571.《クリエイト・キングダム》の型紙完成

「それで、今日も朝からアリアの嬢ちゃんは錬金術師ギルド通いかよ」


「当然です。このペースではいつになったら『クリエイト・キングダム』を使えるかわからないですもの」


「そして、型紙作りはスヴェインさんに交代なんですね」


「アリアにばかり負担を強いるわけにはいきませんからね」


 評議会が終わったあともティショウさんとフラビアさんの錬金術師ギルド通いは続いています。


 そしてまた、『クリエイト・キングダム』を使うための型紙作りでアリアも朝から来てくれていますね。


「スヴェイン、俺たちが読みたい本はその山の中から抜き取って確認すればいいのか?」


「申し訳ありませんがそうしてください。僕の手が離せない以上、そうするしかなく」


「いや、こっちは構わん」


「はい。そちらに集中してください」


 ギルド評議会を通した結果、更に困難な形になった型紙ですがやり遂げなければ街の機能に影響が出ます。


 さて、いかほどか……。


「んー、アリア。どう見ますか?」


「診療所、ひとつ足りませんわ」


「やはりそうですか。潰しましょう」


 僕はほぼ完成していた型紙を廃棄し次の型紙を作り始めます。


 診療所の位置と数が意外としんどいんですよね……。


「ギルドマスター。鍛冶ギルドマスターをお通ししました」


「はい。申し訳ありません。鍛冶ギルドマスター。僕は手が離せないので、欲しい本はあちらにあるリストから調べてそちらの本の山から持っていってください」


「わ、わかった」


 受付にも『ギルドマスターが来たら理由を聞き、技術書目的だったらそのままギルドマスタールームに通すように』と伝えてあります。


 受付の対応をする余力さえありません。


「アリア、今度はどうでしょう?」


「わりといい感じですが……武術訓練場が狭くなっております」


「じゃあ、やり直しです」


「いや、それくらい拡張工事しろよ」


「武術訓練場と魔法訓練場は特殊な結界で覆って外部に効果が漏れないようにするつもりです。技を不必要に盗まれるのを防ぐための屋内施設ですし」


「……そういえば武術訓練場ってたくさんありましたね」


「時間を区切って使っていただくか、同時に使っていただくかはまだ決めていません。ですが、可能な限り他流派の技が漏れないよう心がけるつもりです」


「壮大だな」


「そうでもなければ街造りなどしませんよ。今では文字通りの国造りになってしまいましたが」


 さて、休憩も挟めましたし次です。


 集中して取り組まねば……。


「あ」


「武術訓練場を広く取り過ぎて、魔術訓練場の場所を狭くしてしまいましたわ」


「やり直しです」


「……こういう細かい作業はやはりスヴェイン様の方がお得意ですか」


「そんなことはないはずなんですけどね?」


 普段から武具錬成で細かい装飾品を作ることが多いからなのでしょうか?


 その差でしょうかね。


「ギルドマスター。宝飾ギルドマスターがお見えです」


「今日は千客万来ですね」


「錬金術師ギルドマスター、これは?」


「申し訳ありません。僕の手が離せないのでそちらにあるリストから目的にあいそうな本を探し、それを確認してお持ち帰りいただけますか?」


「いえ、構いませんよ? 構いませんが……一体なにをなさっているのでしょう?」


「国造りのための型紙造りだと」


「冒険者ギルドマスター、型紙造りでございますか?」


「あの模型を魔法で更に小さな模型に仕立て上げてるんだ。それが国の型紙になるらしいぞ」


「それはまた……」


「それでは再開させていただきます」


「え、ええ。私の方も探させていただきます」


「はい。該当技術書が見つかりましたらご自由にお持ち帰りを」


 さて、段々精度が上がってきましたが……今度はどうでしょうか?



********************



「おう、スヴェイン……ってまだ型紙作りか」


「はい。なかなかうまくいかず」


「もうすぐ春だぞ?」


 はい、もうすぐ春。


 冬の三ヶ月目も四週間目に入っています。


 でもいまだに型紙はできていません。


「そういや、お前のところは英才教育施設の発注を建設ギルドにしたんだって?」


「そうですね。建築ギルドにも錬金術師ギルドが使う英才教育施設の建設を頼みましたし、セティ師匠が連れ出していた残り三人も英才教育担当者として準備ができたそうです。あとは、箱ができるのを待つだけだと」


「話しながら作ってて大丈夫かよ?」


「この程度なら。アリア、どうでしょう?」


「うーん……全体としてはあっていますが……学舎の一階一階をもう少し高くしたいところですね」


「やはりそうですか。潰します」


「いや、お前ら。そんなところまで見ていたのかよ」


「学舎の改築、それも階層の改築なんてあとからできませんからね。初期段階が重要です」


「そこで躓くと今後すべてに影響いたしますわ」


「本当に細かいな、おい」


「それ以外、完璧にできるようになってきました。完成はもうすぐですよ。それよりもティショウさん、ここ数日は来ていませんでしたが、また追加資料ですか?」


「ん? ああ。簡易エンチャントの教本が足んなくてな」


「近接戦闘学や遠距離戦闘学では足りないと?」


「冒険者講師どもの動き、〝シュミット流〟以外の動きを見ると移動や防御にも簡易エンチャントをかけてるように見えた。それがそれらの本には載ってねえ」


「なるほど……そうなってくるとどれがいいでしょうね? 『エンチャント辞典』には簡易エンチャントは載っていませんし」


「……このリストにある『防衛拠点構築論』は?」


「それにも載っている可能性があります。それらを応用して編み出した技かも知れません」


「なるほど。本に書いてあるだけが技術じゃねえか」


「そういうことです。〝シュミットの賢者〟の技術書はどこまで行っても教本です。それを更に発展させなくては」


「そうか。とりあえずこの本を読ませてもらう。お前らは俺を気にせず型紙作りに戻れ」


「そうさせていただきますわ」


「はい。始めましょう」


 さて、型紙作り再開です。


 街の部分はスムーズかつ丁寧に仕上がるようになってきました。


 問題は学舎部分。各種訓練場や学舎がうまくできるかどうか……。


 ここは慎重に、慎重に……。


「……アリア、どうですか?」


「少々お待ちを。街の部分は完璧。訓練施設も問題なし。学舎も大丈夫。内部にある階段なども問題ありません。……型紙、完成ですわ!」


「よし、保存します!」


 僕はすぐさま型紙を魔力固着させて『ストレージ』の中へ。


 長かった……。


「ん? できたのか?」


「はい。完成しました」


「あとは魔法を使う準備が整い次第『クリエイト・キングダム』を使用いたします」


「魔法を使う準備?」


「その……大量の契約聖獣が必要なんですよ」


「はい……私たちのに」

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