244.社会見学について

「スヴェイン殿、あなたの提案でギルド評議会を開催することになるとは珍しいですな」


「ご足労をおかけいたします。商業ギルドマスター」


「まったくだな。最近は『街のお兄さん』に『杖のお爺ちゃん』、『陽気なエルフ』まで加わっているそうじゃねぇか」


「アルフレッドさんとテオさんもそれぞれの修行が終わると子供たちの遊び相手をするようになってしまい……おかげで、錬金術師ギルドそばの公園は子供たちがたくさん集まっています」


「いいことじゃねぇか。それで、今回の提案かよ」


「はい。ティショウさんにはあまり関係のない話なのですが……」


「いや。戦闘系の職業を授かっている子供たちからすれば価値がある。話し合う意味は十分にあるぜ」


「そう言っていただけるとありがたいです」


 その後、続々と集まってくるギルドマスターやサブマスターたち。


 僕からの提案、ということもあるのかサブマスターまで全員出席ですね。


 そこまで大事ではないのですが……。


「それでは定刻だ。ギルド評議会を始める。提案者、錬金術師ギルドマスター。内容を」


「はい。本日お集まりいただいた議題は『街の子供たちに対する社会見学について』です」


 さすがにこの話をしても会場は特に反応しません。


 事前にミライさんと一緒ともに作成した資料を配ってありましたからね。


「錬金術師ギルドマスター、議題については資料を読ませてもらったので内容を知っている。知ってはいるのだが……なぜこのような提案を?」


「実はですね。数日ほど前に錬金術師ギルド近くの公園に集まっていた子供たちを連れてシュミット公国大使館へ行ってまいりました」


「シュミット公国の大使館へ。なぜ?」


「その……子供たちが『聖』の強さを見たいとせがむものですから。個人的にはいまの状況だとあまりにも弱く見せられてものではないのでお断りしたかったのです。でも、『杖聖』アルフレッドさんと『賢者』テオさんのすすめと公太女シャルロットの許可により見学は実行されました」


「はあ? あいつら、シュミットの講師にボコられてるだけだろ?」


「はい。連れて行ったあと一対一の指導も見せましたが攻撃すらさせてもらえず、蹴り一発で悶絶してその辺を転がっていました。……スカウトしてきた側としては非常に申し訳ない限りです」


「それと今回の提案がどう繋がっているのでしょう?」


「そのあとアルフレッドさんとテオさんが稽古を見せて子供たちの喝采を受け、更にシャルが『賢者』でありながら『剣術師』に剣で勝てることを証明しました。そして……」


「話は読めた。お前が講師をボコったんだろう?」


「……シャルの命令で相手をすることになった『剣術師』と『魔術師』ふたり同時に勝ちました」


「それはまた……」


「『聖』の連中が形無しだね」


「しかし話が繋がりませんな」


「はい。そのときにアルフレッドさんやテオさん、それにシャルや僕も『努力することの大切さ』を教えました。そのときいた子供たちは戦闘系の子供たちもいましたが、それ以上に生産系職業の子供たちも多く……」


「話が繋がりましたね」


「各ギルドで『努力している姿』を見てみたくなったという訳か」


「おっしゃるとおりです」


「それで、受け入れればいい子供たちはそのときの子供たちだけでしょうか?」


 だとよかったんですがね……。


 子供たちのネットワークというのも馬鹿にならないんですよ。


「申し訳ありません。子供たちの間でそのときの話が爆発的に広まってしまいました。少なくとも錬金術師ギルドがある一角の子供たちはその話を知っております」


「む……それは」


「公園にいた子供たちを受け入れる、などという問題ではありませんな」


「だなぁ。それで、わざわざギルド評議会か」


「はい。可能でしたら何回かに分けてこの街の子供たちに各ギルドの様子を見ていただこうかと考えまして」


「悪い発案ではない。だが……」


「私たち鍛冶ギルドは難しい、いえ、危険ですね。何せ取り扱っているものがものだけに子供たちが触れていいものかどうか」


「そこだな。鍛冶ギルド以外は……建築ギルドか」


「うちも危ねぇな。ギルド員に言い聞かせても、子供の好奇心に任せてたら危ないところを走り回られそうだ」


「正直に言えば我が医療ギルドも難しい。危ない薬もあるし刃物の類いもある。どうしたものか……」


「そういう錬金術師ギルドはどうなのですかな?」


「僕たちは大丈夫です。危ないものはすべて取り除き、子供たちに触れさせるものは日常的に扱うものか安全性を十分に確保したものだけにします」


「ふむ……だが、一部のギルドだけ行うとなると不満が出るだろう。子供からだけではなく親からも」


「だがよ。これは子供たちにとっていいチャンスだぜ? この先どんなことができるのか知ることができれば勉強になるってもんだ」


「おや、冒険者ギルドマスターは賛成ですか」


「訓練場から訓練の様子を見せて……あとは訓練用の武器を少し触らせる程度だがな。冒険者になれ、なんて言えないが戦闘系の職業を授かっている連中にはいい目標になるかも知れねぇ」


「商業ギルドマスターとしても賛成ですな。地味な仕事ではありますが、どんなことをしているかくらいは教えられるでしょう」


「ふうむ……では医療ギルドも行ってみるか」


「建築ギルドでも手を考えてみよう。錬金術師ギルドマスター、この辺の知識をシュミットの連中は持ってないか?」


「当然持っているはずです。彼らも子供の頃には体験したと思います」


「では鍛冶も考えましょう。シュミットの方々から話を聞いてどこまでできるか考えてになりますが」


「決まりだな。反対のものは挙手を」


 今回の提案、反対する方は誰もいませんでした。


「では子供たち向けの社会見学を行うこととする。錬金術師ギルドマスター、年齢範囲は?」


「それは各ギルドに任せるべきかと。ギルドによって危険な仕事、安全な仕事様々ですし」


「確かに。それでは今回の提案は一度持ち帰り、一週間後に再度集まって各ギルドの条件をまとめる。その上でギルド評議会からの発案として募集しよう」


 ふう、なんとか提案が通ってよかったです。


 僕が『服を作っているところをみせてほしい』などとせがまれても無理ですからね。


 各ギルドがどんな条件を出すか次第ですが……まあ、ダメだったときは数年我慢してもらいましょう。

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