189.薬草収穫の結果、そして次のステップへ

 お昼休憩が終われば午後の作業、午前中と同じく『クリエイトアース』で畝を作る作業ですが……。


「失敗です! 土がカチンコチンになっています!」


「こっちも失敗かな。これじゃあ、種が根付かないよ」


 ニーベちゃんたちよりも魔力操作に慣れていない錬金術師たちは、何度もダメ出しを受けながら畝を作り続けて行きました。


 そして、おおよそ二時間後、畑一面にようやく畝が完成します。


 長かったですね。


「先生、このあとはどうしますか!?」


「普通に一般品質の薬草を撒くわけではありませんよね?」


「はい。ニーベちゃんには昔見せたを使います。申し訳ありませんが、あなた方の手持ちから最高品質の薬草の種と最高品質の魔力水を分けていただけますか?」


「お安いご用です!」


「最近はあまり気味ですからね」


 後ろでどよめきが上がっていますが無視です。


 弟子ふたりが手早く薬草の種と魔力水を撒き終わり、ここからは僕の作業となります。


「さて、始めましょう」


 僕は薬草畑に魔法をかけて薬草を一気に生長させます。


 成長段階は……五日目くらいで大丈夫でしょうか。


「先生! このの種を教えてください!」


「ボクも気になります。ボクたちでも同じことができるのか……」


「今のあなたたちなら構わないでしょう。時空属性のクイックタイムを超広範囲に、超高速でかけたものになります。これで薬草の品質が下がる理由も説明がつきますよね?」


「はい。地中の魔力が失われてしまうのです」


「ボクたちじゃ種はわかっても真似できないね」


「真似できるようになっても使わないことをおすすめします」


 弟子たちとの会話も終わりましたし、呆けている錬金術師たちも含めた皆さんへ説明いたしましょうか。


「ご覧の通り、薬草栽培は可能です。僕の使った手品によって薬草の品質は一般品質まで下がっていますが、それでもきちんとした薬草です。錬金術師たち、ニーベとエリナから説明を受けてこの薬草をすべて収穫しなさい!」


「「「は、はい!」」」


 返事はいいですがさすがに腰が引けています。


 もっさりと薬草が並んでいるのですから、無理もない。


 僕がこんな事を考えている間にも錬金術師たちはニーベちゃんとエリナちゃんの指導を受け、おっかなびっくり薬草を採取していきます。


 ニーベちゃんも最初は初々しかったですし、懐かしいですね。


 まだ一年経っていないのですが。


 錬金術師たちがすべての薬草の収穫を終えたのはそれから更に一時間を過ぎた頃でした。


 これではやはり予定の作業まで間に合いませんか。


「なんだか懐かしいのです。私も先生に初めて薬草栽培を教えてもらったときはこんな感じでした」


「それ、詳しく聞きたいな、ニーベちゃん」


「じゃあ、夜にでも話してあげますね、エリナちゃん」


 弟子の仲が良いのは大変結構なのですが……錬金術師たちはまだ体力が残ってますかね?


「皆さん、大丈夫ですか? このあと種の採取もしてもらわなくてはいけないんですが?」


「種の採取!? 皆、やる気を出すぞ!」


「「「おう!」」」


 あ、復活しました。


 僕はまた弟子たちに魔力水を撒いてもらい、一気に種が収穫できる段階まで成長させます。


 これを見たシュベルトマン侯爵たちは目を見開いていますね。


「錬金術師たち。可能な範囲で種を集めてください。。採取できなかった分は、弟子たちが土魔法でまた地中深く埋めますのでお気になさらず」


「聞いたか! 明日以降の研究素材だ!! 一個残さず集めきるぞ!!」


「「「もちろん!!」」」


 あーあー、本気ですね、これは。


 実際、三時間かけましたが全株から本当に種を集めきりましたし、やる気と熱意に感服ですよ。


「ギルドマスター! このあとの畑はどうすればいいんですか!?」


「それも弟子たちに見本を。ニーベ、エリナ」


「はい!」


「わかりました」


 ふたりは地面に手をつくと


 それをみたほかの面子は、一様に呆然としていますね。


「さすがにこれ以上時間をかけられないので実習はさせませんでした。なにをやったかはわかりましたね?」


「土魔法を使って薬草を地中深くに埋め込んでいました」


「結構。こうすることで、取り損ねた薬草の種が発芽することを防ぎ、また、土地に魔力をため込む事ができます。これが薬草栽培のすべてです。


「「「もちろんです!!」」」


「よろしい。明日からは弟子たちから畑の見張り番も借り受けます。彼らがいれば許可のない人物はこの畑を認識できません。作付面積などは無理のない範囲で相談して決めてください」


「「「はい!!」」」


「それから、薬草に与える魔力水はにする事。そうすればこれだけの魔力を蓄えた土地ですから、一度で高品質な薬草の種が収穫できるはずです」


「本当ですか!?」


「あなた方が失敗しなければの話です。薬草の種が取れるのは栽培開始から十一日後程度になります。それまで、しっかり育てるのですよ?」


「「「もちろんです!」」」


 錬金術師たちにはこれで解散していただき、残った面々だけで話し合いです。


「それで、スヴェイン殿。弟子たちが使った種が最高品質の種とは本当なのかね?」


「鑑定してみますか? ニーベ、種をひとつ」


「はいです」


「ありがとう。では、シュベルトマン侯爵、どうぞこちらです」


「うむ……うむ、本当に『最高品質の薬草の種』だ……」


「おわかりいただけましたか?」


「ああ、よくわかった。それで、先ほど言っていた一度で高品質な種ができるというのも本当か?」


「畑にいろいろと仕掛けをしてありますので、錬金術師たちがしくじらなければそうなります。結果もご覧に?」


「当然だ。王都で無価値に半年近く足止めされた事に比べれば、この街で一カ月や二カ月過ごすことなど造作もない!」


「それは喜ばしい事です。あの錬金術師たちなら最悪でも二回で高品質の薬草の種を栽培して見せるでしょう」


「実に頼もしいな。さて、それで、残っている一般錬金術師どもの話だが……」


「お、ビンセント。あのを引き取ってくれるのか?」


「ああ。この街では落ちこぼれだろうが領都でマジックポーションを六割一般品質になるならエリート中のエリートだ」


「なっさけねぇな」


「実に情けない。だが、あの精鋭たちは引き抜けない。活かせる環境を用意してやれない。為政者としてそれが堪らなく悔しい」


「その気持ち、わかりますぞ」


「我々も最初はスヴェイン殿の講義がまぶしすぎて目を背けてしまっていた程ですからな」


「この街でもそうなのか……我が地方でも変えることは可能だろうか……?」


 ふむ、この方でしたら本当にシャルと面会させても構わないでしょう。


 シャルからは『お兄様のお眼鏡にかなわないような方とは面会したくもありません』などと過激な発言をされていますが。


「シュベルトマン侯爵。錬金術師たちの結果が出るまでの間、一日だけお時間をいただけますか?」


「うむ。待っている間にやることはほぼない。なにかあるのかね?」


「シュミット公国の公太女がこの街におります。会談の席を設けましょう」


「まことか!?」


「はい。ですが、彼女もシュミット家の人間。穏やかそうに見えて気難しい。対応を間違えれば金輪際、縁がなくなることは御覚悟を」


「わかった。私も覚悟して会談に臨もう。日程はいつにする?」


「シュベルトマン侯爵の都合のつく日で」


「……三日ほど時間をいただけるか。その間にこの街をもう一度確認し、我が領における改善点を洗い出したい」


「そういう理由でしたら彼女も待つでしょう。申し訳ありませんが、大使館はまだ完成しておりませんので錬金術師ギルドのギルドマスタールームにて会談をお願いいたします」


「スヴェイン殿はどちらにつくのだ?」


「僕はただ場所を提供するだけですよ。基本的にはお茶をすするだけの存在です」


「食えないな。だが、心強い。公太女様への取り次ぎ、しかと頼む」


 さて、シュベルトマン侯爵も動き始めました。


 彼がシャルのお眼鏡にかなうかどうか……見物ですね。

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