438.ホリーの師匠
約束の二週間後、ホリーを訪ねてコウさんのお屋敷を訪ねました。
ニーベちゃんとエリナちゃんを連れて。
「スヴェイン様、お久しゅうございます」
「はい。それで【魔力操作】はどうなりました?」
「マスターできました。ご覧になりますか?」
「当然です。星霊の石板を」
「……どうぞ」
「うん。【魔力操作】マスター、確認しました。日記帳も読ませてください。読まれて困ることは書いてませんね?」
「もちろんです。ご覧ください」
……ふむ、なるほど。
「【魔力操作】、三日前にはマスターしていたようですね」
「はい、できました」
「そのあとはどうしていましたか?」
「その……同室の方々のお邪魔にならないよう気をつけ、魔力を使って遊んでいました。申し訳ありません」
「よろしい」
「え、怒らないのですか?」
「修行をサボっていたわけではないようなので怒る理由もありません」
「修行?」
「とりあえずコウさんのところに向かいます。ついてきなさい」
「は、はい!」
何が何だかわけのわかっていないホリーを連れたままコウさんの元へ。
今は書斎で仕事をしているらしく、応接室で待たせていただく事になりました。
「待たせてしまい申し訳ない」
「いえ。ホリーはきちんと仕事をしていますか?」
「ああ、しているようだ。さすがに下働き見習いの仕事ぶりまで私の耳には入ってこないが、特になにもないということは問題ないのだろう」
「それはよかった。【魔力操作】の課題もマスターしていました。これで次のステップに進ませられます」
「次のステップか。しかし、スヴェイン殿たちは忙しいのだろう?」
「はい、忙しいです。なので、弟子ふたり。ニーベちゃんとエリナちゃんに指導をお願いします」
「えっ!?」
「先生、聞いていないです!!」
「はい、今初めて言いました。逃げられても困るので」
この子たち、先にいえばなにかと理由をつけて逃げ出しそうでしたからね。
師匠から弟子へのサプライズです。
嬉しくないでしょうが。
「先生、私たちが教えるだなんてまだ早すぎるのです!」
「それにボクたちだって修行があります! 時間が減るのは困ります!」
「それ、あなた方が言いますか? 僕はあなた方を十三歳の頃から指導していますよ? それに今でこそ完全に自分の研究を止めていますが、僕やアリアだって本来は自分の研究があったんです」
「それは……」
「その……」
「まあ、いきなり難しいことはいいません。最長一日一時間で結構です」
「最長です?」
「つまり中断してもいいと?」
「はい。彼女が泣き出したり心が折れたら、そこでその日の修行は終了。放り出して帰ってきてください。翌日も心が折れたままだったら修行なしで構いません」
「先生、厳しいのです」
「ボクたちのときよりも厳しいです」
「そうですか? あなた方基準でやっていますよ? あなた方は笑って乗り越えていただけで」
「あう……」
「魔法の修行は最初つらかったけど、泣き出したり投げ出したことはなかったものね……」
本当にこの子たちは我慢強かった。
いえ、できないことすら楽しんでいた、が正しいのでしょう。
「と言うわけです。特に厳しく教える必要もない。一日一時間だけ彼女のために時間を割いてあげてください」
「先生、本音を言うのです」
「先生がこういうお願いをするときはなにか隠している事情があります」
「たいした事情でもありません。あなた方が将来弟子を持ったときの練習ですよ」
「こんな出来の悪い弟子は取らないのです」
「はい。もっとやる気のある人しか弟子にしたくありません」
「そこも含めて練習です。ユイだってサリナさんには散々苦労していたでしょう?」
「……はい」
「……馬鹿姉がご迷惑を」
「ともかくそういうわけなので彼女の面倒を。ああ、あと。彼女の指導の時には特級品以上のポーションを必ず持ち歩くように」
「それくらいは常備薬なのですが……」
「それが何か?」
「明日、指導を始めればすぐにわかります。それではコウさん。明日から日中、最長一時間、ホリーをお借りします」
「あ、ああ。下働き見習いの仕事は多くない。食事の準備時間などを避けてもらえればいくらでも」
「そのあたりの知識は私もあるのです。忙しい時間帯は避けます」
「では、そういうことで。ホリー。あなたの腕、傷跡まみれになると思いますが頑張って。くれぐれもひとりで練習しようとはせずに。指の二本や三本失いますよ?」
「は、はあ?」
まあ、わからないでしょうが仕方がありません。
明日からが地獄の始まりです。
初日は何分耐えられますかね?
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