429.シュミット兄妹のお話

 弟子たちへの技術伝授も終わり、シュミットから依頼されていた錬金台も揃ったのでシュミット大使館を訪れました。


 本来なら完成した品を納品してそのまま帰る予定だったのですが、シャルから引き留められてふたりだけのお茶会です。


「お兄様。錬金台、ありがとうございました」


「いえいえ、仕事ですから。手間はかかりましたが」


「お兄様でも『手間がかかる』ほどの品、普通の魔導具技師が作れるとでも?」


「そこは研鑽を。講師陣の様子からしてまだ公表していないようですが、もできているのでしょう?」


「ええ、できています。ただ、まだまだミスリルやガルヴォルンが採掘出来るだけ。それも国内で使用するには満足できる量ではありません。お兄様はどうやってあれだけの希少金属を?」


「いつの間にか山々に聖獣鉱脈を大量に作ってくれていました。面白がってそこを掘り返しては埋め、掘り返しては埋めするものですから大量に希少金属がたまります。公表はしていませんが、エレメントクォーツやマナクリスタルも大量に保管されています」


「正解です。そんなものが大量にあると知れれば宝飾師たちが血みどろの争いを繰り広げます」


「でしょうね。こちらもあまり公表していませんが宝石もかなりたまっています」


「海の宝石も?」


「そちらはあまり。水の聖獣たちが取ってきてはくれるんですが、やはり少量です。ああ、いや。聖獣鉱脈で採掘される宝石量がおかしいだけなのですが」


「うらやましい。シュミットの聖獣鉱脈で採掘出来る宝石量などわずかです。それだって採掘してくれている聖獣たちの報酬で消えるのですから」


「彼らにとって宝石はおやつですからね。無理に取り上げては採掘してくれなくなりますよ?」


「わかっています。わかっているからもどかしい」


 そこでお互い一息つけるためにお茶に口をつけます。


 シュミットのお茶も懐かしい。


「ところで……聖獣鉱脈って何カ所ありますか?」


「え? 三カ所ですが。それがなにか?」


「以前シュミットに帰ったときの聖獣や精霊の量を考えると、三カ所で満足しているはずはないんですよ。次に帰ったら黄龍にでも頼んで大地の聖獣のまとめ役と話をしてみてください。多分、あなた方の知らない鉱脈が……七カ所くらいできていると思います」


「聖獣たちも隠さずに話してくれれれば……」


「ミスリルやガルヴォルン、アダマンタイトにオリハルコンなどはですが、宝石はですからね。あたりをあまり取り上げられたくないのでしょう」


「……そのハズレだけでも譲っていただきたいのに」


「きっと山になっていますよ、ハズレ」


「そうなるとインゴットの生産能力が……ああ、頭が痛い」


「まあ、うまくやっていってください。僕もいろいろ悩んで、無限素材箱なんていう離れ業を用意することで満足してもらっている程ですから」


「物作り系の聖獣って……」


「理解しようとするだけ無駄です。聖獣たちの間でさえ理解不能と考えられているのが物作りの聖獣、セティ師匠なら知恵も貸してくれるでしょう」


「本当に頭が痛い……」


 シャルが本当に頭を抱え出しましたが、僕はのんびりお茶を楽しみます。


 リリス経由でシュミットの茶葉も取り寄せてもらいましょうかね?


「そういえばお兄様。お兄様も最近はらしいですね?」


「ユイにでも聞きましたか?」


「はい。この間ノーラと一緒に来たとき聞き出しました。最初は彼女が毎回をしていたそうですが、最近だとお兄様が先にをすることもあってそういう日は特に激しいとか」


「僕も若い男だったと言うことです。ユイが言い出した結婚なんですからユイには責任を取ってもらいます。毎回をしてきたのもユイですし」


「はい。なので拒むこともできないと耳まで真っ赤にしながら白状しました。拒むつもりもなさそうでしたが」


「……こんな夫婦生活を望んでいたわけではないのですがね」


「貴族でない以上、次代を残すのはお務めとまで言えませんからね」


「はい。ただ、アリアは僕の子供を絶対に抱きたいようです」


「それもノーラが席を外しているときにこっそり聞きました。アリアお姉様、子供を産むことが絶望的だそうで」


「どうもそうらしいです。なので、彼女はユイにものすごく期待しています。つらい思いをさせるかも知れないとわかりつつも」


「もうひとりの夫人は?」


「僕の目から見ても修行不足です」


「お兄様ですらそう言いますか」


「最近はリリスから習って家計簿をつけていますが……たまりにたまった家計簿、今はどこまで進んでいるのか」


「リリスも容赦しないでしょう」


「それ以上にアリアが容赦しない気がします。最近はミライとの添い寝もしていませんし」


「……本当に三番目。ああ、いえ、それ未満ですね」


「仕事では頼りになるんですけどね」


「家庭では頼りになりませんか」


「はい。まったく」


「お兄様ですらフォローしないなんて……哀れです」


 哀れであろうとミライには頑張ってもらわないと。


 本気で指輪剥奪の上、追い出されますよ?


「それで、ノーラ以外の内弟子も順調ですか? サンディが泣きついてきているので、魔法研磨が順調すぎるのは理解していますが」


「もう少しゆっくり歩くことを覚えてもらいたいくらいに順調です。今はセイクリッドブレイズの『変質』を覚えるため、カイザー相手に頑張っています」


「セイクリッドブレイズの『変質』……私も知りませんよ?」


「じゃあ、シャルにも教えましょうか? 効果は『結界貫通』です」


「やめておきます。名前だけでも物騒ですから」


「残念。あれがあれば竜種相手でもかなり楽に戦えるのですが」


「公太女を竜との戦いに送り込もうとしないでください」


「……それもそうですね。昔は僕とアリアが竜討伐に立ち会うのをうらやましがって泣いていたのですが」


「……忘れてください」


「ふむ。ところで、例の『聖』六人、いまだに僕へ報告が上がってきていませんがどうなっています?」


「ああ、あれらですか。昨年の秋頃から技能教官をつけました。教官に言わせればた期間が長すぎて再教育をガンガンやらないといけないそうですが……まあ、根性は直りましたし『聖』の名前程度はいずれ取り戻せるかと」


「それはよかったです。スカウトしてきた手前、不良債権を押しつけたままだと申し訳ないですから」


「腐っていたとしても元は『聖』だってということです。ただ……」


「ただ?」


「アルフレッド様が更にはりきりだして……」


「あの方用にアンブロシアを用意しておきましょう」


「そうしてくださいますか?」


「それで、テオさんとウィル君は?」


「テオさんは上位の魔法教官相手に互角の戦いができるまでに成長しました。本人は私のように接近戦も学ぶべきか悩み始めています。ウィル君は順調そのものです。月に一度程度ですが、リリスがやってきて指導をつけてくれることを楽しみにしています。問題はモデルケースだったはずの『聖』育成計画がリリスの手によってめちゃくちゃにされたことですが」


「……我が家のメイドが申し訳ない」


「そこは反省してください」


 本当になにをやっているんですか、リリス。


 あなたが頑張る子供を応援することを好んでいるのは知っていますがやり過ぎです。


「さて、そろそろ時間でしょうか」


「そうですね。そろそろお開きに……」


「なにを言っているのです、お兄様。剣の稽古をつけていってください」


「あなた、『賢者』ですよね?」


「『賢者』だろうと剣を使ってはいけないということはありません。最近、私の護衛たちも私の相手はしてくれないんですよ……」


 遂に護衛に勝ち越すようになりましたか。


 護衛、見せかけだけになってきましたね?


「ともかく、着替えて参りますのでお兄様は訓練場で待っていてください。逃げ出したら家まで追いかけますよ?」


「そんなことはしません。早く着替えてきなさい」


「はい。それでは後ほど」


 シャルはシャルですか。


 外見は落ち着いてきましたが、やはりお転婆娘なままですね。

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