1025. 裏社会のボスと冒険者について

 ティショウさんから現状を聞いた僕は、早速裏社会のボスへと会いに行きました。

 こういうことはすぐに行動することが大事です。

 あちらも僕のことをそういう男と認識しているようですしね。


「なるほど。だいたいの話はわかった。しかし、あたしにゃわからないんだが、その冒険者ギルドの訓練でもらえる報酬ってのは低いのかい?」


 まあ、ボスの気になるところはそこでしょう。

 そこのところも事前にティショウさんから聞いてきています。


「一日参加すれば、正規品の一般品質ポーションを二本買える程度の報酬です。ちなみに、これを薬草採りなどで集めようとすると、本当に一日中森の中を歩き回っても達成できるか怪しいところです。シュベルトマン領の各錬金術士ギルドでは薬草栽培を行っているので、品質の悪い薬草は買い取りしていない可能性もありますからね」


「ふぅん。コンソールの物価は決して安いとは言えないが、思った以上に高くない。それは新市街も旧市街もそうだ。食料品なんかも同じだってことは商業ギルドが頑張って集めてるってことだろう。そんな恵まれた環境のコンソールを離れたがる馬鹿どもがいるのか」


「冒険者の先輩方も引き留めているらしいんですよ。実力も装備もまだまだ不十分だから、もうしばらく訓練場へ通えと。ただ、毎日毎日訓練を受ける側は、一日何時間も吹き飛ばされ転がされるのが嫌なようです。訓練教官に手も足も出ないのは当然ですが、冒険者仲間にすら手も足も出ないのは嫌だと」


「へぇ。でも、それって本人の力不足だろう? そんなやつが街の外に出て大丈夫なのかねぇ?」


「大丈夫ではないですね。コンソールではそのような冒険者のランクは上がりません。ランクが上がらないということは、護衛依頼などには選ばれないということです。結果的にコンソールから別の街に行くには乗合馬車か徒歩になります。乗合馬車ならよしとして、徒歩だった場合は次の街までたどり着けているかも怪しいですね」


 本当に、ここが怪しいところです。

 コンソールから近隣の街に向かう街道はすべて整備されています。

 脇道に逸れることなく街道沿いをまっすぐ進むのでしたら、なんの問題もなく次の街にたどり着けているでしょう、

 ですが、ここで色気を出して次の街への手土産にしようとモンスターや野獣を狩りに行くと話が変わります。

 まともな実力もないのにそんな存在と戦っては返り討ちにあう可能性が高いです。

 返り討ちにあわなくとも手傷は負うでしょうし、傷を負った状態で荷物を次の街まで運べるかも問題です。

 要するに、ひとりで別の街に行こうとすること自体が大問題なわけですね。


「まあ、状況はわかった。あたしの方からも声をかけるとするよ」


「お願いします。コンソール出身の冒険者はようやく死亡率が減ってきたのに、また増えてきてしまった。これでは僕が錬金術士ギルドを乗っ取ってまで改革した意味がありません」


「そういやあんたは先代ギルドマスターが引きずり落とされたあと、急遽抜擢されてギルド運営に関わるようになったんだったか。その頃はさすがにコンソールにいなかったから、武勇伝を聞いただけだが、研究職の錬金術士はいまの最年長組みとなっている若手以外全員追い出したそうじゃないか。風通しもよくなっただろう」


「風通しはよくなりましたね。そのあと、ポーションの供給力の問題とか、新規募集のあれこれとかいろいろと悩みましたが、今日までなんとかやってきています」


「そうか。ともかく、新市街の冒険者にはあたしから手を回しておくよ。すまなかったね、コンソールの怪童」


「いえ、それでは」


 とりあえず、こちらの釘刺しはこれで大丈夫でしょう。

 あとは、様子を見て今後どうするかの検討です。

 ほかのギルドもちょっと様子を見て回りましょうかね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る