1024. 冒険者ギルドの準備

 ジェラルドさんのところに行った翌日、今度は冒険者ギルドに顔を出してみました。

 冒険者はいつでもなれる職業ですが、ちょっと確認しておきたいことがあるんですよね。

 それを確かめるためやってきました。

 さて、ティショウさんたちはいるでしょうか?


「おう、スヴェイン。お前が冒険者ギルドに顔を出すなんて珍しいな」


「そうですね。冒険者ギルドにお願いしている新市街の訓練場について確認しておきたく」


「ああ、あれか。どうなってたっけ、ミスト?」


「それくらい覚えておいてくださいな。いまはまだ街道復旧工事に人をとられているため、手をつけることができておりません。候補地のピックアップは完了しておりますので、作業にあたる人員を確保できましたら着工する予定です」


「だとよ。どうした、裏のボスにでも急かされたか?」


「いえ。僕の錬金術士ギルドにもジェラルドさんの医療ギルドにも新市街からの応募者が現れているので、冒険者ギルドの状況はどうなのかなと」


 僕の言葉を聞いて、ティショウさんは少し考え込むような素振りを見せました。

 なにか問題でもあるんでしょうか?


「なにか不都合なことでも?」


「いや、不都合って程じゃないんだが、新市街の連中はどうにも訓練を十分に受けずコンソールを出ていくみたいでな」


「確か、コンソールでは訓練を受けるだけでもお金がもらえましたよね?」


「ああ。ポーションの稼ぎから冒険者への投資として支払っている。だが、その稼ぎだけじゃ物足りないと感じているようなんだ。訓練で支給している金だって外で稼ぐには苦労するのによ」


 なるほど、コンソールだと訓練を受けるだけで報酬を受け取れるため、外に出ればもっと稼げると考えてしまうんですね。

 コンソールの、それも旧市街の出身者なら、そんな危ないことはしないでしょう。

 彼らはまだ旧錬金術士ギルド体制下のまともなポーションにすらありつけなかった時代を忘れていないのですから。


「それを止める先輩はいないのですか?」


「止めてはいるんだよ、先輩冒険者たちは。それでも注意を聞かずにコンソールを出ていきやがる。コンソールで売っている数打ち品の装備だってほかの街で買おうとすれば2倍から3倍はするのによ」


「つまり、装備も貧弱なんですね?」


「そうらしいな。安宿で我慢しながら半年間訓練に通えば、それなりの装備が整うんだ。それすら待てずに出ていくみたいだぜ」


 うーん、それは困りましたね。

 冒険者はギルドこそあれ、あくまでランクによる信用保証と依頼の受発注の機関です。

 一冒険者が望んで別の街に移るというのでしたら止める手段はありません。

 正直、上の人間があれこれ考えても策は出ないでしょうね。


「状況はわかりました。コンソール出身の冒険者で死人が増えるのは心地よいものではありません。裏社会のボスを通じて働きかけができないか検討してみます」


「頼んだ。こっちはこっちで先輩連中に力試しでもさせて思いとどまらせるよう対応策をねる」


 うーん、コンソールの明るい部分にだけ引かれてきた住人が、泥臭いところを知って出ていくのはちょっと想定外でしたね。

 冒険者ギルドとともに冒険者の死亡率を減らしてきたのですが、もう少し周知徹底しましょう。

 こういうところも意識の差ですかね。

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