437.ホリーの処遇

 さて、とりあえず家に上げたホリーですが……非常に居心地が悪そうです。


 アリア、ユイ、リリスの文字通り刺すような視線に晒され続けているので仕方がないことですが。


「スヴェイン、なんであの子を家に上げたの?」


「スヴェイン様の判断ですので止めはしませんでした。ですが深夜から家の前に座り続けるなどという厄介者。家の敷居をまたがせるなど……」


「まあまあ、とりあえずふたりとも落ち着いて」


「落ち着けない」


「申し訳ありません。ユイと同感です」


 とまあ、僕の言葉も空しくホリーは厳しい視線の中で朝食をとり、隅の椅子で小さく震えながらが訪れるのを待ちます。


 ニーベちゃんに呼びに行ってもらいましたから、それほどかからないはずですが。


「先生、今戻ったのです」


「おお、ホリー王女。こちらにいましたか」


 呼びに行ってもらったのはコウさん。


 これからホリーのです。


「スヴェイン殿、ホリー王女が迷惑をかけ……」


です」


「は?」


「彼女は国の援助を一切受けないと決めてここに来たそうです。なので『星霊の儀式』が終わるまで、彼女はホリーです」


「いや、しかしですな……」


「コウ様。スヴェイン様の言うとおりでございます。今の私はただのホリー。王女などという肩書きは捨て去ってここにいます」


「ですが、大使館では大騒ぎになっていますぞ? 国の王女が書き置きひとつ、わずかばかりのお金を持ち出し、ドレスすら置いて街に抜け出したのですから」


「では、そちらには錬金術師ギルドと商業ギルドの連名で書状を出します。ともかく、ここにいるのはただの少女ホリーです。よろしいですね?」


「わかりました。スヴェイン殿がそこまで念を押すのですから何かお考えがあるのでしょう」


「はい。彼女は僕とアリアに一日数分でいいので指導をつけてほしいと懇願してきました」


 その言葉を聞いた途端、リリスから怒気があふれ出しますが……抑えてください。


「ですが、僕もアリアもそんな時間はない。そんな時間があれば弟子たちに渡す秘伝書を少しでも書き進める方がマシだ」


「それは……嬉しくもありますが……」


「そこでまずコウさんにお願いです。このホリーという少女、あなたの家で下働き見習いとして雇ってはいただけないでしょうか?」


「おう……いえ、ホリーを下働き見習い!?」


「本来なら下働きとして、と言いたいところですが彼女の体力では無理でしょう。彼女の持ち出した路銀は三日分に足りない程度。少なくとも衣食住を与えなければ本当に死んでしまいます」


「ああ、いや……ホリーはそれで構わないのか?」


「はい。構いません。住む場所とお食事、それに服を用意していただけるのでしたら頑張って働きます」


「それではわかりました。ホリーは私が預かります」


「よろしくお願いします。さて、ホリーには別の課題です」


「はい。なんでございましょう?」


「商業ギルドから【魔力操作】について書かれた本を渡されていますね? あれはどうしましたか?」


「……申し訳ありません。荷物になると考え大使館において参りました」


「正直でよろしい。では新しく同じ本を与えます。あなたはこれを読み、二週間以内に【魔力操作】をマスターしなさい」


「【魔力操作】をマスター!?」


「スヴェイン殿、下働きの仕事をしながらですか!?」


「当然です。彼女が大使館を飛び出さなければ余計な苦労をせずにすんだ。それなのに、後先考えず大勢の大人を巻き込んでいます。更にコウさんのお屋敷にご厄介になるのですから、それくらいはしてください」


「あの、もし二週間以内に目標を達成できなければ……」


「金輪際あなたの面倒は見ません。ただそれだけです」


「わかりました。私も『魔術士』。初歩の初歩ですが【魔力操作】の心得はあります。二週間で【魔力操作】のマスター、成し遂げてみせます」


「結構。それからこれを」


「これは……日記帳?」


「あなたはこれから毎日日記をつけること。その日学んだこと、できなかったこと、悔しかったこと、嬉しかったこと。なんでも構いません。必ず日記をつけなさい」


「はい」


「では、今日から二週間後、本当に【魔力操作】をマスターしたか確認に行きます。それまではそれだけに集中なさい。マスターしたあとも必ず手を抜かないこと。いいですね?」


「わかりました」


「それではコウさん。ホリーを連れていってください。あまりにも目に余るようでしたら追い出しても構いません」


「ああ、いや……わかった」


 さて、二週間後にはどうなっているでしょうか?


 甘えが抜けていれば【魔力操作】程度造作もないはずですが……まあ、様子見ですね。

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