431.タイムアクセス:スロウ
ニーベちゃんとエリナちゃんが『クイック』を扱うようになって二週間が過ぎました。
彼女たちでもさすがに時空魔法は苦戦したようで、まだ練習不足です。
ただ、『タイムアクセス』は平行して教えた方が効率も良いので次を教えてしまいましょう。
「ふたりとも、『クイック』はそれなりに進みましたね?」
「はいです。魔力枯渇にならないよう注意するのが大変ですが」
「今までこんな苦労をしたことがなかったので」
「テオさんに聞いてきましたが『タイムアクセス』をものにするまで二十年かかったそうです。それくらい難しいです、時空魔法は」
「個人の資質によるって本当なんですね……」
「ボクたち、本当に優秀なんだ」
「そうですね。職業が同じ『道歩む者』になった結果、ニーベちゃんの方が確実に先行しています。ただ、エリナちゃんも遅れているわけではないので焦らないように」
「「はい」」
「よろしい。では次の魔法を教えます」
「え、先生。私たち『クイック』をまだマスターしてないのです」
「はい。それなのに新しい魔法は」
「『クイック』をマスターするためにもこの魔法は平行して覚えた方がいいのです。覚える魔法は『クイック』と同じ『タイムアクセス』に分類される魔法、『スロウ』です」
「『スロウ』……今度は遅くする魔法ですね?」
「そうなります。まずは実演から」
僕は小銭が入った小袋を持ち上げ少し高いところで手を離します。
ですが小袋はゆっくりと落ちていき……最後は落ちる速度とは見合わないほどの大きな音でテーブルに乗りました。
「今のが『スロウ』です。落ちる速度がゆっくりになっていたように見えますが、実際には時間の経過が遅くなっていただけで落ちる速度は変わっていません。テーブルに落ちたときの音がその証明です」
「この魔法も魔力循環が起きていました。難しそうです……」
「そうだね。それに今度は魔力がゆっくりと回っていた。あれが時間の経過を遅くする理由だよ」
「ふたりとも正解です。『スロウ』は『クイック』の対極に当たる魔法。同時に鍛えることでより効率が増します」
「どの程度ずつ振り分ければいいのでしょう?」
「その振り分けもふたりの……いえ、自分のペースに合わせてください。時空魔法は個人の資質が大きく出ます。同じ『タイムアクセス』でも『クイック』が得意な場合と『スロウ』が得意な場合、それぞれに分かれます」
「ちなみに先生はどっちなんですか?」
「僕は『クイック』が得意です。アリアは『スロウ』ですね」
「本当に資質で分かれるんだ……」
「はい。今から別の道を歩めとは言いませんが時空魔法だけは同じペースで進めません。自分の感覚に合わせてどちらが得意か不得意かを見極めて練習してください」
「わかったのです」
「いろいろと試してみます」
「それがいい。とりあえず、今日はふたりが無理をしないか僕が監督します。新しい魔法だからといってはしゃがずに慎重を期すのですよ?」
「『クイック』で懲りたのです……」
「お見苦しいところを……」
「いえいえ。失敗するように仕向けたのは僕ですから。とりあえず、『スロウ』を試してください」
「「はい」」
何回か試してみた結果、ニーベちゃんは『クイック』の方が負担が少ないと感じ、エリナちゃんは『スロウ』の方が疲れなかったようです。
その日以降はふたりそれぞれのペースで時空魔法の練習を行うことになりました。
これがクリアできればまた次の段階へと駒が進むのですが……さすがに『道歩む者』であってもどれだけ時間がかかるか。
ふたりの自主練習も『タイムアクセス』に集中し始めましたし、このまま様子見ですね。
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