208.挿話-16 シュミット公国の交渉
さて、今日は我が娘シャルが来ている国との交渉か。
事前にもらっている連絡ではこの国ではカビの生えた古くさい風習がはびこっていると聞くが、筋は通しておくべきだからな。
無駄足だとしても。
しかし、今回は黄龍殿までお越しになるとは。
本気で交渉する気がないことがばれてしまうな
実際、王都の外部城壁の上では弓隊が弓を構えているし……。
そのような豆鉄砲が黄龍殿に刺さるとでも?
『私の姿を見てもなお弓を向けるとはなかなか勇気がある。どれ、少し遊んで……』
「やめてください、黄龍殿。本気で戦争を仕掛けに来たと考えられてしまいます」
『大差なかろう?』
「国としての筋は通さねばなりません」
黄龍殿には離れた場所で待機していただき、私は単騎で外部城壁まで近づいていく。
「何者か!」
誰何の声が飛んでくるが、当然だろうな。
「シュミット公国公王、アンドレイ = シュミットだ! 国王への謁見を願いに来た!」
「シュミット公国……? 聞いたことのない国名だが?」
「できてまだ日が浅いのでな。この国とは魔の森を挟んだ先にある。我々のように空でも飛べねばまともに行き来もできぬよ」
「それで、その自称公王が国王と謁見だと!? 馬鹿にするな!!」
「そうか取り次がぬか。では、この国の地方とでも好きに交渉させていただく」
「勝手にするがいい! 相手にしてくれる場所があるのであればな!」
「ああ、そうさせていただこう!」
これで義理は果たした。
シャルの元へと行くか。
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「それで、黄龍様までおいでに……」
シャルへと会いにコンソールという街まで来たのだが、あっさりと通してもらえたものだ。
てっきり身分確認くらいはされると考えていたのだが。
「ああ。この街の者はあまり驚かないのだな」
「お兄様が先にエンシェントホーリードラゴンを見せてしまいましたので」
「そうか。ところで、この街に入るときに身分確認すらされなかったのはなぜだ?」
「聖獣様に乗ってやってきたためかと。お兄様や私がいる街です。聖獣使いであればその関係者だとバレバレですよ」
なるほど、一理ある。
さて、それではこのあとどうするか。
「シャル、このあとの予定はどうなっている?」
「一応この地域の領主シュベルトマン侯爵には、お伺いする予定である、と伝えてあります。ただ、あちらもこの地域一帯をお兄様に分割割譲する予定。早く行かないと行き違いになりますね」
「そうか。シャルに言われたとおり、一連の講師はシュミットで待機させているが」
「では、早速動きましょう。早ければ早いほどいいですから」
シャルもこのあたりはディーンそっくりだな。
いや、スヴェインもだったから兄妹全員がか。
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「あなたがこの地方の領主、ビンセント殿か」
「はい。お目にかかれて光栄です、アンドレイ公王様」
「アンドレイで良い。まだ公王と呼ばれるのには慣れぬ」
「ではアンドレイ様と。しかし、巨大な蛇のような……あれは古代の文献にある龍ですかな? それと、シャルロット公太女様のロック鳥。派手なご登場です」
「済まぬな。黄龍殿には本国で待っていてもらうように何度もお願いしたのだが」
「いやいや。私は構いませんよ。家臣の地方領主どもは我先にと逃げ出しましたがね」
「それは申し訳ないことをした」
「これから行われる事を考えれば地方領主はいない方が都合がよろしい。期待は裏切らないのでしょうな?」
「さすがに錬金術師は無理だ。息子以上の錬金術師を育てることがどうしてもできぬ」
「スヴェイン殿ほどは望みません。ではこちらに。各ギルドのギルドマスターは招集させていますので」
「本日はよろしく頼む」
「いえいえ、こちらこそ」
そのあとは我が国自慢の講師陣による『デモンストレーション』を行わせていただいた。
この国のギルドマスターの何人が理解できるかはわからぬが。
実際、契約を結びたいと申し出てきたのは冒険者ギルドと宝飾ギルドのふたつだけだったからな。
本来はシャルの仕事だが私がいるということで私自身が予算を聞き、後日講師陣をシャルに派遣してもらった。
そこからコンソールまでの帰り道にビンセント殿とその家臣団をロック鳥に乗せて行ったと聞いたが……ビンセント殿も抜け目のない。
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