234.寿命と延命
「なんだ!? この巨大な鳥は!?」
エヴァンソンからやってきたというジェレミさんを始めとする使節団一行。
時間がないのでロック鳥に乗せて馬車ごと空輸です。
「ロック鳥といいます。時間がないのでこれに馬車を含めてすべて積み込んでください。積み込めないものがあるなら廃棄を」
「わ、わかった。皆のもの、急げ!」
積み込み作業は……遅いですね。
すべて廃棄させて僕が弁償したほうがよかったでしょうか?
「待たせた。積み込み作業が完了した」
「では皆さんもロック鳥に乗ってください。あと、僕たちはエヴァンソンとやらの方角を知りません。ロック鳥に指示を出せばその通りの方角へと飛んでくれますから先導をお願いします」
「……飛べるのか。このような大きな鳥が?」
「時間がないのでしょう? つべこべ言わずさっさとしてください」
「わ、わかった」
『大丈夫かな、あの人たち』
『心配だわ』
「ダメだったらダメだったときでしょう」
「そこまで責任を持てませんもの」
ジェレミさんはやはりロック鳥が飛んだ直後パニックを起こしていましたが、すぐに切り替えて指示を出し始めました。
あとは僕たちがついていくだけですね。
********************
「な、なんだ!? あの巨大な鳥は!!」
「こちらに向けてまっすぐ飛んでくるぞ!!」
あーあー、街ではパニックが起きてますよ。
いくら急いでいるとはいえ、ある程度離れた場所で降りるよう指示していたのに……。
街壁上で起こっているパニックを無視してジェレミさんは街壁の真横にロック鳥をつけました。
そして、出てきた衛兵たちに事情を説明しているようです。
「スヴェイン殿! アリア嬢! 街へ入る許可が下りたぞ!」
「はいはい」
「大胆な方ですこと」
「済まぬがロック鳥とやらはこのままにしておいてもらってもよろしいか? 荷物を降ろしたい」
「かまいませんよ。荷物を降ろし終わったら、勝手にどこかへ飛び去るでしょう」
「助かる。そして、私の騎馬を最初に降ろしたいのだが」
「順序はそちらで決めてくださいな」
「済まないな」
ジェレミさんは馬に乗ると街の中を疾走、そのまま一番豪華な建物中に入っていきました。
宮廷とは違う感じですし、なんでしょうね?
「スヴェイン殿、アリア嬢! こちらだ!」
建物の中も駆け抜けるジェレミさん。
途中何度も人にぶつかりそうになっていますが……いいんですか?
そしてたどり着いたのは、建物の最奥にある一室でした。
「すこし待ってくれ。いま入室の許可をもらってくる」
ジェレミさんが部屋の中に入り押し問答をする声が聞こえてきます。
十数分後、ようやく部屋へ立ち入る許可が下りました。
「ジェレミ。言うに事欠いてこんな子供たちがあの『コンソールブランド』の錬金術師ギルドマスターだと?」
「はい。間違いなく、そちらの少年は錬金術師ギルドマスターでした。少女の方は魔法薬に詳しいと」
「だがだな……」
くだらない押し問答をしている間にも【神眼】で患者の容態を観察します。
しますが……これは。
「アリア」
「はい。私も同意見です」
「ん? なにが同意見なのかね?」
「スヴェイン殿? アリア嬢?」
「あの方が……ズレイカ様ですか?」
「ああ、そうだ。早く診察を!」
「だから、このような子供たちに!」
「その必要はありませんわ」
「ですね。診察しても無駄です」
「なに?」
「どういう意味だ?」
「あの方はもう寿命です」
「命の灯火が消えかけております。霊薬や神薬を持ってしても治せませんわ」
「な……嘘だろう?」
「馬鹿な……こんな子供たちに?」
「……やはり私は寿命でしたか」
「ズレイカ様!」
「お気を確かに!!」
「そのものたちをこちらに」
「しかし……」
「私の命令です」
「はっ」
呼ばれましたし、行くとしますか。
「初めまして、ズレイカ様。スヴェイン = シュミットです」
「同じく相棒のアリア = アーロニーですわ」
「スヴェイン = シュミットにアリア = アーロニー? 『国崩しの聖獣使い』と『精霊に愛されし魔女』!?」
「まさか……」
「いまはコンソール錬金術師ギルドのギルドマスターですよ。誰も代わりになってくれないので勤め続けて一年弱なのですが」
「それで、私が寿命というのはまことですか?」
「はい。嘘をつく理由はありません」
「気休めでも誇大でもありませんわ」
「そうでしたか。そんな気はしていました」
命がつきようとしているためか、大分弱気になっておられますね。
まあ、致し方ありませんか。
「エルフという種族に甘えすぎましたね。後継者育成を疎かにするとは」
「まったくです。人間だろうとエルフだろうと、いずれ寿命は来るもの。後継者は育てねばなりません」
「むしろ、エルフだからこそ育成せねばなりませんわ。そして、早いうちに引退し、陰から支えるのが最善の道でした」
「……子供に諭されるとは、まったく耳の痛い限りです」
「スヴェイン殿、アリア嬢! 本当にどうにもならないのか!?」
「だから寿命だと言っているでしょう。これを解決するには寿命を延ばすほかありません」
「そうか……そうだな」
「そういうわけです。それで、ズレイカさん。あなた、五年あれば立派な後継者を育てられますか?」
「五年……そうですね。本当に五年あれば育ててみせますとも」
「わかりました。その覚悟を信じましょう」
僕はマジックバッグからわずかばかりの粉薬を取り出しズレイカさんに飲ませました。
「な!?」
「貴様!」
「ものがものだけに毒味などさせるわけにいかないのですよ。神薬よりも貴重品ですからね」
僕がそんなことをいっている間にズレイカさんは体を起こしました。
うん、効いたみたいですよ。
「ズレイカ様!?」
「お体は!?」
「おかしいです。先ほどまでの苦しみが嘘のように……」
「アンブロシアを少量飲ませました。これで五年間だけ延命できます」
「ただし、本当に五年間だけですわ。五年後には確実な死が待ち受けていること御覚悟くださいませ」
アンブロシア、僕の拠点ではある程度の量が取れるんですよね……。
おかげで本当に不老不死が実現できてしまい……困ったものです。
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