1037. 砦の活用状況

 各地の工事現場でアリアと一緒に砦を建てて数日、僕は再び建築ギルドを訪ねました。

 砦の活用状況を調べるためです。

 どの程度の効果が得られているでしょうか?


「おう、錬金術の。砦を作ってくれてありがとよ。どの現場もかなり生活環境がよくなったらしいぜ」


「それはよかった。もっと具体的にはどのようなところでしょう?」


「やっぱり、きちんとした部屋の中で眠れるってのが一番大きいみたいだ。テントの中だと、隙間風や雨で空気や地面が冷えることがあるからな。それがなくなっただけでも儲けものらしい」


「なるほど。食事の面ではどうですか?」


「そっちも調理ギルドと話を付けて出張酒場を切り盛りしているぞ。明日まで響かないことがルールだが、いままでに比べると格段にうまいメシと酒が飲めるってんで大好評だ」


 ふむ、ここまでは順調なようです。

 しかし、いいことばかりではないでしょう。

 なにか不便になったところはないのでしょうか?

 そこも確認してみましょうかね。


「不便になったところか……。いや、俺のところまでそういう話は聞いてないな。便所もしっかり決まった場所に付いてるから衛生面もよくなった。個室とまではいかなくても、いままでより少人数で広い部屋を使えるようになったんで、寝心地もいい。朝食と夕食は調理ギルド推薦の酒場の料理人が作るメシだ。いままでに比べれば極楽なんじゃないか?」


「そうですか。ですが、人はそれでも慣れてくれば新たな不満を持ち始めるでしょう。例えば、家に帰ることができないとか」


「うーん、そこがなぁ。できることなら数日程度は帰してやりたいが、そのあとまた来てくれるかが不安でよぉ」


 そうですよね。

 最大の問題は『また来てくれるか』ですよね。

 それなら、こういうのはどうでしょうか?


「もし、帰りたい理由が家族に会いたいなどでしたら、家族の方々を数日砦に招くというのはどうでしょう?」


「なるほど。こっちで家族に会えるなら多少は不安が解消されるか」


「街で待っているご家族の方々も長期間に渡る工事で、復旧作業に来ている作業員たちの安否を直接確かめる術がなかったはずです。悪い考えではないと思いますが」


「よし! その考え、使わせてもらうぜ!」


「あとは……工事を最後まで完了した方々には建築ギルドの仮ギルド証を渡してはいかがでしょうか?」


「ああ、あれか」


 建築ギルドの仮ギルド証とは、昔コンソールのスラムから出稼ぎに来ていた作業員たちに渡されていた身分証です。

 あの頃のスラムの方々は、まだ正式なコンソールの民ではなかったためこのような制度を設けました。

 あとは、本来ギルド員になれないような子どもたちが建築現場で作業するために使われたりとか。

 最後まで参加してくれた方々には身分証を発行してもいいと思うんです。

 これがあれば、建築ギルドからの依頼を受けやすくなるのですからね。

 建築ギルドマスターも悪い考えじゃないと言ってくれましたし、その方向で調整していきましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る