933. 三日目:戦闘終盤

 日が暮れ、夜になると、戦闘も一気に終盤戦となりました。

 カイザーを滅ぼすため、邪竜の『帝』が『帝のブレス』を放ったのです。

 それを防ぐために僕は間に割り込み、時空断層結界と帝の障壁でブロックし、邪竜の『帝』の持つ『帝の力』は大きく削がれました。


 こうなればこちらの方が一気に優勢となるというもの、全員の力を集結させて一気に攻めかかります。

 ブレスが飛び交い、接近戦による爪による攻撃が続き、ようやく邪竜の『帝』にも傷らしい傷が見えてきました。

 あとは一気に攻め立てるだけですね。


『小僧、人の子とは思えぬほどの竜の力を秘めているな……』


「お褒めにあずかり光栄です。これでもかなり鍛えたんですよ」


『小賢しい、実に小賢しいな。人の子が竜の『帝』を名乗ろうなどとは!』


「僕も名乗りたくて名乗っているわけではないんですけどね。いろいろと事情がありまして」


『だが、まだだ! 我も邪竜の『帝』! 簡単に諦めるわけにはいかぬ!』


 邪竜の『帝』から強い瘴気が放たれるとともに、その姿が大きく変容していきました。

 前後の脚からは鋭い骨が何本も突き出し、胴体には無数の口が付いています。

 翼にも棘が生え、頭も竜のものとは思えないほど醜悪なものとなりました。

 これが邪竜の『帝』の切り札ですか。


『コロス……コロス……』


「どうやら思考能力まで低下しているようですね。一気に攻め滅ぼすとしましょう」


『セイリュウゾクハ、ホロボス!』


 その宣言とともに、胴体に現れていた口から同時にブレスが解き放たれました。

 一発一発の威力は少ないものの、全方位に向けて放たれるブレスというのはかなり面倒くさいです。


 なにより、邪竜族のブレスは、すべてを汚染する力があります。

 そうなると、僕たちに当たらなかったブレスのうち、大地に放たれていたブレスは、大地を汚染して死の大地へと変容させてしまいました。

 本当に面倒くさい。


『コロス……コロス……』


「まずいですね。このまま長引かせては倒せても大地の汚染が深刻になります」


『スヴェインよ。『帝のブレス』で一気に勝負を決めてはどうだ?』


「うーん、それしかないですかね。まだ、先ほどの結界で使った力が回復しきれていないのですが」


『仕方があるまい。さすがに、頭を弾き飛ばせば死んでくれるだろう』


「それもそうですね。では、放つまでの守りをお願いします、カイザー」


 僕は『帝のブレス』を放つためのチャージに入ります。

 さすがに僕はなんだかんだ言っても人間なので、『帝のブレス』を放つまでのチャージ時間は人と大差ない防御力になるんですよ。

 神具で守られているとは言え、ドラゴンブレスを受ければ弾き飛ばされますからね。

 狙いが狂います。


 僕がチャージをしている間も、変容した邪竜の『帝』は何度もブレスを放ち、大地を汚染していきます。

 カイザーたちにはなんの効果も与えていませんが、だからこそ厄介ですね。


「カイザー! 『帝のブレス』の準備ができました! 射線から離れてください!」


『待ちわびたぞ!』


 カイザーが僕と邪竜の『帝』の間から離れると、僕は邪竜の『帝』に対して聖竜族の『帝のブレス』を解き放ちます。

 本来の『帝のブレス』ほどの密度はありませんが、邪を滅する浄化のブレスは確かに邪竜の『帝』の頭部を消し飛ばし、その巨体の一部をえぐりました。


『終わったか』


「いえ! まだです! まだ動きます!」


『なに!? 頭部を失っても動くのか!?』


「もはや竜とは呼べないなにかに変質していたようですね。こうなれば全身を吹き飛ばす覚悟で攻め立てますよ!」


『仕方があるまい! 総攻撃を……』


 カイザーが総攻撃を仕掛けるための号令を発しようとしたところ、僕らの背後から極太の魔力のかたまりが飛んできて邪竜の『帝』を撃ち抜き、その身を消し去りました。

 邪竜の帝のいた場所に残されていたのは、邪竜族の『竜帝玉』と思われる宝玉のみ。

 僕は慌ててこれを回収しました。


 それにしても、こんな攻撃ができるのは……。


「スヴェイン様、遅くなりました」


「やはりアリアでしたか。あちらは大丈夫なのですか?」


「『パンツァー』が敵の古代竜エンシェントドラゴンを全滅させたことで敵軍が退きました。それでこちらを手助けに来ることができました」


 あちらにも古代竜エンシェントドラゴンが行っていましたか。

 しかしそうなると、『パンツァー』が滅ぼした竜族の正体が知りたいですね。

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