544.ギルド評議会での議論

聖獣とともに歩む隠者書籍版第2巻の発売を記念して一日二話更新をしばらくの間行います!

これは二話目です。

明日の一話目はいつも通り朝7時10分。


聖獣とともに歩む隠者第二巻好評発売中!

よろしくお願いいたします!


――――――――――――――――――――


 シュベルトマン侯爵から非常に危険なお話を聞かせていただいた次のギルド評議会。


 各ギルドの運営状況確認が終わったあとの議題は、シュベルトマン侯爵から伺った話そのものでした。


「……以上がシュベルトマン侯爵から伺った話である。商業ギルドマスター、状況に狂いはあるか?」


「いえ、狂いはございません。確かにコンソールは売るものに比べると買うものが非常に少ない。今でこそ各ギルド内で余剰金として保管していますが、それが市場に出回れば一気に物価高騰を招くでしょう」


「買い付けは進んでいないのか?」


「進んでおりますとも。それでもなお買うものが少ないのです。買ったものに対して高付加価値化して売り出すのが『コンソールブランド』です。金貨一枚で購入した品が金貨数十枚、場合によっては白金貨にすらなる。それがいまのコンソールです」


「それはそれで由々しき事態だな。旧国家群への輸出は?」


「それもほぼ商業ギルドが直接。あまりにも対応が悪い国には二度と輸出しておりませぬ。しかし、そこまで状況が酷いとは……」


 ジェラルドさんの確認にさすがの商業ギルドマスターも想像を超えていたようです。


 商業ギルドマスターの想像できていなかった事態、ほかのギルドマスターが想像できているはずもありません。


国もあるか。となると、輸出入している可能性もあるな」


「そうですな。しかし、それを取り締まる方法は我々にはありません」


「そうなると更に富の偏りを招いている可能性がある。まさか、ここまで大きな事態になっていようとは」


「シュベルトマンの中だけでも輸出を止めちまうか?」


「いえ、建築ギルドマスター。そういうわけにも参りません。『コンソールブランド』を売る目的で行かず、物品の購入だけを目的とした隊商では軋轢を招きます。売る範囲を絞ることはできます。できますが、どれほどの意味があるかは……」


「そうか。安物だけを売るわけにもいかねえか」


「はい。庶民様向けの品だけ売り歩くのは可能です。ですが、今の話を聞くとそれも大丈夫でしょうが無理でしょう。それほどまでにシュベルトマン侯爵の領地内でさえ貧富の格差が広がっております」


「うまくいかないねえ。それでうまく回ると感じている地方領主どもはなにを考えているんだか」


「おそらくなにも考えていないのでございましょう。シュベルトマン侯爵のお話通り『上位職だけですべてが回る』、そう信じているとしか」


「本気で言っているのでしょうかね? 上位職が多くともそれを買う民がいなければどうにもならない……いえ、上位職の方が必要とする素材はどうするおつもりなのか」


「それはほかの街からでも買うつもりじゃないか? すべての街が同じ考えでは意味がないんだが」


「コンソールも自給率を上げねば本当に早晩崩壊しかねん。急ぎ施策を考えねば」


「ですが農業も一種の職人技です。技術がなければどうにもなりませんよ?」


「……錬金術師ギルドマスターの言うとおりか。〝農業ギルド〟がないのがここまで痛いとは」


 この国自体に〝農業ギルド〟の考えがなかったのが痛いのでしょうね。


 農業もまた一種の技術なのに。


「なあ、スヴェインよお。高くついても構わねえ。〝農業〟の技術、売ってもらえるように公太女様と交渉できねえか?」


「先日既にシャルと話しています。お父様にも話していますが難しいと。〝農業〟技術は国の基盤を支える重要な産業です。それを教えることは長年培ってきた技術を手放すということ。僕の薬草栽培の知識よりも遙かに高値です」


「……そうなっちまうか。難しいな」


「あえて話をしていませんでしたが一時しのぎの方法を僕は持っています。持っていますが僕がいなくなれば立ちゆかなくなる方法。国が崩壊するよりはマシなので最終手段として存在だけ伝えておきますが、これを使うときは国作りに失敗した証拠ですので御覚悟を」


「スヴェイン殿に頼り切った時点で国としての形が保てないのは重々承知済みだ。だが、国民を路頭に迷わせる以外の道を知れたのは助かる。感謝しよう」


「感謝を受け入れました。それで、具体的にはどうしますか? シュベルトマン侯爵の領地でも領都付近以外が崩壊しつつある以上、今の時点から対策を打っておかねば共倒れです」


「難しいな。国としての基盤が、農業技術、食糧確保の手段がないというのはあまりにも痛い。第一街壁の内と外だけでも勝手が違うのに更に第二街壁外まで加わる。どのように舵取りをすればよいのか……」


「どこかの村から開拓民を募るのはいかがでございましょう?」


「悪くはないが……移住して定住してもらえても〝農業〟を続けてもらえるか?」


「ああ、そちらの問題がございましたね……」


「今のコンソールは一攫千金を狙う冒険者の集まりみたいなもんだ。村から開拓民を集めてもあまり意味がねえよ」


「冒険者ギルドマスターに言われると重みが違うねえ」


「だが、物作りを得意としても原材料が手に入らなければ回らないのも事実。そこをどう回していくか……」


 難しいでしょうね、この議論は。


 僕だって答えが出ません。


「現在の問題を整理しよう。まず最初に上がり始めたのは各ギルドでの支部員募集に対する素材問題。間違いないな」


「はい、問題ありません」


「次、それに伴って出てきたのが一向に進まない第二街壁外の開拓問題。相違ないな」


「ああ。間違ってない」


「そして、最後。今回持ち込まれたシュベルトマン侯爵からの話。コンソールに富が集中し続けている現状による各地での貧富の格差拡大、および旧国家群で行われているらしい下位職に対する激しい差別と弾圧。それに伴い、更に人口の偏りが進み地方が崩壊しつつある」


「まったくもって嘆かわしいですがそのようです」


「これらを解決する方法が……我々にはない」


「……ですな。我々の専門分野は物作りと商売。素材作りと国外の問題は難しい」


「かと言って販売を止めればそれはそれで角が立つんだろう? 八方塞がりじゃねえか」


「本来、国外の問題はその国で解決する問題ですからね。僕たちが関与する話ではないはずです。ですが、このままではコンソールに人が集まりすぎてコンソールがマヒします。そちらにも口を挟まないことにはどうしようもない」


「コンソールの受け入れを止めることはできねえか?」


「冒険者ギルドマスター、無理がある。今まで受け入れ続けてきたのだ。いきなり止めればそれはそれで混乱を招く」


「だわなあ……」


「それにコンソールに集まってきている方々はほとんどが下位職の方々でしょう。故郷に戻っても居場所はありますまい」


「シュベルトマン領だけでも改革していただければかなり違うのでしょう。ですが、地方領主がその有様では……」


「シュベルトマン侯爵も嘆かれていたよ。いまだに領主である自分に倣うものがいないと。それどころか上位職の割合が増えたことを自慢することしか能のない連中ばかりしかいないらしい。街が一新されてみると本当に『職業優位論』の馬鹿馬鹿しさがよくわかる」


「難しいねえ、本当に。錬金術師ギルドマスター、お前さんでもほかの街で大嵐を起こせないだろう?」


「起こせませんよ、宿屋ギルドマスター。それ以前に僕の大嵐に耐えられる街がどれだけありますか? 旧錬金術師キルドのような根性なしばかりの街で大嵐なんて巻き起こしたら、それこそ街が吹き飛びますよ」


「違いない。当たり前のことを聞いて悪かったよ」


 本当にそんな街で僕が大嵐を起こせばすべてのギルドが消し飛びます。


 それを再建する人員なんていないわけですから、街が文字通りなくなってしまいますね。


「現状、『コンソールブランド』は売り続けるよりほかない。新規の人口流入も止められない。農業開拓の方法も見つからない。ないないばかりじゃねえか」


「まったくでごさいます。いざとなれば少しの間、売るのを止める程度はどのギルドでも耐えられるでしょう。ですが、ほかの街や国から『買いたい』という圧力が止まりません。故に売り続けるよりほか道はない。自分たちの足元が揺らいでいるのにそれを見ないとはあまりにも哀れな」


「議論が空転しているが……持ち帰ってもいい案は出ないだろう。さて、どうしたものか……」


「なにか手っ取り早い方法はねえか? 例えば各街に新しいギルドでも作らせるとか」


「……新しいギルドを作らせる」


「お?」


「ふむ、その手はあるな。冒険者ギルドマスター、なかなかの良案だ」


「お、おう」


「問題は具体的にどうやって新しいギルドを作らせるかですね。新しいギルドを作るのです、古い体制は根こそぎ駆逐しましょう」


「錬金術師ギルドマスターは相変わらず過激だ。だが、それくらいしないと各街の改革は進まないだろう」


「公太女様にご相談してはいかがでしょう。コンソールの文化は吸収していただいたのです。各地方からも下位職の方々を集めていただければ文化侵略にならずに改革できるかも知れません」


「勝手にシュミットの講師を送り込み、不満を覚えている下位職たちを揃えて新しいギルドを作るか。以前、強行採決前に持っていた案に近いが今のコンソールであればその財源も十分にある」


「その際は商業ギルドから素材も融通いたしましょう。安く良質な品が手に入り、自分たちの生活も豊かになる。これ以上ない結果が望めるでしょうね」


「そうと決まれば早速行動開始だ。錬金術師ギルドマスター、いや、スヴェイン殿。シュベルトマン侯爵への連絡、頼まれてくれるか?」


「構いません。結果として各地方領主の首が派手に飛ぶかも知れませんがそこは領主の手腕を発揮していただきましょう」


「それ以外のギルドは各街に送り込む指導員の選別を頼む。シュミット公国の講師任せだけでは問題だろう」


「「「わかりました」」」


「では、今日のギルド評議会は終了だ。儂はこのあと公太女様と面会をして許可をいただいてくる。スヴェイン殿、付き添いを頼む」


「了解しました」


「では動けるようになったときに備え、各ギルド準備を。最初の攻略対象は……一番近い街、ヴィンドだ」


 さて、意外な結果になりましたが面白い事になりそうです。


 強制的にはなりそうですがコンソールとシュミットの熱い風、取り込んでいただきます!


「……なあ、ミスト、フラビア。俺、そんなすごい発言したか?」


「今日一番無自覚なのはあなたですね、ティショウ様」


「そうですね。とんでもない発言でしたよ」

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