103.弟子の成長
「今週のポーションを受け取りに参りましたわ」
そういってやってきたのは、冒険者ギルドのサブマスター、ミストさんでした。
そういえば今日が来る日でしたね。
「それで今日はどれくらいの数が出来ておりますの?」
「はい。ニーベちゃんは高品質ポーションが三十七本、一般品ポーションが十二本、一般品ディスポイズンが十二本、マジックポーションはまだ納品できるレベルではありませんね」
「納品できるレベルではない? 下級品ということですか?」
「いえ、さすがに下級品ではなく低級品は出来ています。ですが、低級品では本人も納得していないみたいです」
「……内緒でその低級品、買わせていただくことは出来ますか?」
「マジックポーションってそんなに供給量不足なんですか?」
「はい。とても切実に供給量不足です。低級品のマジックポーションでも、まとまった数があるなら大助かりですわ」
「ちょっと待ってください……ニーベちゃんの低級品マジックポーションが四十二、エリナちゃんの低級品マジックポーションが三十八ありますね」
「全部買い取らせてください」
「ふぅ。仕方がありませんね。来週には一般品のマジックポーションを卸せるように鍛えておきます」
「よろしくお願いいたします。それで、エリナちゃんの成果は?」
「ええと、高品質ポーションが二十八本、一般品ポーションが二十本、一般品ディスポイズンが十五本ですね」
「一週間でこれだけの数を作るとは……感服いたしました」
「まだまだ効率を上げてもらいたいところですが、魔力量が足りないのですよ。そこも底上げしながらですね」
「わかりました。これがふたりの今日の報酬になります。お数えください」
ミストさんは、いつの間にか一本あたりの買い取り額明細を作り、それに買い取り本数をかけた数を書き込んでいました。
やりますね。
さて、問題の買い取り額ですが……うん、渡されたお金とぴったり合いました。
「今週はこれで終わりでしょうか?」
「そうですわね。出来れば、来週からお願いしたいことがありますが……」
「お願いしたいこと、ですか?」
「はい。ふたりの成果物であることを示すような装飾を瓶に付けて欲しいのです。ふたりのポーションは効果は一般品のものと変わりがないとのことですが、後味が残りにくく集中を妨げないと評判になってしまいました。そのため、なにかわかるような印が欲しく……」
なるほど、それは思ってもみませんでした。
僕にとってポーションは『飲みやすいものでなければいけない』と言う固定観念がありましたからね。
普通のポーションはそんなに飲みにくいものなのでしょうか。
「わかりました。今日の納品物も一度並べ直していただけますか?」
「はい。……これでよろしいでしょうか」
「ええ。では行きますよ」
僕は簡単な魔術を使い、それぞれの瓶に金を使った装飾を施していきます。
装飾の内容は、カーバンクル二匹が戯れている様子。
それをポーション瓶四面を使って表現してみました。
これなら、偽物を作るにも手間がかかってやってられないでしょう。
「ええと、こんな感じでよろしいですか?」
「は、はい。今のは魔術ですよね? こんなことができる魔術、聞いたことがないのですが……」
「僕のオリジナルです。まあ、装飾にしか使えないのであまり効果はありません」
「いえ、こちらは助かります。それではこれを持って、至急ギルドに戻らせていただきます」
「はい、道中お気を付けて」
玄関先までミストさんを見送り、今度は弟子ふたりが頑張っているアトリエへと移動です。
ふたりとも、いまの時間はポーションの高品質安定に力を注いでいる頃ですね。
「失礼します。皆さん」
「あら、スヴェイン様。ミストさんとの販売交渉は終わりましたか?」
「ええ、つつがなく。それでふたりにも話があるんですが、あの集中力を途切れさせるのはもったいないですね」
「今行っている会話も耳に入っていないみたいです。しばらくは待ちましょう」
「ですね。ゆっくりさせていただきましょう」
ひたすらポーションを作り続けるふたりを見て、僕も昔はああだったなと思い返します。
遠い過去の話ですが、それでも大切な思い出ですよ。
小一時間ほど練習を続けたふたりは、息を切らせながら錬金台から離れます。
ちょっと魔力切れの症状を起こし始めていますね。
このあと少しお話をしたら、少し寝て魔力回復に努めてもらいましょう。
「あ、先生。戻ってきたのでしたら、声をかけてくださっても良かったのに」
「そうですね。ボクもニーベちゃんも気にしませんよ?」
「僕のほうが気にするんです。真剣に取り組んでいるふたりの邪魔をするのはね」
「先生に褒められるとなんだか恥ずかしいです」
「ちょっとムズムズします」
「この程度で満足してもらっては困りますよ。さて、今日のポーション買い取りについて、買い取り明細と買い取り金を渡していきます」
「はい!」
「なんだかボクの作ったポーションが売られると思うとドキドキします」
「それでは、こちらが明細書です。よく確認してください」
「わかりました! ……あれ、私たちが作った低級品マジックポーションも売れている?」
「先生、これは一体?」
「どうもこの街ではマジックポーションの在庫がかなり足りていないようなのです。なので、低級品でも喉から手が出るくらいに欲しいらしいですよ?」
「それで、マジックポーションも売ったのですか……」
「はい。せっかく買い取りたいと言っているのですし、なにより必要とされているならと思い販売することにいたしました」
「うぅ……でも低級品マジックポーションなんて恥ずかしいです……」
「ボクもです。せめて一般品を作れるようにならないと……」
「そうですね。そういうわけですので、これから一週間はマジックポーションの作り方について重点的に教えていきます。これが確実に出来るようになれば、本当の意味で一人前ですよ」
「はい! わかりました!」
「うん、ボクも頑張ります!」
「結構。ふたりは部屋で少し寝てきてください」
「え、ボクたち、まだまだやる気が……」
「魔力枯渇の症状が出始めています。今から始めても効率が悪いので、先に休憩です」
「うー、早く始めたいのに……」
「先生がこうおっしゃっているんだから、魔力枯渇は近いんだと思うよ。今は体を休めよう?」
「仕方がありません。でも、このあとはしっかり教えてくださいね、先生!」
「ええ、約束いたします」
本当にこのふたりの向上心はすさまじいです。
昔の自分を見ているようで、つい力を込めてしまいそうになります。
ただ……。
「ふたりとも、お金を置いていってしまいましたわね……」
「僕たちが言うのもなんですが、お金の大切さを教える授業も必要ですね」
教えることはまだまだたくさんありそうです。
先達として、しっかり導いてあげないと!
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