197.買い物あれこれ 中編

 さて、食事が終わればお店巡りの再開です。


 ですが、ここでもまた弟子たちの細かい注文が爆発。


 お眼鏡にかなう道具が本当に見つかってくれません。


 終いには……。


「今の初心者用錬金台でもいい気がしてきました」


「ボクもそんな気がしてきた」


 などと言いだし始めましたよ。


 本当にこの子たちは……。


「あ、先生、少し待ってください!」


 通りをウィングで歩いていたところニーベちゃんがいきなりストップをかけてきました。


「ん? なにかありましたか?」


「あそこの露店! あそこから!」


「そうなの? ボクにはわからないけど……」


「先生、寄っていってください!」


「構いませんよ。少し待っていてください」


 ウィングの進路を変え、ニーベちゃんの指さす露店までやってきました。


「いらっしゃい! って、ペガサス!?」


「驚かせてしまい申し訳ありません。弟子が気になるものを見つけたようでして」


「は、はあ。まあ、よかったら見ていってください」


 この露店はアクセサリーを取り扱っているようです。


 さて、なにがニーベちゃんの興味を引いたのでしょうか?


「……これです! この指輪!!」


「その指輪? ニーベちゃん、それがどうかしたの?」


「なんだかとっても! おじさん、これはいくらですか!?」


「そいつか? それはほとんど失敗品のようなものだからなぁ。銀貨二枚でどうだ?」


? ……まあ、仕方がないのです。はい、銀貨二枚です」


「ま、毎度あり?」


 ニーベちゃんはほかに気になるものがないらしく、エリナちゃんはそもそも興味がないようでした。


 露店のおじさんにはお礼を言ってお別れし、また街をウィングで歩き始めます。


 それにしても


「ニーベちゃん、なんでその指輪がほしかったの?」


「なんだか、こう、ほんわか暖かいのです」


「うん? 先生はなにかわかりますか?」


 ニーベちゃんは感覚派、エリナちゃんは理論派ですか。


 これはタイプが分かれてきましたね。


「もう答えてもいいでしょう。その指輪にはがついています。普通なら金貨数枚は取られてもいい代物。いい買い物でしたね、ニーベちゃん」


「そうなのですか? 卵はどう扱えばいいのでしょう?」


「帰ったら扱い方を教えましょう。エリナちゃんも気になるお店を見つけたら遠慮なく申し出てください」


「わかりました。……あ、あのアクセサリーショップ。少し気になります」


「そうですか? 普通のアクセサリーショップに見えます」


「先生、少し寄ってもいいですか?」


「ええ、もちろん」


 エリナちゃんが立ち寄ったアクセサリーショップでも妖精の卵がついたアクセサリーを銀貨五枚で購入。


 なんでしょうか、僕が目指している社会教育とは違う気がします。


 その後も錬金術道具店ではダメ出しをし続け、宝石の露店では小粒な宝石を買い占めるなどしました。


 なんでしょう、このまま帰るとアリアにものすごく怒られそうな気がしますよ?


「うーん、錬金術道具ってそんなに重要なのですか?」


「ボクに聞かれても……ボクもあまり大切じゃない気がしてきているし」


 もう二十軒以上錬金術道具店をあとにした頃、弟子たちはとうとう道具の重要性に疑問符すらつけ始めました。


 大切なんですよ、本当は!


 僕は国を出る頃にはすでに自作した方が安定する道具を作れるようになっていただけで!


 ……あれ?


 これって、ふたりにも素材だけ買わせて道具を自作する方法を教えてもいいのでは?


「先生、どうしたのです?」


「どうしましたか? 急に空を見上げて」


「……いえ、ちょっとばかり考え事を」


 困りました、僕も道具を自作していたので『買う』重要性を教えられません。


 よくよく思い返せば、僕が使っていた錬金台はシュミットではおばあさまが残してくれたものです。


 グッドリッジ王国王都にあった屋敷では別に購入した錬金台を使っていましたが……あれ?


 グッドリッジ王国を出奔した際に持ち出した錬金台はセティ師匠から作り方を教わり自作した錬金台で……。


 おやおや?


 これって僕も錬金台を『買って』更新した経験がないのでは?


 普段使い用に初心者向けの錬金台を常に持ち歩くようセティ師匠から指導を受けていたのでそれは持ち歩いていましたが……。


 あれ?


「先生、本当にどうしたのです?」


「さっきから難しい顔をされていますよ?」


『スヴェインは難しいことを考えているんだよ。困ったことにさ』


「そうなのですか?」


『そうなのさ』


 心を読まないでください、ウィング。


 ……うん、もうダメだったら仕方がありません。


 全部のお店を見て回ってもダメでしたら素材を購入させて錬金術道具を自作させましょう!


「あ、顔つきが穏やかになったのです」


「眉間のしわがなくなりましたね」


『決心がついただけさ』


 この国の錬金術道具の水準が低かったのであれば仕方がありませんよね。


 道具もいずれは自作させる予定でしたし、それが少し、いえとても早まっただけです!


 そんな決心がついたあとまた何軒かダメ出しをされ、いよいよ計画を実行するしかないかと考えていたとき、ある錬金術道具店の前で声をかけられました。


「ギルドマスター? なぜこのような場所に?」


「あなたは……ヤニックでしたね。今日はお休みですか?」


「はい。ギルドマスター、それにお弟子様たちまで。今日はどのようなご用件ですか?」


「実は弟子たちの錬金術道具を更新しようと探し回っているのです。ですが、ふたりのお眼鏡にかなうものがなかなか見つからず……」


 僕の真剣な顔を見てヤニックは不思議そうな顔をしています。


 そして一言。


「あの、錬金術道具でしたらギルドマスターがお作りになる方が安くて性能がよいものを手に入れられるかと」


「……ふたりの社会教育も兼ねているのです」


「なるほど。それでしたら、ここの道具屋のオババに相談してみるといいかもしれません」


「ここの道具屋のオババに相談、ですか」


「はい。ここの道具屋は高性能なものが揃っておりオーダーにあわせて調整もしてくれます。値段もその分、かなり高めな部類なのですが」


「ヤニック、あなたのお給金でも高いと感じる程ですか?」


「はい。ですが、満足できる品を購入できました」


「情報をありがとう。期待させていただきます」


「いえ、ギルドマスターのお役に立てたのでしたら。それでは、私はこれで」


 さて、今の錬金術師ギルド構成員がおすすめするほどのお店とはいかほどか。


 期待できますね。


 弟子ふたりはあまり期待していませんが。

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