341.十五歳、夏の終わりのギルド評議会

「皆さん、相変わらず僕は最後ですか?」


 久しぶりにギルド評議会へと呼び出されたかと思えば、また錬金術師ギルド以外の椅子はすべて埋まっています。


 この爺ども……。


 あとはゲストとしてシュベルトマン侯爵とシャルもいますね。


「済まぬな。シュベルトマン侯爵からの状況確認と情報の共有を先にしておきたかった」


「情報の共有……僕が『竜の帝』である件ですか?」


「うむ。まあ、今日は……どの立場でも話をしたい。とりあえず錬金術師ギルドマスターの席に着いてくれ」


「はい。それでは……」


 僕が錬金術師ギルドマスターの椅子に座ると、早速話が始まりました。


「まずは『竜の帝』に聞きたい。各地を飛び回っている竜は帝の指示か?」


「勝手に飛び回っています。飽きればそのうち帰るでしょう」


「そうか。次に『スヴェイン』に聞きたい。この街に潜んでいた間者、そちらで把握しているだけで何人始末した?」


「僕の聖獣から報告を受けたのは三十二人。僕以外の聖獣たちも含めればもっといるでしょう。関わった聖獣たちは皆、泉で身を清めていますので問題ありません」


 ここで口を挟んできたのはシャルでした。


 少し悔しそうな口ぶりですね。


「我が国の暗部が始末したのは十八人。お兄様の聖獣の方がやはり鼻がききますか」


「数が違いますからね。そう考えれば、シュミットもなかなかです」


「それでもです。目の前で聖獣に獲物を取られた者たちもいますよ?」


「それはこの街の聖獣たちでしょう。この街の聖獣たちも街を守ろうと必死でしたから」


「はっ、やっぱり聖獣ってのは可愛いだけじゃないんだな?」


「そんな事は『試練の道』に挑んでいる冒険者ギルドマスターが一番よく知っているのでは?」


「……それもそうか」


 場が少し和んだところで、次の質問が飛んできました。


「次、『錬金術師ギルドマスター』に問う。最近、錬金術師ギルド本部に錬金術師たちが出入りしているのだが……心当たりは?」


「……僕は止めていたんですけどね。街が正常化するまでポーション作りはするなと」


「誇らしいことです。それだけ自分の仕事に信念を抱いているのでしょう」


「正常化したらギルドマスター命令でお仕置きです。まったく、護衛は監視でもあるというのに」


 本当に、本部の連中は……。


 最近、止めても聞かないのは弟子に似てきましたね。


「次はシュベルトマン侯爵から君に質問があるそうだ」


 今度はシュベルトマン侯爵からですか。


 おおよその想像はつきますがなんでしょう。


「スヴェイン殿、本当に伝説にある竜の支配者『竜の帝』なのか?」


「なんだったら、この上空に一匹竜を呼んでもいいのですが……どうします?」


「い、いや、結構。それだけの力を持ちながら、今までなぜ動かなかったのだ?」


「カイザーに言わせれば『聖獣の主としても竜の帝としても、どちらかの立場で動けば国が終わる』からだそうです。そして、この言葉に僕は反論できません」


「そ、そうか。では、我々の領地を竜が守ってくれたのは……」


「竜の自発的な行動です。僕は命じていません。聖竜族にとっての宝は『気高き心を持つもの』。そういうものが多かったのでしょう」


「わかった。聖竜族の慈悲、ありがたく受け取ろう」


「ええ、そうしてあげてください。あと、村や街に居座って邪魔でしたらご連絡を。彼らは特になにも食べずに生きていますが、大きいだけで威圧感もありますし場所も取ります。竜の帝として命じて移動させますので遠慮なくどうぞ」


「ああ、いや。確かにいくつかの村では竜たちが居座っているらしいが、関係は良好だ。特に害がないことは知れ渡っている。今から大きく動くとそれはそれで……」


「わかりました。とりあえず、居座っている竜たちには好きにさせます」


「頼んだ。そして、ここからが大切な話なのだが……」


「内乱が終結、あるいはほぼ終結したのですよね? 竜たちから報告を受けました……カイザー経由というのがちょっと解せませんが」


「……話が早くて助かる。争っていた各地方だが、それぞれが独立の道を選んだらしい。都市国家……よりは大きな規模であるが、あまり大規模な国々ではないな。実際、今回の内乱で各地の戦費も馬鹿になっていないようだ」


「まことに愚かしいです」


「まったくだ。そして、我が領地も独立の道を選んだ。それにあたりいくつかお願いがある」


「なんでしょう? どの立場に対してですか? 最近は『竜の帝』だったり『聖獣の主』だったりと、いろいろばれてしまっているのでかなり大変なんですよ」


「ああ。まずは『竜の帝』か『聖獣の主』に対してのお願いだ。シュミットからシュベルトマン領まで道の開拓をお願いしたい」


 道の開拓……ああ、そういうこと。


「『魔の森』を切り開け、と」


「そう言うことになる。シャルロット公太女様にお願いしたのだが……」


「さすがに危険です。シュミットにいる聖獣様方は動いてくれると限りません」


「どうだろう? 話に乗ってはもらえないか?」


 さて、どうしたものか……。


 利点はシュミットとの陸路が開通すること。


 欠点は……。


「魔の森を開拓して誰が警備をするのです?」


「あ、いや、それは……」


「魔の森を切り開くだけならば帝としても主としても簡単に動けます。ですが、そのあとの維持ができない。それこそ、シャルのような人間でもいなければ維持など困難でしょう」


「うむ……」


「……譲歩案を出しましょう。あの周辺の土地もください。聖獣の泉と森を作ります。そうすれば勝手に魔の森は聖獣の森に変わるでしょう」


「いいのか?」


「聖獣が逃げ出さなければ、です。聖獣がいなくなればすぐに魔の森に変わります」


「それでも助かる。シュミットとの陸路は確保したかったのだ」


「コンソールとしても利点のある話です。ただ工事の着工はしばらく先です。棲み着いてくれる聖獣がいるかどうかわからない以上、すぐに手を付けても意味がありません。聖獣がいない間は……聖竜にでも代行させましょう」


「わかった。コンソールとしても陸路はほしいのだな」


「僕とシャルがいる間はカイザー便やロック鳥便が使えますが、僕とシャルがいなくなったあとのことも考えねば」


「……そのときには竜たちが喜々として輸送をしてくれる気がしますよ?」


「シャル。僕もそんな気がするのですが、余計な事は言わなくてよろしい」


「竜とは気さくなのだな」


「心を開いた相手には気さくです。カイザーなんて弟子たちの魔法の的になっているほどですから」


「……エンシェントホーリードラゴンが的か」


「お前の弟子も化け物じみてきたな?」


「カイザーいわく『ふたり揃えば下位竜を倒せそう』だそうです。まったく、まだ十三歳だというのにどこまで進歩していくのか」


「……お前がこの街に来たのも十三歳だよな? お前に比べれば可愛いものだろう?」


「否定はしませんが、育った環境が違います。まったく、魔境どころか秘境にも行ったことがないのに……」


 本当に実戦経験がないのにどこまで進歩するのか。


 一日でいいのでエリシャさんの講習に紛れ込ませてもらいましょうか。

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