エレメンタルロード

415.薬草栽培第二回目の結果報告を終えて

 冬も終わりに向けて動き出し、ギルド評議会で第二回目の結果報告も完了しました。


 今回報告できた内容は、前回の失敗を教訓として活かしたために極めて順調だったということです。


 アトモさんたちにも参加していただき、そちらも満足のいく成果を出しているため、予定よりも少し遅くなりそうですが、いただいた農地いっぱいを薬草畑にすることはできそうだと報告することができました。


 なお、一部はウエルナさんによって『第一位』のローブを剥奪されたようですが、そこまで面倒を見切れません。


 本当に、本当に本部と支部の格差をどうにかできないものでしょうか。


 今はギルドマスタールームにてウエルナさんや第二位錬金術師を集めての報告会です。


「んじゃあ、今回の結果報告では特に問題なかったと」


「はい。ウエルナさんも第二位錬金術師たちも頑張ってくれました」


「スヴェイン様にこんな愚痴を言いたくないが……本部の連中はともかく支部の連中は手を焼いたぞ」


「俺たちもです。まさかあんなに苦労するだなんて……」


「私も甘かったようです。スヴェイン様に出張してもらえればなんとかなると考えていたのですが……」


「サブマスターは悪くない。ローブを剥奪したのは『第一位』をもらって慢心していた連中ばかりだったからな」


「そういう意味では本当に本部はやりやすいですね……ときどきエレオノーラも混じっていることだけが難点ですが」


「いや、止めているんですよ? でも、たまに抜け出していて……」


 はい、本部の薬草栽培にエレオノーラさんも混じることがたびたびあるそうです。


 起きてくるのが遅いな、と思ったら畑仕事を終えて帰ってくる始末。


 そんなに薬草栽培がしたいなら家の裏庭でも弟子たちの畑でも間借りすればいいのですが……。


「向上心があっていいことだと思いますよ? 業務に支障は出てないんでしょう?」


「抜け出すのは休日ばかりなので支障はありません。ただ、彼女は替えが利きませんし将来を考えれば必要な人材。休日にはゆっくりしていてもらいたいのですよ」


「難しいっすねえ」


「まったくです」


 彼女に言わせれば将来子供たちに教えるためにも薬草栽培を体験しておきたいのだとか。


 そのうち薬草採取体験のための畑がほしいと言う要望をあげられそうです。


「それで、今進んでいる薬草栽培の方は順調ですか?」


「順調だな。回数を重ねたのもあるが魔法の扱いにも慣れてきた。魔力溜まりの作り方もうまくなったし、魔力水の均質化も進んでる。このペースでいけば春の早い段階であの農地は完全に薬草園だ」


「そうですか……第二位錬金術師たちには『猫の額』で次の試験栽培を先にお願いしておいてもよろしいでしょうか」


「何でしょう」


「魔草と風治草です。風治草は簡単に育ちますし成長サイクルも早いので高品質化も早いです。……まあ、高品質な風治薬を作ってもあまり意味がないのですが」


「風治薬って風邪薬でしかないですからね」


「ギルドマスターが風邪の根源だって言う祟り神を倒して以降、コンソールで風邪にかかる人間もかなり減りましたから」


「それに今から始めても季節外れですが試験栽培と考えて諦めてください。メインはもうひとつの方、魔草の栽培手順と成長サイクルの確認です」


「やっぱり栽培手順とかも違うんですか?」


「俺から答えちまうが手順や注意点はまったく一緒だ。ただ、成長サイクルが遅いだけ。魔力も多めに吸い取る傾向があるから、それも考慮しないと栽培に失敗しちまうぞ」


「なるほど。それで薬草栽培をやらせて慣れさせてるんですね?」


「そうなる。魔力を多めに、深く浸透させないとなかなか高品質になってくれないんだ。そういう意味では、まだまだ魔草栽培は時期尚早なんだが……」


「正直、試験栽培に割ける時間が少ないです。魔草の成長サイクルを考えると一カ月に二回しか種まきできません。それでいて一株から取れる枚数は薬草よりも少数、早くからその点に気が付かせて効率的な栽培方法と栽培面積の割り振りを覚えさせなくては」


「お厳しいですね。ただ、その考えには俺も賛成だ。薬草と魔草、この関係は中級以上になってもあまり変わらない。早めに経験を積ませるのは正解だな」


 ニーベちゃんとエリナちゃんは実体験から最適な割り振りをすぐに見いだしましたが、それはふたり分しかなかったからこそ。


 大規模栽培となるとわけが違います。


「ちなみに、『猫の額』でどれくらい栽培すればいいですか?」


「今回は最初から最高品質の種を支給します。どの程度の魔力溜まりが必要か、魔力水はどの程度与えなくては十分に育たないのか、株の栽培間隔はどの程度が必要かなどを試してください」


「わかりました。じゃあ、今ある薬草が空いたらすぐに取りかかります」


「頼みました……弟子たちに第一位錬金術師の指導を任せるのは怖いので」


「あー、ニーベさんもエリナさんも厳しいところは厳しいですからね」


「俺らの指導も普段は優しいんだけど、厳しいところは厳しかったもんな」


「体罰は師匠命令で禁止しましたが……今度は『マジックショック』とか『セイクリッドブレイズ』を放ちそうで怖いです。それじゃなくても物理的に蹴り上げたことが噂になっていたのに」


「よくも悪くも師匠似ですね」


「悪い側面は似てほしくなかったですよ。本当に」


 ギルドマスタールームが笑いに包まれましたが……本当に頭の痛い問題です。


 ユイには同じことを二度とさせないようにいろいろな意味で厳罰を与えましたが、本当に余計な事を教えてくれました。


「さて、それじゃ俺はそろそろ支部に戻ります」


「俺たちもアトリエに戻って結果を皆と共有します」


「はい。ああ、それと、これが風治草、こっちが魔草の種です。数は十分に入っていますが無駄遣いはしないでください」


「わかってます。それでは失礼します」


 ウエルナさんと第二位錬金術師が去り、ギルドマスタールームにはミライさんとアシャリさんが残されました。


 彼女たちとは彼女たちとで話をしておかなければなりませんからね。


「……遮音結界ですか。ココナッツは?」


「そこまで必要がありません。それで、魔草の栽培ですが夏くらいまでは失敗が続くでしょう」


「ええっ!?」


「本当ですか、ギルドマスター!」


「はい。僕の見立てではそうなります。『猫の額』では一回で成功するでしょうが、本部の第一位錬金術師でも荷が重いと考えています。ウエルナさんも承知の上で引き受けてくれたはずです」


「それっていいんですか?」


「あまりいいとは言えませんが……魔草栽培を始める前にギルド評議会では説明をしておきます」


「それは賛同を得られるのでしょうか?」


「今のところ薬草栽培は試験段階。錬金術師ギルドの専決事項です。最初の内に失敗を積み重ねておいて、経験をさせておけば本格栽培になったときの不安も減らせます。むしろ、何事もなくすいすい進んだときの方が、本格栽培で問題が起きたとき対処法がわからず困る可能性がある」


「確かに。今の間に問題点はすべて経験させて次の世代に継承させるべきですね」


「薬草栽培を始めたのは僕です。当然、その知識も豊富。ただ、以前の問題のように僕でも悩む問題は起こりえる。僕がすべてマニュアル化するよりも、実際に経験させてそれを自分たちの手でマニュアル化させる段階まで育っているはずです」


「そう考えると成長しましたね、『新生コンソール錬金術師ギルド』も」


「その大層な名前、あなたが持ち込んだんですよ? まあ、夏の混乱で理由もわかったので気にはしませんが」


「はあい。いやあ、それにしても前ギルドマスター体制も知っている身としては本当に変わりましたよ、錬金術師ギルド。街の厄介者で仕方がないからポーションが売れていた、いえ、買ってもらえていただけの末席から革命の象徴まで上り詰めたんですから」


「ギルド評議会で末席なのは譲りません」


「私だって重役はいやです」


「……本当に錬金術師ギルドって上役になりたがらないんですね」


「僕は僕で弟子の育成の片手間ですから」


「私、家のお仕事が泣きたいくらいに増えたので……」


 うん、今日も錬金術師ギルドは平和です。

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