540.シャルとお茶会
聖獣とともに歩む隠者書籍版第2巻の発売を記念して一日二話更新をしばらくの間行います!
これは二話目です。
明日の一話目はいつも通り朝7時10分。
聖獣とともに歩む隠者第2巻全国の本屋、通販などで好評発売中!
よろしくお願いいたします!
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「なるほど。それで私のところになにかいい知恵はないか聞きに来たと」
「シャルやシュミット公国にそこまで求めません。愚痴を聞いてもらいたかっただけです」
「……お兄様が愚痴」
ジェラルドさんや各ギルドマスターとの打ち合わせの翌日、今度は僕がシュミット大使館に足を運びシャルとお茶会をしています。
話題はやはりコンソールの物不足について。
さすがにシュミット公国へ頼るわけにもいかないので単なる愚痴を言いに来ただけですが。
「やはり深刻になりましたか。コンソールの物不足は」
「やはりなりましたね。想像以上に早く移民が増えすぎた結果」
「市民生活への影響は?」
「そこまでは出ません。シュベルトマン侯爵からもかなり融通していただけています。ただ、これ以上移民が増えてくると食糧事情も怪しくなり始めますし、今の時点でも各ギルドで使う新人育成用の素材不足です。早々に第二街壁外の耕作地帯をなんとかしていただかねばなりません」
「ヒントは差し上げたのですがね」
「やはり農地管理のノウハウさえあれば魔術師がほとんど管理していますか」
「はい。各村々では人の手によって農業も行っておりますし、人の手でしかできない作業は人の手でやっております。ですが魔法で行える範囲は魔法で管理してしまう方が人件費も凶作になるおそれも少なく安定いたします」
「それ、主に麦栽培とか野菜栽培ですよね?」
「はい。麦や野菜栽培です」
「……シュミットって何年くらい前から独立できるように計画されていたのでしょうか」
「お父様でも知らないと。グッドリッジがそこそこ良好だったからこそ独立する意味がなかっただけで、計画され始めたのは……ひょっとすると百年以上前かも知れません」
「でしょうね。僕やセティ師匠の知識があって発展したといっても、あまりにも鮮やかすぎる独立化です」
「お兄様の薬草栽培知識やセティ様の知識がなければ、それ相応に苦労していたはずですよ?」
どうだか。
それがなかったとしても、大した差がない気がします。
「それで、お兄様。解決の糸口は見えているのでしょうか?」
「いいえ、まったく。各地へ交易に出ている商人たちには帰る際、それらの品物を多めに買ってくるよう指示はしてあるそうですが……やはり時期が悪い。各国家各街それぞれ備蓄を考えると大量放出はできないでしょう」
「難しいですね。せっかく新しい箱ができたのに人員を受け入れられないとは」
「各ギルドともそれで悩んでいます。僕みたいな奥の手を使えないことが響いてますね」
「そういえばお兄様が離れたあとの錬金術師ギルドは大丈夫ですか?」
「そのために薬草園を計画中です。少なくとも薬草だけは栽培マニュアルが僕から見てもおおよそ合格レベルのモノとなっています。それ以外はもうちょっと頑張ってほしいと突き返していますが……あとは時間と根気の問題でしょう」
「中級薬草は?」
「試験栽培を始めてもらっています。そちらはさすがに苦戦中なのでヒントを出していますが、それでもなかなか思うような結果は出ていないと」
「悪い結果になっていないだけでも素晴らしいのでは?」
「本人たちは最低でも高品質を目指したいそうで。……高品質霊力水が必須だと言うことを忘れているのですが」
「……そこも指摘してあげては?」
「基礎をしっかり固めておくのは悪くないでしょう。弟子たちみたいに最高品質を量産しても意味はありませんが、高品質を目指すなら土壌に含まれる魔力量も多めにしないといけませんからね」
「確かに。その通りです」
「というわけで、無理の出ない範囲でもがかせます。しかし、コンソールの問題は頭が痛い」
「あら、普段は狸爺どもに丸投げするくせに」
「丸投げしたいのですがしわ寄せが来そうなので先に対処したいのです。最終手段はありますし、それを使えば十分過ぎる量を用意できるのですが」
「……聖獣農園ですか」
「聖獣農園です」
はい、聖獣農園で普通の穀物や野菜、布素材を育ててもらえばいいのです。
散々好き勝手に危険物を栽培しているのでコンソールで消費する分のモノを生産するなんて大した手間じゃないんですよ、彼らにとっては。
それこそ世界樹の枝もありますし、コンソールが一年で消費する分を一週間で生育するくらい造作もなくできる程度に。
「でも、ここで手を貸してしまうと絶対将来は問題になるんですよね」
「万能過ぎるのも考え物ですね」
「物作り系の聖獣に頼っていては国作りなんて破綻しますから」
「そう考えると……手を貸せる手段はほぼないのでは?」
「はい、まったく考えつきません」
「ですが、このままでは国の体制も危ういと」
「ですね。第一街壁内……旧市街と第一街壁外……新市街で大きな差が出始めています。不正なブランド品販売を行う店が増え続けているということは、それらを斡旋する裏社会の人間たちもいるのでしょう。人さらいなどをすれば聖獣が動きますが、そうでなければよほどのことでない限り聖獣も動きません。人のことは人でするのが当然ですが、いろいろな分野で人が足りていません」
「難しいですね。豊かになりすぎた代償というのも」
「はい。〝都市〟であった頃からある程度はいたのでしょう。ですが、〝国家〟となり新たな〝人〟が増え続けた結果、裏の人間たちの温床にもなりつつある。まことにままなりません」
「衛兵等の増員は?」
「募集はしているようですが集まりは……特に新市街からの集まりは悪いです。彼らの目的は『職人』になることですから」
「ですが、同じ夢を抱いて集まりすぎた結果が今の惨状と」
「そうなります。かと言って、故郷に戻っても『職業優位論』の煽りでまともな生活はできません。それならばなんとか日銭稼ぎをしながら各種見習い等で雇ってもらうチャンスをうかがう方がマシのようです」
「ヴィルジニーさんもそんな方のひとりでしたっけ」
「おや? 彼女と会いましたか?」
「はい、会いました。ノーラが連れてきてくれたのですが、子供たちの話をするときはとてもいい笑顔で話をしてくれる好ましい少女です。ノーラには私のところに来るとき、なるべく彼女も誘ってほしいとお願いしましたよ」
「彼女、自分が子供の面倒を見ることを、子供たちと遊ぶことを好きだったなんてまったく知らなかったようですから」
「そのようですね。ノーラもいい後輩を見つけました」
「ええ。各ギルドでも取りこぼしのないように人員を受け入れられればいいのですが」
「それも難しいと」
「まったくもって」
「シュミットからも多少の輸出はできますが……人材育成のための消費となると足りないでしょうね」
「足りないでしょう」
「うーん、私たちが技術供与してもいいものかどうか悩みます。お父様にも確認してみましたが、やはり難しい問題だそうで」
「でしょうね。食糧供給の方法を輸出するとなるとそれまでの蓄積すべてを公開することになります。僕がシュベルトマン侯爵に差し出した薬草栽培の知識なんか目じゃないですよ?」
「あの知識、シュミットでも買わせていただきましたが、新しい発見がかなりあったそうです。さすがお兄様で」
「聖獣たちも手伝ってくれましたからね。薬草栽培の周期が非常に早かったのです。資料編纂の方が手間でしたよ」
実験データ量が半端ではなかったですからね……。
その中から有意義なことと無意味なもの、重複している内容などいろいろ抜き出すのが大変で。
「ともかく農耕栽培の知識の輸出はしないほうがいいでしょう。まだまだコンソールが頭を悩ませるべき時です」
「お兄様もお厳しい。ですが、間に合いますか?」
「狸爺どもには間に合わせていただけねば」
「本当にお厳しいですね」
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