465.本格的なお引っ越し

 さて、おマヌケなサブマスターのことは放置して引っ越し作業です。


 清掃の方も奮発して大量の人員を投入したのでギルド評議会の翌日には終了、その翌日からは使えるようになりました。


「ギルドマスター、立派な建物になりましたね」


 そんなつぶやきを漏らすのは第二位錬金術師。


 ずっと旧ギルド本部で見習い部屋を使い続けていた方々です。


「まったくですよ。街の中心部にもかなり近くなっているし、商業ギルドもすぐそこ。錬金術師ギルドのエンブレムや看板も最終日に取り付けられたらしいです。結果、誰ひとりとしてここが新しい錬金術師ギルド本部だなんて気づきもしなかった」


「そうっすね。俺の家だと旧ギルド本部に向かう途中で通ってたんですが、なんかでかい建物を建ててるな程度しか考えてませんでした」


「とりあえずその責任は伝え忘れていたサブマスターにすべて取ってもらいました。仕事でもプライベートでも」


「ああ、それで、指輪のはめ直し」


「そういうわけです。とりあえず、第二位錬金術師と今いる第一位錬金術師の皆さんは三階の部屋になります。各自移動して部屋の整理や機材の搬入などを」


「あ、あの」


 僕の言葉に反応してきたのは第一位錬金術師のひとりです。


 なにかおかしいことを言いましたかね?


「私たちも三階ですか? 第一位錬金術師は二階だと伺っているのですが……」


「ああ、伝え漏れていました。とりあえずお引っ越しが終わったらあなた方には昇級試験を受けていただきます。あなた方が霊力水を作ってミドルポーションの研究をしていることぐらいとっくに承知済みですよ?」


「それは……その」


「と言うわけで昇級試験です。引っ越し作業が落ち着きギルド本部が正常に稼働したら、ギルド支部より見習い錬金術師を百名受け入れる予定となっています。指導計画はウエルナさんたちとも話し合いますが、主体は第二位錬金術師です。あなた方も教える側になるので気を抜かないように」


「「「はい!!」」」


「結構。では、引っ越し作業を開始してください」


 続々と新本部へと入っていく第二位錬金術師と第一位錬金術師たち。


 あちらはあちらに任せて問題ないでしょう。


 おマヌケなサブマスターはサブマスターで引っ越し作業をしていますし、アトモさんたち一門にも四階の部屋一室を与えています。


 事務員たちもそれぞれ一階の事務室を整理したりしていますので問題ないでしょう。


 問題があるとすれば……僕ですね。



********************



「えー遠くにお引っ越ししちゃうのー?」


「スヴェインお兄ちゃんと遊ぶ機会が減っちゃう……」


「すみません。僕もお仕事がありまして……」


 はい、僕の問題、それは旧本部近くの公園に集まっている子供たちとのお別れです。


 この子たちも最近は講習会に参加することが多いとはいえ、僕と遊ぶ機会もまだあったんですよね……。


「ねえ、本当に行っちゃうの?」


「急で申し訳ありませんが、もう引っ越し作業中なんですよ。ときどきは遊びに来ることができるでしょうが、頻度はもっと少なくなってしまいますね」


「「「えー」」」


「いや、ごめんなさい」


「新しいところまで遊びに行っちゃダメ?」


「うーん、結構遠いんですよね。ちょっと子供だけで遊びに来るのは難しいかと」


「そうなんだ。杖のお爺ちゃんと魔法使いのお兄ちゃんは来てくれているんだけどな……」


「彼らとは仕事の内容が違うんですよ。お引っ越しをしてからはまた仕事がたくさんあるでしょうし、なかなか遊びに来る機会は……」


「むー。ウサギのお姉ちゃんの講習会もなかなか参加できないし、つまんなーい」


 ウサギのお姉ちゃんですか。


 エレオノーラさんもかなり講習会の依頼が殺到していますからね。


 最近は減少傾向にあるそうですが……減ってきた理由は待ち時間に耐えきれなくなってきたことですか。


「ねえねえ。スヴェインお兄ちゃんは講習会ってできないの?」


「僕ですか?」


「うん!」


「僕が講習会ですか……」


 さて、どうしたものか。


 週に一度くらいギルドを空けても問題ないでしょう。


 その上でエレオノーラさんと同じように一日二回、午前と午後の二回に分けてやれば一日百人消化できますが……勝手にやるわけにもいきませんし、まずはギルド内部で話を通してその上でギルド評議会ですね。


「少し考えてみましょう。さすがに僕もいろいろとお仕事があるので絶対とは言えませんが、許可が出れば開催します。ただ、そちらも参加者が増えてきたらウサギのお姉ちゃんと同じように順番待ちですからね?」


「「「はーい!」」」


「それでは、すみませんが僕もお引っ越し作業があるので今日は失礼しますね。仲良く遊ぶのですよ?」


「「「うん!」」」


 僕自身が専属で講習会ですか。


 エレオノーラさんのヘルプでときどきやってはいましたが……それも悪くないかも知れませんね。


 あとは、それで錬金術以外に興味を持ってくれた子供たちをほかのギルドが取り込めるかですが、そこまでは責任を持てません。


 なお、引っ越し作業が一段落した時点で行われた第一位錬金術師の昇級試験ですがさすがに不合格者はいませんでした。


 どちらにせよ新しい環境を与えられなかったからそのままにしていたとはいえ、甘えさせすぎていましたかね?

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