667.滞在四日目:午後の訓練

 昼食を食べ終わり午後の予定……また訓練なのですが、それを始めようとしたところようやくお父様が帰ってきました。


 二日酔いで青ざめた顔をしながら。


「スヴェイン、シャル、アリア、ユイ、リリス。お前たち、本当に私を置いて帰るのは酷くないか? しかもフランカ嬢とその侍女は連れ帰ったというのに……」


「フランカは既に準備ができていましたから、お父様にだって『深酒して酔い潰れたら置いていく』と宣言してありました」


「いや、だが……」


「それを破ったのはお父様でしょう? それに帰りがこの時間。スレイプニルには相当ゆっくり飛ばせたのでは?」


「その……」


「お義父様。いまは一国の主なのです。加減を覚えてくださいな。ソーディアン公爵家だからよかったものの刺客に襲われていたらどうなさるおつもりで?」


「いや、その時は……」


「あの、お義父様。さすがに弁解は見苦しいかと……」


「……すまん」


「国外なのです。いえ、国内だったとしてもお気をつけください。ジュエル様。しばらくアンドレイ様のお酒は控えさせては?」


「そうね。一年くらいは断酒させましょう」


「待て!? リリス! ジュエル! それとこれとは!! うっ……頭が……」


「自業自得です、あなた。ともかく、最低一年は断酒決定。従わなければ懲罰です」


「そ、それは……」


「スヴェイン、ニーベ、エリナ。あなた方は二日酔いに効く薬もあるでしょうが渡してはなりませんよ? 今日はこのまま執務にあたってもらいます」


「かしこまりました。お母様」


「スヴェイン、お前まで裏切るのか……」


「お父様が全面的に悪いです。それでは午後の訓練に行って参りますので。ユイは?」


「サリナの面倒を見る。シュミットの表現技法にはまっちゃって止める人間がいないと寝食を忘れそうだから」


「頑張ってください。では、訓練場へ行きましょうか」


 服飾の訓練を行うというサリナさんとその監督を行うユイを残し、午後もまた訓練場へ。


 今日から数日間は貸し切りにしていただいているので非常に安心です。


 見られて困るものはありませんが、流れ弾で怪我をさせずに済むという意味で。


「さて、フランカ。午前中はシャルと稽古をしていたようですがどうでしたか?」


「まだまだです。やはり簡易エンチャント頼りだった頃の癖がなかなか抜けてくれません」


「そればかりは実際の訓練で慣れてもらうしかありませんね。シャルはどうしたいですか?」


「うーん。フランカにもう少し実戦的な稽古をつけてあげたいです。お兄様、『サンクチュアリ』常時発動のようなエンチャントアクセサリーはありませんか?」


「作ればありますよ。ただ、装着者の魔力を吸い取り続けながら発動するので……『マナアクティベーション』の常時発動魔法と【魔力急速回復】と【全属性魔力消費減少】、【聖属性魔力消費減少】のエンチャントを組み込んで魔力消費を減らしましょう」


「あ、あの。そのような国宝級のアクセサリーを簡単に……」


「お兄様ならちょっとの手間で作れるアクセサリーです。何分くらいかかりますか?」


「三十分くらいですね。その間はどうしましょう?」


「では、その間は普通の稽古を。構いませんね、フランカ」


「はい。よろしくお願いいたします。シャルロット様」


「ニーベちゃんとエリナちゃんは……」


「ふたりまとめて私がお相手しますわ」


「ふたり同時のアリア先生は弾幕がきついのです……」


「普段より密度が濃いからね……」


「泣き言を言っている暇があったら準備……はもうできていますね。邪魔にならない場所まで移動して始めましょう」


「はいです」


「わかりました」


 さて、僕はフランカのアクセサリー作りですね。


 剣を扱うと考えると腕輪が望ましいでしょう。


 先ほど挙げた魔法やエンチャントのほかに【自動サイズ調整】に【自己修復】、【エンチャント強化】も組み込みますし土台はオリハルコンとミスリルですかね。


 魔宝石もそんな難しいものではないですし、サクッと作ってしまいましょう。


 魔宝石はできましたし、土台もできました。


 あとは魔宝石を融合させて、ちゃちゃっとエンチャントも施せば……できた!


「シャル、できましたよ」


「本当に三十分で作りましたか。ついでなので【体力急速回復】もかけられませんか? 訓練用には便利ですので」


「大丈夫ですよ。エンチャント枠にはまだまだ余裕があります」


「では【負傷急速回復】と【物理障壁】、【魔法障壁】も」


「……かけられますが、〝怪我をさせます〟って宣言ですよ、それ」


「私もお兄様がコンソールに戻った少し後にはコンソールに戻るのです。そのあとはシュミット家の武官相手になりますし、かけられるだけの保険は用意しておかないと」


「構わないですが……ほかにオーダーは?」


「まだ枠に余裕がありますか。お兄様がいないと追加エンチャントなんて出来ない気難しい装備でしょうし……【体力増強】と【生命力増強】、【生命力回復力増強】。以上はどうです?」


「僕のことを過保護だなんて言えないオーダーですが……まあなんとかなります。あと一枠余りますし、【エンチャント発動切り替え】でも仕込んでおきましょう。普段の訓練時に外して訓練せずともいいように」


「それがいいですね」


「あ、あの。【エンチャント発動切り替え】とは?」


「一部のエンチャントを除いた常時発動型のエンチャントを、任意で無効化したり有効化したり出来るようになるエンチャントですよ。対象外となる一部というのは【自動サイズ調整】などの生活系エンチャントですね」


「そのようなエンチャントの存在、初めて聞きました」


「かける意味があまりなく、それなり以上に高等エンチャントですから知らなくとも無理はありませんよ」


 シャルがまた冷たいことを言っている気がしますが……ともかく腕輪は出来ました。


 さて、フランカに渡さないと。


「出来ましたよ。これがエンチャントアイテムです」


「……あの、これ。金じゃないですよね?」


「お兄様にとっては余り物の素材です。気にせず受け取ってください」


「……つまりオリハルコン」


「あまり気にせずに。僕のマジックバッグの中には山のようにありますから」


「それでは……遠慮なく」


「ええ、どうぞ。『サンクチュアリ』の発動方法ですが、頭の中で念じれば勝手に発動します。最初は難しいでしょうから言葉に出すといいでしょう」


「わかりました。『サンクチュアリ』発動。……え?」


「お兄様。ずいぶん高密度なサンクチュアリですね」


「これくらい頑丈でないと訓練の時はともかく有事の際は不安でしょう?」


「その通りですし、私なら容易く破壊できますが……フランカ、めまいなどは感じませんか?」


「はい。発動した瞬間は少し目の前がぼんやりしましたがすぐに回復しました」


「『マナアクティベーション』なども正常に発動していますね」


「つまり過剰回復状態と」


「そうなります。ただ、この腕輪。『サンクチュアリ』発動状態で結界を破壊されると、自動で再度結界を張ってしまうので魔力を再度消費するんですよね」


「あまりにも高速で破壊され続けると魔力の回復が追いつかず魔力枯渇を起こしますか」


「枯渇してもすぐに回復するのであまり意味がありませんけどね」


「お兄様に任せると危険物ばかり作製しますね」


「そうですか?」


「はい。自重しましょう」


 やっぱりシャルが冷たいです。


 ともかく、シャルはフランカとの訓練を再開。


 今度は魔法もありの実戦形式の稽古に切り替えたようです。


 フランカは剣の稽古か対魔術師戦の稽古しかしたことがないらしく、使を相手取った場合の経験が致命的に不足していた模様。


 シャルの魔法や剣技で『サンクチュアリ』を幾度となく破壊され、時には吹き飛ばされながらも負けずに食らいついていっていました。


 このあたりはオルドの妹ですね。


 さて、僕も用事が終わったし弟子の訓練に……と思ったらニーベちゃんとエリナちゃんはアリアの訓練がきつすぎたみたいで訓練場の外で休んでいました。


 アリアと訓練するわけにもいきませんし、ふたりの回復待ちですね。

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