359.ヴィンドの街並み
「竜宝国家コンソール所属、錬金術師ニーベ。役書きはその書状にも書かれているとおり『新生コンソール錬金術師ギルド』ギルドマスター直下錬金術師なのです」
「同じく錬金術師エリナ。『新生コンソール錬金術師ギルド』ギルドマスター直下錬金術師として働いています」
今回、余計な混乱を生むことは嫌う先生たちには珍しく街門まで聖獣で乗り付けるように指示をされていました。
それでも、既にこの問答が三十分近く続いているのですからたまりません。
聖獣に乗ってやってこられるもの、つまり聖獣の主かそれに認められた者など竜宝国家コンソールを探してもごく少数。
身分証は今日のためにわざわざギルド評議会の方々が発行してくださったと聞きますし、その中に記されている私たちの肩書きも嘘偽りのない本物。
それなのに、こんなくだらない問答だけで三十分も足止めを食らうだなんて……生まれ故郷だからこそ情けないです。
「嬢ちゃんたち、何度も言うが嘘をつくならもっとわかりやすい嘘をだな……」
「嘘など微塵もついていません」
「はい。なんならここでポーションを作成して見せます。ミドルポーションがいいですか? ミドルマジックポーションがいいですか?」
うわあ、ニーベちゃんも相当頭にきてるよ、これ。
普段ならおふざけ半分で言い出す実力行使も本気で言い出しているし……。
「そんなに言うならミドルポーションでも作ってもらおうかな? 本当にお嬢ちゃんたちみたいな子供に……」
「できました。瓶詰めも終わったので、鑑定をどうぞ」
やっぱり本気で怒ってる。
ニーベちゃんはボク以上に職人意識が高いから、腕を見くびられる、それも見知らぬ相手から見くびられるのは許せない行為なんだよね……。
「……おい、本当にミドルポーションだぞ、これ」
「いや、でも。『コンソールブランド』なら……」
「『コンソールブランド』でもミドルポーションは一般流通していないのです」
「作れるのはギルドマスターとギルドマスター直下錬金術師のボクたち、それから卸していないようですがアトモさんくらいですよ」
「アトモ……まさか、元『金翼紫』のアトモ!?」
「はい。そのアトモさんで間違いないと思います」
「ボクたちの実力はわかったのです。通していただけますね?」
「いや、しかし……」
「お前たち、なにを騒いでいる」
「あ、衛兵長」
「この子供たちが入街許可を……」
「身分がしっかりしているなら入街税をとってさっさと通せばいいだろう。なにをこんな騒ぎにしている?」
「あのですね。この子供たちが『新生コンソール錬金術師ギルド』ギルドマスター直下錬金術師を名乗っていまして……」
「はい。それに持って来た書状にも竜宝国家コンソールの最高機関、ギルド評議会の金箔が押してあり、私たちでは判断がつかず」
「なにを馬鹿な。そんなものこうして破り……破り?」
衛兵長さんは、書状をすべて破り捨てようとしましたが傷ひとつ入りません。
タネを知っているボクたちからすれば当然なのですが。
「それは竜宝国家コンソールからの正式な書状なのです」
「かけられているエンチャントの種類は明かせません。ただ、上位竜のブレスでもない限り、傷つけることは不可能だと断言します」
「それに、あくまでも傷つけるだけです。焼き尽くすには相当長い時間ブレスを当て続けるか、最上位竜のブレスを当てるしかないそうです」
「あ……本当に、竜宝国家コンソールの使節?」
「だから最初から言っているのです」
「そろそろ我慢の限界……遅かったようです」
「遅かったとはなにを? うん? 影……竜!?」
はあ、人を怖がらせないように見えない距離から待っているようにお願いしたのに……。
ボクたちがいつまでもじらされているのを見てやってきてしまったじゃないですか。
『愚かな人間どもよ。いつまでも『竜の宝』の中にある『竜の至宝』がひとつを待たせるとは何事です』
『まったく帝やカイザー殿からきつく厳命されていなければ、ブレスのひとつやふたつはいてみせるものを』
「そこまではやめるのです」
「大切に考えていただいているのは伝わりました。でも、これ以上はことを荒立てないでください」
『仕方がありません。『竜の至宝』の望みとあれば』
『ですが、この壁? に入るまではそばに侍ることのお許しを。そこが精一杯の妥協点です』
「……どうするのです、エリナちゃん?」
「竜って頑固者が多いって聞くし諦めよう。……と言うわけで門衛さん。ボクたちが竜宝国家コンソールの関係者であることは百も承知してもらえたと思います。入街税は払いますので通っても構いませんか?」
「ああ、構わない。入街税も免除で……」
「そこは払います。そう言うところはきっちりしないと、あとで先生に怒られてしまうのです」
「散々ルール破りをしておいてなんですが、守れるルールは守らせてください。構いませんよね?」
「あ、ああ。わかった。お前たち、入街税の徴収を」
「衛兵長がやってください!」
「俺たちだって怖いんです!」
「あ、もうひとつルール破りを宣言させてください」
「鳳凰のルビーとフェニックスのクリスタルを馬代わりに街中へ連れ込むことを認めてください。先に許可を取っておかないと勝手に飛んで入ってきますし、それからボクたちの見える護衛も必要ですので」
「り、竜はいなくなってくれるんだよな? 本当にいなくなるんだよな?」
『『竜の至宝』が街に入って少し様子を見たら飛び立ちます』
『ただし、目に見えない高さには待機していますので不埒ものがいればそのものだけは容赦なくブレスで焼き払いますのでご容赦を』
「聖竜さんたち過保護なのです」
「ボクたちでも対処できますよ?」
『それでも心配なのです『竜の至宝』』
『我々、竜にとって『竜の至宝』を持てることの誇りはなによりも尊いのです』
ああ、これは折れてくれないやつです。
ボクたちもですが、心に一本絶対に折れない芯が通っています。
「じゃあ、私たちがどうしようもなくなった時だけです」
「竜宝国家コンソールの名前に傷がつきますからね」
『『竜の誇りにかけて』』
竜の誇りですか……ちょっとかっこいいです。
ボクもいつかは錬金術師の誇りを持ちたいですね。
「それでは通らせていただくのです」
「門を通るだけで大騒ぎにしてしまいすみません」
「ああ、いや。その」
「街中ではお気をつけて」
「大丈夫です、油断はしません」
「先生からは急ごしらえで申し訳ないと謝られましたが、立派なワンドをいただいていますので」
先生は急ごしらえ、と言っていましたが、この木製のワンドは絶対に口外できないほど希少な素材です。
下手なハンマーより打撃力があるはずですから、取り扱いには注意しないと。
「……これがヴィンドの街、ですか」
「ごめんね、あまり活気のない街で」
「いえいえ。昔のコンソールに比べても小さな都市なのは知っていたので気にしません」
「でも……今のコンソールを知っちゃうと本当に活気がないよね」
「……熱気がないのです」
ニーベちゃんの感想はもっともなものでした。
今でこそ、街門前に二匹の竜が鎮座していると言うことでたくさんの人が押しかけていますが……活気が、熱気がまったく感じられません。
私も二年前はこうだったんだ……。
「ニーベちゃん。まずはお爺ちゃんのところへ行こう。ボクの部屋は残っているかもしれないけれど、ふたりで寝るには狭すぎるし」
「私は床でも構わないですよ?」
「ボクが気にするよ! わずかとはいえど姉弟子なんだから!」
「わかりました。先生からも真っ先に顔を出すように指示されていますし行きましょう」
お爺ちゃんたちと会うのも約二年ぶりなんだ……。
お母さんとお父さんは元気に食堂を経営しているかな?
イナお姉ちゃんは元気に歌っているかな?
先生じゃないけれど里心がついちゃいそう。
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