「うわあ! これ、楽しい! 今までは下位魔法ひとつ使うにも溜め動作が必要で一瞬の隙ができていたのに、一切隙ができない!」


「よかったですね、フラビアさん。ところでほかの属性を試してみる魔力と覚悟はありますか?」


「え? ありますよ」


「今の様子を見ていた精霊たちが、自分たちにもいたずらさせろと集まっています。早めに試してあげてください」


「やったあ! 次は……土魔法が安全なんですよね!?」


「ええ、まあ。比較的という断り書きがつきますが」


「では。『土の精よ。我に集え』」


 フラビアさんはこの調子で光と闇まで成功。


 聖の精霊もいたずらしたかったようですが、彼女の気力切れとはしゃぎすぎによる魔力枯渇で断念して今日は帰っていきました。


 あと、ミストさんも後輩に負けられないと志願、こちらは基本五属性まで覚えたところでダウンですね。


 魔術師ギルドは……ギルドマスターが水の精霊に一回試して失敗したところで断念。


『研究対象にはなるが自分たちには早すぎる技術』、と判断したようです。


 なお、フラビアさんは今日覚えた技術を使って遂に冒険者ギルドの魔法教官に土をつけたのだとか。


 彼女、本当にティショウさんの後釜に座るべきじゃないでしょうか?

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