144.領都シュミットの今

 思いがけない出迎えがあったあと、カイザーとも合流しシュミットが見えるところまでやってきました。


 するとそこには思いもよらぬ景色が広がっていたのです。


「なんとまぁ……」


「これは……」


『聖獣郷も大概だけど、ヒトの街がこうなっているとはね……』


『さすがに驚かされたな』


 空から見える範囲だけでも様々な聖獣や精霊たちが飛び交っていました。


 種類も僕が従えている種族と同一のものや、僕が従えていない種族のものなど本当にすごい種類です。


 空を飛ぶ聖獣や精霊たちはこちらのことをわずかに警戒していますが、カイザーを恐れているのでしょう。


 こればかりは仕方がありませんね。


 カイザーは聖獣の中でも最強種の一角ですから。


『待っていたぞ。スヴェイン』


「先ほどぶりです。黄龍様」


 先に戻って話を通してくれていた黄龍様が僕たちの元へとまたやってきました。


 それにしても……。


「さすがにこの光景は予想していませんでしたよ。聖獣や精霊、妖精が人間たちの街にこれほど堂々と棲み着いているとは」


『うん? これはお主の考えではないのか?』


「え?」


 僕の考え?


 それはどういう意味でしょうか?


『……ふむ。その様子だと本当に知らされていなかったようだな』


「ええと、なにをでしょう?」


『今は話している時間もなかろう。まずはアンドレイの元へと行け。その上で、ひとまずの対処を考えよ』


「は、はい。それでは失礼いたします」


 うーん、なにか僕がしたのでしょうか?


 まったく記憶にはないのですが。


 僕の拠点……聖獣郷にはを植えたりしていますが、シュミットにいた頃は特になにもした覚えはありません。


 ともかく、お父様やセティ師匠に会って話を聞くのが先決ですね。


「ウィング、ユニ。僕が暮らしていた屋敷は覚えていますね?」


『もちろん』


『当然でしょう』


「では、そちらに降りてください。それ以外の聖獣たちは空で待機。この街にいる聖獣や精霊たちをあまり刺激しないように」


『わかった』


『了解したよ』


 ウィングとユニは空を舞う聖獣や精霊、妖精たちの間をくぐり抜けてシュミット辺境伯邸へと降り立ちます。


「シャル! それにスヴェインとアリアか!」


 僕たちを待ち構えていたのはアンドレイお父様でした。


 うん、三年前に別れたときと変わらぬお姿ですね。


「アンドレイお父様、不肖スヴェイン……」


「改まったあいさつなどどうでもいい! まずは屋敷に入り、今後の対策を練らねば!」


「はい……今後の対策とは対グッドリッジ王国についてでしょうか?」


「それもあるが、それは後回しだ! まずは聖獣様たちや精霊様、妖精たちの怒りを静める方が先決なのだ!」


「はあ……?」


 聖獣たちの怒りを静める?


 どういった意味でしょう?


「シュミット辺境伯、いきなりそう言われてもふたりは混乱するだけですよ?」


「セティ師匠!」


「お久しぶりです、セティ師匠」


「はい、お久しぶりです。それにしても、シャルをコンソールに向かわせて正解でしたね。空振りだったらどうしようかと悩んでいたところです」


「師匠はなぜ僕たちがコンソールにいるとお考えになられたのでしょう?」


「簡単ですよ。錬金術が遅れている国から、僕の書物がほしいと大量発注が来たからね。それも、錬金術や魔法については入門編や初級編ではなく中級編や上級編となっていた。そのような難しい本、欲しがるのは君たちをおいてほかにいないだろうからさ」


「はは……師匠にはお見通しですか」


「おかげで居場所の見当がついてよかったとも言えるけどね。僕たちではこれ以上聖獣様や精霊様の怒りを収めてもらうことは無理なんだよ」


「聖獣の怒りを収めるとはどういうことなんでしょう?」


「そこを話し始めると少し長くなります。立ち話もなんだし、きちんとした部屋でお話しましょう」


「その通りだな。早く怒りを静めてもらいたいのはやまやまだが、同時に状況を説明せねば怒りの原因と静め方もわからぬか。すぐに部屋に通そう。ついてこい」


「はい。ご一緒いたします」


 お父様に案内されて辺境伯邸にある会議室へとたどり着きました。


 参加者は僕とアリア、お父様、セティ師匠、シャルの五人だけですがそれほど大切な話ということでしょう。


「まずは無事であったことを祝わせてもらう、スヴェイン、アリア。どうせお前たちのことだ。シュミット辺境伯領の問題が解決すれば、またどこぞへと飛び去っていくのだろう」


「お父様!?」


「シャル、そこはシュミット辺境伯も僕も織り込み済みだよ。その上で今の事態を収めるためにスヴェインとアリアを探してもらってきたんだ」


「ですが、やはりシュミット辺境伯家を継ぐのにふさわしいのはスヴェインお兄様だと……」


「私もそう考える。だが、スヴェインが帰ってくるとき、連れてきた聖獣の大軍団。あれを見て私もセティ殿も、スヴェインをシュミット辺境伯領にとどめておくことは不可能だと確信したよ」


「でも……」


「シャル。あれだけの大戦力、それもエンシェントドラゴンを従えているのです。そんな存在がいる地域など安心して隣人でいられるはずもありません。スヴェインたちもそれは承知の上ですよね?」


「はい。それを示すためにもエンシェントホーリードラゴンのカイザーに出向いていただきました」


「ならば結構。話を進めよう。スヴェイン、アリア。お前たちが出て行ったあとのグッドリッジ王国については説明を受けているか?」


「はい。シャルから説明を受けております」


「では、そこの話は省かせてもらう。問題はこの三年間で我らシュミット辺境伯領で起こった変化なのだよ」


「お義父さま。外を聖獣や精霊の皆様が多く飛び交っております。地上には地上の聖獣や精霊がたくさん見受けられました。一体なにが起こっているんですの?」


「うむ。スヴェインたちが出て行ったあと、シュミット辺境伯領にはのだ」


 ……それは対処に困るでしょうね。


 人に危害を加えないのであれば追い出すわけにも行かず、共存できるのであれば共存するべき存在、それが聖獣や精霊です。


 ですが、これだけの数が集まれば……困ったものです。

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