542.領都シュベルトマンの拡張工事

聖獣とともに歩む隠者書籍版第2巻の発売を記念して一日二話更新をしばらくの間行います!

これは二話目です。

明日の一話目はいつも通り朝7時10分。


聖獣とともに歩む隠者第二巻好評発売中!

よろしくお願いいたします!


――――――――――――――――――――


 シュベルトマン侯爵から領都の拡張工事を依頼された翌日、早速ロック鳥を出し領都シュベルトマンへ。


 同行者は魔法を使うアリアと心配してついてきたユイです。


 ユイも心配性な。


「ふむ、これが拡張範囲ですか」


「ああ、そうなる。可能だろうか?」


 今回の工事はシュベルトマン侯爵ほか衛兵の皆さんなども参加しています。


 新しい街壁ができたらそのまま警備につくみたいですね。


「問題ありませんわ。薬も十分に持って来ております。ご心配なく」


「……やっぱりスヴェインとアリアでもこの規模の工事だと薬が必要なんだ」


「当然ですわ。私どもの魔力が多いといえど有限。『クリエイト・シティウォール』クラスの魔法を使えば魔力枯渇です。それもスヴェイン様との同時実行で」


「ふたりいないとそもそも使えませんからね、魔力不足で。ユイだってコンソールで暮らしているんだから第二街壁と第三街壁の高さは知っているでしょう? あの規模の魔法を使うのですから無理もないですよ」


「……よかった、念のため私もついてきていて」


「倒れるほどの無理はいたしません」


「壁をひとつ建てるごとに魔力回復のための休憩は取りますよ」


「それでも心配」


「ありがとうございます」


「ええ、心配をおかけいたしますわ。さて、スヴェイン様。そろそろ一枚目を始めませんと」


「そうですね始めましょう」


 ユイと話している間に魔力チャージは完了。


 あとは街壁の範囲にそって魔力の線を……っておや?


「シュベルトマン侯爵、街壁の建設予定範囲内に人がいますよ?」


「なに?」


「そうですわね。道から離れているところですが……複数名がおります」


「今のまま街壁を作るとどうなる?」


「その方々をはじき飛ばしながら街壁が出来上がる……はずです」


「試したことがないのでよくわからないのですが……最悪失敗しますわ」


「どの場所にいるかわかるかね?」


「はい。地図でいうと……このあたりです」


「わかった。衛兵、すぐに確認を!」


「「「はっ!」」」


 衛兵さんたちに確認していただくと、そこでキャンプをしながら暮らしていた方々がいたそうです。


 やはりほかの街からの移住希望者だったようですが……なんでも街の近くにテントを張るにもお金を徴収して回っている連中がいるとか。


 なので、街からほどよく離れて見つからないこの場所で生活していたとのこと。


 それを聞いたシュベルトマン侯爵は頭を抱えていましたね。


「……もうテント村から金銭を巻き上げる者たちがいたのか」


「そのようです。予定範囲内に人はいません。始めてよろしいでしょうか?」


「ああ、始めてくれ」


「それでは。アリア、いきますよ」


「はい、スヴェイン様」


「『『クリエイト・シティウォール』』」


 僕とアリアが魔法を発動させると以前のように魔力の線が地面を駆け抜け、それに沿った形で街壁がせり上がってきます。


 テント村の方々は近寄ってこようとしていますが、衛兵さんたちに押しとどめられていますね。


 そして、魔法使用が終わった僕たちが少しふらついたところをユイがぎゅっと抱き留めてくれました。


「……本当に大丈夫なんだよね? スヴェイン、アリア?」


「大丈夫、ですよ、ユイ」


「エリクシールと、ハイマジックポーション、を飲めば、回復する程度です」


「それ、全然大丈夫じゃない!」


「大丈夫、な方、です。『クリエイト・フォートレス』など、さらにきつい、ですから」


「はい。そして、そろそろ魔力も回復して参りました。ひとりで立てますよ?」


「うー……」


 ユイは渋々といった様子で僕たちから手を離してくれました。


 彼女には心配をかけますが、これもお仕事ですからね。


「スヴェイン殿、アリア夫人。疲れているところ質問なのだが、この街壁はどの程度頑丈なのだ?」


「ええと、上位聖竜の攻撃では罅すら入りませんでした」


「最上位聖竜が攻撃して罅ですわ。何回も攻撃すれば壊れますが……竜相手だとその前に飛んで侵入されるので無意味でしょう」


「あと、最上位竜のブレスにも一分くらい耐えましたね。人間の攻撃手段で破壊することはほぼ不可能でしょう」


「それからこの高さで指や足を引っかけるところもない壁。ロープを投げても届かないでしょうし、人力で登ることもはしごをかけることも実質不可能。内通者による内部からの解放にだけ気をつければ人間同士の戦で落とされることはありませんわ」


「……恐ろしい壁だな。これがコンソールは二重か」


「二重ですね」


「二重ですわ」


「ちなみに素材はなんなのだ?」


「壁は謎です。魔力消費が多い理由は無から有を生み出すためですから」


「扉は表面を鉄でコーティングして偽装したアダマンタイト製。中は……これからご案内いたしますわ」


「中……これを登るのか?」


「魔力で動く昇降機がありますのでご心配なく。昇降機自体はごく微量の魔力で動きます」


「門を開けるための装置はそれなりの魔力が必要ですわ。本日は私とスヴェイン様で開けます」


「頼んだ」


 内部までユイについてきてもらう訳にいかないので彼女は麟音たちに護衛されながら待っていてもらい、シュベルトマン侯爵たちを内部へとご案内します。


 壁の内部にある通路にも驚かれていましたが、開閉装置や対魔法コーティングが施されたオリハルコン製の窓にも大層驚いたようで。


 シュベルトマン侯爵も『この街壁はなんとしても守らねばならないな』とおっしゃっていたので相当厳重な警備を行うのでしょう。


 それから次の街壁予定地に移動したときにも念のために街壁範囲内、あるいは街壁の外部になる場所に暮らしている移住希望者がいないか調べていただきましたが、何家族か暮らしており……シュベルトマン侯爵は更に頭を痛めておりました。


 その後も街壁を建てるたびにふらつく僕とアリアをユイが抱きしめて支えを繰り返し、最後の方ではユイが涙目になってしまいましたね。


 アリアともども心配をかけてしまい申し訳ない所存です。

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