632.見習い錬金術師 トモ 11
翌日ギルドに出勤するとジャニーン先輩に指示されてポーションとマジックポーションを合計二十本作らされた。
それをそのまま持ち出してどこかに行くみたいだけど……持ち出していいのかな?
許可はもらっているからいいって言ってるけど。
「着いたわ。今日の目的地はここよ」
「ここよって……ここ冒険者ギルドですよね?」
「冒険者ギルドにポーションを持ち込んでどうするんですか?」
「行商でもするんですの?」
「まあ、似たようなことと言えば似てるんだけれど。いいから付いてきなさい、昨日のうちに話を通してあるから」
私たちはジャニーン先輩に案内されるまま冒険者ギルドの中へ。
冒険者ギルドに入った事なんてなかったけれど……結構ピリピリしていて怖いかも。
ジャニーン先輩はそんな中でもすいすい進んでいって受付を済ませるし。
「さて、受付の人が目的の方を呼んできてくださるまで少し待ちましょうか」
「目的の方、ですか?」
「ええ。次期冒険者ギルドマスター候補のフラビア様よ」
「次期冒険者ギルドマスター候補!?」
「なぜそのような御方が!?」
「あの方に話すのが一番手っ取り早かったから。ティショウ様やミスト様のお手を煩わせるわけにもいかなかったし」
「あの……ティショウ様やミスト様って冒険者ギルドマスターとサブマスターですよね? そんな気軽に……」
「ミスト様はお忙しいそうだけどティショウ様とフラビア様はかなり暇だそうよ? 昔のギルドマスターみたいにギルドマスタールームから追い出されているみたいだし」
「ええ……」
「そんな情報どこで……」
「フラビア様が前に私たちのアトリエを訪れた時に直接」
「……それっていいんですの?」
「いいんじゃないかしら?」
そんなことを話していると階段の上からハーフエルフの方がひとり降りてきた。
この方がフラビア様かな。
「助かりました、ジャニーンさん。ギルドマスタールームから連れ出していただく理由を作っていただけて」
「……フラビア様?」
「あはは……ミストさんから『私の知識も技術書にまとめろ』と言われているんですけれど、なかなか進まず……」
「よろしいのですか?」
「……昨日、訓練で失敗して大怪我を負った罰なので」
「またですか……」
「シュミットの講師に勝つには防御魔法を使いながらだとまだ無理ですから!」
「相変わらず命知らずですね」
「はい!」
「……フラビア様も自重を覚えましょう」
なんだかフラビア様となら面白いお話ができそう。
ともかく、ジャニーン先輩からなんで私たちが連れて来られたのを聞かなくちゃ。
「ジャニーン先輩、私たちが連れて来られたのって?」
「ああ、あなた方にポーションが実際に使われている場面を見せようと考えて」
「「「え?」」」
「さて、行きましょうか。でも、本当に観客席側じゃなく訓練場側から入るんですか? 本来は冒険者以外立ち入り禁止なんですよ?」
「だからフラビア様にお手数をおかけしていただくのです」
「わかりました。皆さんも流れ弾や弾き飛ばされたほかの冒険者さんには気をつけてください」
「「「は、はい!」」」
私たちはフラビア様に案内され、訓練場の入口へ。
上に登れば観客席みたいだけれど、今回はそのまま奥に進んで下の訓練場に行くみたい。
訓練場なんて観客席からも見たことがなかったけれど……そこで行われていた訓練はとても激しかった。
「どうした! その程度か!?」
「生温い! もっと剣に力を込めろ!!」
「そこ、ボサッとするな! 次、かかってこい!!」
おそらく教官の人たちがほかの冒険者さんを次々なぎ払いながら指導している。
数回程度打ち合える人もいるけれど、そういう人たちは足元が疎かになっているのか足払いをかけられて転ばされ蹴り飛ばされていた。
冒険者さんの訓練ってこんなに激しいんだ……。
「どうですか、冒険者の訓練は?」
「初めて見ましたが……激しいですね」
「うん。もっと穏やかなものかと」
「シュミットの講師が来てから厳しくなったとは伺っていましたが、これほどとは」
「冒険者の皆さんを転ばしているのは皆、冒険者講師の方々です。あれでも大怪我をさせないよう、常に手加減をして鍛えてくれています。受け身を取れない冒険者はときどき骨を折りますけどね?」
「骨を折るって……重症じゃないですか」
「そういうときは私が格安で治療しています。骨折したままだとほかの依頼をこなせないので、皆さん多少の出費は気にせず治していきますよ」
「冒険者ってここまで過酷な仕事だったんだ……」
「訓練の内はまだいいですよ。冒険者講師の方々は死なないように手加減していますから。実戦になれば容赦なく死にます。それが冒険者の世界です」
「……厳しいですわね。聞いていた以上に」
「竜宝国家コンソールはまだ死亡率が低いです。それでも死亡者や行方不明者は毎年何百人と出ます。ランクが上がれば白金貨だって簡単に稼げる世界ですが、ランクが低い内は毎日の食い扶持を稼ぐので精一杯。モンスターと戦うための装備を買うのだって一苦労なんです」
「……そうなんですね」
「その代わりランクが上がればいろいろと不自由も出てきますけどね。さて、私も少し訓練に行ってきます。皆さんは壁際で流れ弾などに気をつけていてください」
「「「はい」」」
説明をしてくださっていたフラビア様は訓練用の杖を手に取ると魔法教官のもとに向かい、訓練を始めた。
フラビア様は魔法障壁を一切張ることなく魔法教官の魔法を自分の魔法をぶつけることで撃ち落とし続けて……確かに命知らずかも。
ただ、そのうち魔法教官の攻撃を撃ち落としきれなくなって魔法障壁を張ることになり、攻撃の手数が少なくなると魔法教官によってはじき飛ばされてしまった。
頭から落ちたし、何回も転がって……擦り傷もいっぱいできていて痛そう……。
でも、フラビア様は平気な顔をしてこちらに戻ってきて、説明を再開してくださった。
「……まあ、私でもこんな感じです。撃ち落とし続けられればなんとか勝てるんですけれど、最近は対策されてきたみたいで勝率が下がっちゃって。私は強いからなかなか手加減してもらえないんです」
「ええと、大丈夫なんですか? かなり派手目に吹き飛ばされていましたが……」
「この程度でしたらいつも通りです。酷いときは障壁が間に合わずに魔法の直撃を何発も受けて血まみれになりますから」
「「「ひえぇぇ……」」」
「服もボロボロにしちゃうからギルドマスタールームには私の着替えが何着も置いてあって……なんだか申し訳ないです」
フラビア様って本当の命知らずだった……。
私じゃそんな真似絶対にできないよ……。
「ほら、あなた方、せっかく作ってきたんだからポーションを渡しなさい」
「あ、そうでした。これ、見習いの私たちが作ったものですがどうぞ」
「ありがとうございます。ふむ、見習いが作ったものにしては色が綺麗ですね。正式な本部採用ですか?」
「まだです。最後のかけらが足りません」
「ああ、なるほど。では早速。……うん、痛みも引きましたし傷も治りました。あなた方が作ってきたポーション、何本ずつですか?」
「ええと、全員ポーションを十五本、マジックポーションを五本ずつ作ってきました」
「そうですか。じゃあ、ギルドでの販売金額は……これだけですね。三等分できる金額にしておいたので分けてください」
「「「え?」」」
「皆さん! ポーションとマジックポーションですが少しだけギルドで用意しました! ただで飲ませてあげますので集まって来てください! 早い者勝ちですよ!!」
「「「フラビア様!?」」」
その言葉を聞いた冒険者さん……休んでいた若い冒険者さんたちが集まって来てフラビア様からポーションやマジックポーションを受け取り飲んでいく。
その時、フラビア様は作製者が私たちだということも告げており……冒険者さんたちは皆私たちに一言お礼を言ってからまた訓練へと戻っていった。
私たちのポーション、ちゃんと効いたんだ……。
「よかったですね。あなた方のポーション、ちゃんと効果を発揮しましたよ」
「「「はい!」」」
私たち、あまり深いことを考えないでポーションを作っていたけれど……やっぱりポーションってお薬だもんね。
きちんと効くかどうかって大事だよね!
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