30.旅から持ち帰ったもの

「さて、スヴェイン。どこに行っていたか説明してもらえるか?」


 昨日、シュミット辺境伯領の屋敷に帰り着いたときは夕方遅くだったため、旅装を解き身を清めるだけで僕とアリアは寝てしまいました。


 そして、今日はお父様の執務室に呼び出されて事情聴取されています。


 ちなみに、セティ様も同席されていますね。


「はい。僕たちはウィングとユニに乗り、2匹が全力で2日半ほど進んだところにある森へとたどり着きました。そこで石化したワイズマンズ・フォレストを発見し、持っていたワイズマンズストーンを返却、復活したワイズマンズ・フォレストが……」


『儂じゃ。いまはワイズと名乗っている。よろしく、人よ』


「驚いたね。これで4匹目の聖獣契約かい? よほど聖獣に愛されているんだね」


『そのようじゃの。ここからは儂が説明しよう。儂との契約で魔力を使い果たしたスヴェインを休ませるために、森で一泊。そのあと、儂の知己であるウンディーネの泉を浄化してもらっていたんじゃ』


「ウンディーネの泉? なぜそのような場所を?」


『うむ。古い知己だったからな、見過ごすのも気分のよいものでもなかった。それに、浄化させれば聖魔法の修行にはもってこいだったからのう』


「聖属性の魔法レベル上昇ですか。確かにそれは都合がいいですね。それでどこまで上がりましたか?」


『スヴェインは12、アリアは20まで上がったようじゃ。やはりノービスはどの属性でも覚えられるが伸びが悪いのう』


「魔法使いの聖属性の魔法レベルは20が限界。そこまで育ちましたか」


『そのようじゃ。すまんのう、育成予定を曲げてしまったか?』


「いえいえ、僕は時空魔法を教えに来ただけですから。それ以外の魔法は、いままで教えてきた冒険者の皆さんやワイズマンズ・フォレスト様にお任せしますよ」


『そうか。では、その冒険者とやらとも話をして早急に育成計画を詰めよう。せっかくのノービスじゃ。最上位職ではもったいなかろう?』


「おや、奇遇ですね。僕もそう思っていました。できれば『賢者』になってもらえれば嬉しいのですが」


『賢者は難しいな。すべての時空属性以外の基本属性五種類……つまり、火、水、風、土、雷のすべてを21以上に、それ以外の上位属性すなわち光、闇、聖、回復をすべてレベル20にするのはかなり厳しい。時空属性もレベル5以上だと覚えているぞ?』


「そのほかにも【詠唱短縮】スキルをレベル10まで鍛えるなどもありますね」


『お主、詳しいのう』


「ええ、まあ、いろいろ研究しましたから」


 すごいです。


 僕たちは置いてけぼりになっていますが、伝説の『賢者』に就くための条件が明かされていきますよ。


 ものすごく大切な内容です。


「とりあえず『賢者』になるかどうかは本人の意思に任せましょう」


『儂としては『賢者』よりも『聖獣使い』の方がお勧めじゃが』


「おふたりとも、それくらいにいたしましょう」


「ああ、すみません。シュミット辺境伯」


『すまんのう。このような鍛え甲斐のある子供も珍しいものでな』


「ふむ……スヴェインはなにを目指したい?」


「僕は錬金術師がよかったのですが……難しそうですね」


「今更、錬金術師は難しいね」


『錬金術師か……それならば『隠者』を目指すのも悪くないな』


「『隠者』ですか? そのような職業があるのですか?」


『魔法系の生産職を極めたものじゃな。錬金術のほか付与術も含め様々な生産スキルをある程度扱えるようになる必要がある。もちろん、魔法もな。錬金術師以上にきつい道だが、より難しい錬金術も行えるぞ』


「それはすごいですね。ですが、なぜ知られていないのでしょう?」


『この職に就く条件に鑑定スキルがレベル50以上の必要があるのだ。そもそも、鑑定レベル50まで伸ばせる者が少ない。『隠者』になるには『星霊の儀式』までに条件を満たす必要がある。そのほかにも、いまのヒト族たちは15歳の『神霊の儀式』を失伝したからのう。それ故に超級職や神級職と呼ばれるものにつくことが少ないのじゃよ』


「『神霊の儀式』ですか?」


『ヒト族の職業を最終的に確定させる重要な儀式だったのだが……邪神族との争いの中で失われてしまったのだな』


「ワイズ殿、それを復活させることはできますか?」


『ふむ……協力してもらえるならばできるぞ?』


「シュミット辺境伯、この話は国王陛下たちと会談を行うだけの価値があると思いますが」


「たしかに。ワイズ様、その『神霊の儀式』は『星霊の儀式』と同じような儀式なのですか?」


『少し違うな。『星霊の儀式』は、他者から洗礼を授けてもらうものだ。『神霊の儀式』は、自ら星霊に自身の力を認めてもらうために伺いを立てるものだのだよ』


「つまり、自力で行う必要があるのか……」


『それから、自助努力が足りなければ職業がランクダウンすることもあり、失敗し死ぬことも多い。いいことばかりではないのだ』


「難しい問題ですね……」


 難しい話が続きます。


 結局、『国王陛下や星霊神殿にお伺いを立てる』という結論に至ったようですが。


「それで、先ほどウンディーネを助けたと聞いたが聖魔法はどの程度使えるようになった?」


「はい。ホーリージャベリンを使えるようになりました。浄化もかなり強く行えます」


『そのほかにもウンディーネがアリアと契約した。それに、ウンディーネから宝剣を二振りもらったな』


「宝剣? いま出せるか?」


「はい、これです」


「……ふむ、見た目だけならば宝石などで装飾を施されただけの装飾剣なのだが」


「いえ、これは……魔装剣と呼ばれる魔剣の一種です。すでに製法が失われて久しい魔剣ですね」


「そうなのですか、セティ様」


「ええ。効果としては、魔力を流すことにより魔力の刃を作れます。また、魔力を飛ばして攻撃することも可能です。ここまできれいな状態で見つかるなんて、珍しいなんてものじゃないですよ!」


 セティ様が興奮するなんて本当に珍しい武器なんですね。


 これを持ち帰ることができただけでも価値があると考えるべきでしょうか。


『水色の刀身を持つ剣の方が性能がよい。スヴェイン、お前がその剣を使え』


「はい、わかりました。もう一本は?」


『とりあえずしまっておけ。必要なものが現れたときに渡せばよい』


「そうですね。あとは……例の木の実はどうしましょう?」


「例の木の実? スヴェイン、なんだそれは?」


『ヒト族は『賢者の果実』と呼んでいる木の実だ。私のいる森ではいくらでも採取できる木の実だからな。ついでなので、持たせることにした』


「持たせることにって……スヴェイン、どのくらいもらってきたんだい?」


「ええと……いろいろな種類を一山ずつです」


「……他言できぬな」


「王家に知らせるのもまずいね」


『スヴェインの家族にのみ食べさせろ。そのために持ち帰った』


「量が多すぎます。ワイズ様……」


 僕もそう思います、お父様。


 ワイズもなにをしたいのでしょうか……。


『いまは必要ないだろうが、いずれ必要になる。森に取りに戻るのは面倒だからな』


「わかりました。賢者の果実については他言しないこととしましょう」


『それがよい。これが持ち帰ったもののすべてだな』


 こう考えるといろいろ持ち帰りましたね。


 ……そういえば、ワイズマンズストーンを使ってしまいましたが、どうしましょうか?


「お父様、ワイズマンズストーンを使ったことは問題になりますでしょうか?」


「国王陛下の捜査は入るだろうが、聖獣ワイズマンズ・フォレストがいることで問題なしと判断されるだろう」


「あの宝飾品店のアズールさんはどうなりますか?」


「アズールも捜査を受けるだろう。どうなるかは……わからないな」


 難しい問題ですね。


 僕にできることはありませんが、大ごとにならないように祈りましょう。

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